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編入試験の終わり 其の1

 ――夜


「ナ~ギ~くぅん」


 はい、スイマセン。


「わーたしになぁにか言うことあるよねぇ?」


 はい、申し訳ございません。


「謝るだぁけじゃぁ分からないよねぇ?」


 はい、約束を破って大変ごめんなさい。


「オイ、ゴルァ」


 ハイペリオンから宿泊施設に戻って来たルチルが上機嫌だったのは一瞬の間。またしても俺が派手に目立ったと知るや彼女はこうやって俺をネチネチと責め始めた訳で、だけど俺としても不可抗力と言うか――色々な要素が重なった結果としてあぁなってしまった訳でして。


「言い訳は聞きたくないなァ。わーたしが色々頑張ってる最中に約束破っちゃうナ~ギ~くぅんには一体どういう罰が良いかなぁ?」


「は、ハイ。私、私!!私もやりたい!!」


 そんなネチネチとした責め苦に横やりが入った。が、アメジスト君さぁ、俺と一緒に責められてるのになんでそんな生き生きと返事してるワケ?


「お前も大概だろ!!魔術学舎に留学って名目で来てるのに、何をどうしたら試験会場吹っ飛ばすなんて愉快な事態になるんだよこンの大馬鹿野郎!!」


「だってぇ……」


「なんで!!お前らは!!目立つなって言ってるのに!!これ以上ないド派手な目立ち方をするんだ!!」


「すいません」

「ごめんなさぁい」


 ルチルの怒りはピークに達していて、下手に反論も言い訳もできない。鉄騎兵の時と同じで殆ど巻き添えなんだけど、言い訳をしても逆効果なのは知っているので誠心誠意謝り倒しました。


「ナギの件はまだいい。アンダルサイトとエンジェラが口止めに走ってるみたいだからな。だけどお前……お前ッ!!」


 が、どうやら怒り心頭の理由は俺じゃなくてアメジストの方らしい。


「私だって頑張ったんですよぉ?みんなと一緒に初等級魔術を使っただけなんですぅ」


「それが何で試験会場全壊なんて面白愉快な結果に繋がるんだって聞いてんだろうが!!」


「だってぇ。皆が『まぁ、エルフなのにあんな程度なの?』なぁんて馬鹿にするもんだからつい」


「ついうっかりで会場吹っ飛ばすんじゃねぇよ!!」


 確かに。ぐうの音も出ない正論です。いや、改めて聞くと試験会場全壊って相当酷いな。


「とにかく、これ以上は目立つな。絶対だぞ。特にナギは以後絶対に自重しろ」


 頑張ります。


「良し。ならこの件でこれ以上は詮索しない」


 助かった――筈だがルチルの俺を見る目が未だ冷たい。もう終わったと信じたいんですけど。が、怒り収まらぬルチルが何かを語ろうとしたその時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。こんな時間に誰だろう、床に正座させられ痺れた足を引き摺りながら立ち上がると――


「ハイよ」


 ルチルが勝手に扉を開けていた。皆さんご存じかと思うんですけど、ここ俺の部屋なんですよね。


「ルチル殿?戻っていたのだな」


「あぁ。今日はアイツ等が色々と迷惑をかけて済まない。試験会場の件については()()も酷くお怒りでね、()()()()()()()()賠償すると言っていたよ」


「えぇ。私言って……」


 アメジスト君、ちょっと黙って(ステイ)


「そうか。被害の規模に対し怪我人は特にいなかったようだから大事には至っておらんが、好意は素直に甘えておこう。しかし、困ったな。菓子折りを持ってきたのだが、こうも人が居るとは思わなんだ」


 もはや当然のごとく自分の部屋みたいに扱うルチルとエンジェラは、部屋に入るや机に菓子折りを置き、手早く更に取り分けると、部屋の端にある冷蔵庫|(の様な機能を持った箱)から適当な飲み物を物色、勝手に2人で食べ始めた。ホントにさぁ、君達なんなの?


「さて、幾つか報告があります。リュウイチ様、ルチル殿に絞られた後の様で大変申し訳ないのですが、本日の試験は人類統一連合の仕業と判明しまして」


「おいおい」


「マジすか?」


「はえー」


 その言葉に俺達3人は仲良く驚いた。いや、俺は何となく予想着いていたんだが、はっきりと言われるとやっぱり驚いてしまう。


「あの試験官、試験中にリュウイチ様を殺害するよう何者かから指示を受け取っていたようだ」


「その言い方するって事は、正体は分からないんだね」


「えぇ。指示は基本的に手紙、しかも徹底して素性が分からない様な工作が施されています。ですがこれではっきりとしました。指示のタイミングから判断すれば間違いなく兄弟の中に人類統一連合の協力者がいます。リュウイチ様が私に案内される形で父上に会ったという情報を外部の何者かが知るなど不可能ですよ」


「なるほどなるほど……だから皇帝と会わせたのか」


 エンジェラの説明にルチルは合点がいったような反応を返した。なるほど、だから俺が皇帝と会う必要があったんですね。


「でもさぁ、エンジェラちゃん?」


「どうされた?」


「ナギ君と婚約ってのはどういうつもりさ?」


 ルチルがそう詰めた瞬間、部屋の空気が一気に張り詰めた。冷たい、冷たいよ。


「どう、とは?」


「そこまでする必要あったのかなぁってさ?」


「しかし、一番怪しまれませんよ?」


「そうか?アタシとナギの結婚式への参加要請って話でも別に怪しくはないよね?」


「あの、あの。私も……」


 はいはい。今、すごく大事な話してるから君は黙っておこうね。って言うか縛って良い?オイ、喜ぶな目を潤ますな優しくしてくださいとか言うな。


「こう言っては何ですが、もし婚姻という体裁をとるおつもりならば、その相手はリュウイチ様とアメジスト総裁でなければとても父上を呼ぶ理由にはなりませんよ?そうですよね、総裁?」


「むー?」

(はい?)


「な、何をしてらっしゃる?」


 不意に俺達の方を向いたエンジェラは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。スイマセン。話の邪魔になるかと思って猿ぐつわしようとしてただけなんですけど――


「やっぱバレるかぁ」


 ルチルは大きなため息を漏らすと、エンジェラの持ってきた菓子折りを乱雑に突き始めた。


「今のところ私以外にはバレていないでしょうが、これ以上暴れるとなれば時間の問題ですよ?」


「むー、むむむむむむ」

(はい、きをつけます)


「ところで何時までその状態?あの、そうは見えないんですけど……あの方はアメジスト総裁なんですよね?」


「はい、残念ながら」

「はい、残念ながら」


 俺とルチルの言葉が重なった。本当に残念ですが、その通りなんです。

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