武術学園 ~ 次男スピネル 其の3
「はぁ。なるほどなるほど。いやはや、凄いねぇ」
一通りを聞き終えたスピネルが感嘆の声を漏らした。
「とにかく、まずは労わないと。君達、何はともあれご苦労様。同時に申し訳ない。まさかこんな事態になるとは想定していなかったよ。なので、評価については特別に大きく色を付けたい。オブシディアン=サーズ、パール=ファウスト、グランディ=フォーライツ」
「「「ハイッ」」」
「先ず、君達3人はクエスト達成の報酬に加え、僕個人から特別報酬を支給。同時に学園ランクを修正する。今回の功績と今までの評価を加味し、3名共に2位に昇格とする。以上」
「え、いいんですか?」
「2位って事は、ジェット様に次ぐ……」
「まぁ、彼はちょっとばかしクエストをこなしすぎているから流石に超えるのは無理筋だけど、まぁ腐らず頑張ってよ。さて、次は伊佐凪竜一クン」
「はい」
「評価の前に先ずランクについて話しておくね。学園には生徒同士の切磋琢磨を目的にランクを付ける習わしがあるんだ。主に模擬戦の成績とクエストごとに割り振られたポイントによって決められるんだけど、現在のトップは僕の弟ジェット。で、その次に彼等という風にランクが付けられる。勿論上位者は近衛や鉄騎兵になった時に色々と有利だよ。で、君なんだけど、正直異例尽くしなんだよね。入学初日にクエスト参加、しかもランクがついてない状態で魔獣討伐を成功させちゃった。流石にこんな人材を想定した評価基準は無くて、どうしようか困ったのだけど……ま、たぶん誰も文句言わないでしょ。君、ジェットと同じ1位決定ね」
1位ですか。まぁ嬉しいと言えば嬉しいんだけど、正直余りにもトントン拍子で実感がわかないなぁ。
「ううぉおおお!!」
「マジか。あのジェット様と同じ……」
「アンタ、やっぱ化け物だわ」
パールさん、最後の一言は絶対に余計だよね?
「妥当ですね」
「そうだね。ま、ジェットも何も言わないでしょ?それに彼の場合、クエストと遠征が目的で順位は後から勝手についてきたって感じだからね」
「そうだな。だけどアレで融通の利かないところもあるし、思い立ったら一直線な愚直さもある。場合によっては……」
「ご心配なく、その時は理事長権限で止めるよ」
エンジェラの懸念にスピネルはため息交じりにそう答えた。どうやら顔を見たことが無い三男は相当に頑固で融通が利かないようだ。
「そうして頂けると助かります。では私は本件の調査を進めますが、場合によっては協力してもらいますよ?」
「オッケー。って……実は僕も相当頭に来てるんだよね」
和やかに終わるかと思えた空気が一気に変わった。それまで緩かった理事長の雰囲気の変化に浮足立っていたトリオの表情が一気に強張った。
「君達を含む生徒全員はリブラの財産に等しい。1人に一体幾ら金を掛けていると思ってるんだ。ソレなのに簡単に切り捨てるような真似しやがって」
徐々に口調が悪くなる理事長を見たオブシディアン達は固唾を呑んで見守る。さっきまでの喜びは何処えやら、だ。
「誰が狙われたか分からない。場合によっては学園自体が狙いかも知れないが、とにかくこの件は此方でも調査しておく。君達、今回の件については特に何を言うなとは指示しないけど、不確定な情報については慎重に取り扱うように」
「「「ハイ」」」
「分かりました」
「では以上。今日はもう帰って休んでも良いよ」
そう語った理事長は何時もの口調に戻っており、表情もまた同じく朗らかな笑みを浮かべている。が、ソレが見せかけなのは明白だ。ピリ付いた空気は退室するまで変わらず、またチクチクと肌を突き刺す気迫も消えることは無かったからだ。無言の怒りに押されるまま、俺達は部屋を後にした。
※※※
「お前等、マジで魔獣討伐したのか?」
退室した俺達を出迎えたのは大勢の生徒達と、その最前列にいた1人が発した言葉。
「しかもコカトライズだって?死亡率トップクラスの危険なヤツじゃん?」
「違うよ。正確には邪魔にならない場所に移動してもらったのさ。流石に僕達だけじゃあ無理だよ」
「え、どうやってさ?」
「まぁ、明日にでもちゃんと話すよ」
人数に対し少々手狭なスペースに集まった生徒達はひたすらに3人を質問攻めにする。どうやら彼等の知り合いらしく何とも微笑ましい光景だ。
一方、流石に俺の前には誰もいない。と言うか……意図して近寄らないというか……隣にエンジェラがいるし、何よりこっちに知り合いいないしね。ちょっと寂しい。
「君達。今回の件はご苦労だった。今日はゆっくり帰って休め……と、言いたいが直に私の使いが話を聞きに来ると思うからその対応だけ宜しく頼む」
その言葉に3人と俺は仲良く互いを見合わせた。誰もが彼女と交わした約束を思い出した……理事長には意図して伝えなかった話だ。
※※※
――2日前
「君達、確かリブラの生徒?懐かしいな……ってお前は伊佐凪竜一!!なんでここに?」
リブラ郊外の大規模農場を去り行くコカトライズを呆然と見送った俺達の背中から聞き覚えのある男の声が聞こえた。後、ついでに肌を刺すような殺意も。
「「「カカカカカカカカカカカカカカカルセドォ!!」」」
やはりカルセドだった。相変わらず背後からそっと近づくの止めなさい、って誰だよ今突拍子もない驚き方したの。いや、お前等かい。
「アンタこそなんでここに!!」
「いや、なんでって……」
「ソレを聞きたいのはコッチだ。何故リブラ武術学園の生徒がこんな危険な場所に居る?」
「エ、エンジェラ様まで!?」
叫ぶグランディの視線の先にはエンジェラも居た。まぁ当然と言えば当然だけど、だけどなんでココに?
「わ、我々は学園からのクエストで……」
「嘘を付け。幾ら何でもスピネルがこんな無謀な真似を許す筈が無い。何より今回の依頼は近衛が請け負ったのだぞ?」
「えぇ。ギルドマスターからの依頼は2日前。ですが妙に来てほしくない風な口振りがどうにも腑に落ちなくて、だからこうして来てみたら……という訳だけども、その話ホント?」
エンジェラもカルセドも、その後ろで直立不動で立つ数名の近衛達もグランディの説明を怪訝そうな表情で見つめる。
「書状もありますよ」
全く信用していない感情を隠そうともしないエンジェラ達に、ならばとオブシディアンは証拠となる書状を見せた。暫くもするとエンジェラとカルセドの顔色が一気に悪化した。
「何だこれは?」
「正気か?生徒に回すようなレベルじゃないぞ!?」
「ソレ、去年まで生徒だったアンタが言う!?」
2人共も書状を見るや驚き唖然とした。やはり生徒向きではないらしいが、一方でパールの不機嫌そうな口ぶりからするに優秀であれば受注も可能らしい。カルセドも多分、魔獣討伐に近い成果を上げていたんだろうな。
「しかし、そのコカトライズの姿が見えんが?」
「どいてもらいましたぁ」
「どいてって……話通じるのか?」
「はい。実際、彼の頼みを聞いて少し離れた小高い丘に移動しました」
「彼?」
パールに促される様に全員が視線を移した先には一目で毒を浴びたと分かる惨状のブルー。
「毒を浴びたのか?」
「はい。解毒は完了しているのですが、でも体表の毒を洗い流す浄水の用意が間に合わなくて……」
「カルセド。渡してやれ」
「はッ」
エンジェラの指示にカルセドが動く。傍にいた近衛を伴いブルーの元へと駆け寄り、透明な瓶の中の水をゆっくりと回しかけ始めた。
「しかし、今年の魔術学舎の生徒は優秀な人材が多いんですかね?上級解毒魔術を使えるなんて聞いたことが無い」
ブルーの体表の毒を洗い落とすカルセドが感嘆の声を上げた。事実、猛毒を真面に受けたブルーの体調は徐々に戻り始めている。青ざめた顔に血色が戻り、震えていた身体は落ち着きを取り戻した。体表の毒が洗い流された影響だが、そもそも解毒が成功していなければこうはなっていないらしい。
「使ったのは、お、俺じゃなくてラベンダー……そこのエルフで、です」
「そうか。なら納得が行くか」
しどろもどろなブルーの告白に対し、ラベンダー正体を知るエンジェラは何とも気まずい表情で彼女をジッと見つめ、それ以外の全員はそんなエンジェラの態度に奇異の表情を浮かべる。が――
「えぇ。アメジスト総裁ならば苦もない。そうですよね、総裁?」
ラベンダーの正体を看破したブルーが声を上げた。君、なんでそんな無駄に優秀なん?
「え?」
「あららら?分かっちゃいました?」
が、ココで正体ばらすのはちょっと不味いな。彼、意外と気が回るし頭も回るが、流石に俺達の状況に配慮しろと言うのは無理だよね。
「「「「ヒアアアアアアァァァア!!」」」」
ほら。4人仲良く脳の限界超えたじゃないか、ってブルー君?正体を看破したキミがなんで一緒に驚いているんだい?
「アアアアアアアメメメメエエアメメメエエエエエエエエッ!?」
カルセド君も壊れるなぁ。と言うか、よくよく考えてみれば君が一番限界超えるよね。あ、完全に壊れた。




