編入試験 ~ 長男アンダルサイト 其の2
「「「「「「う……嘘でしょ!!」」」」」」
先生方もびっくり、生徒もびっくりだし親御さんもびっくりしているよきっと。それにあの落ち着いた僧侶のお姉さんも目を丸くしているし――ジルコーォン、なんでアンタだけは笑ってるの?なんで親指立ててるの?これ爆笑してる状況じゃないよね?俺?俺もびっくりだよ、笑えないよ、寧ろこれバレたらルチルに何要求されるか分かったもんじゃないんですけど!!
「父上の件だよ。エンジェラも同席していた点を踏まえれば、お前は妹の婚約者で間違いない。そうだろう?」
「いやいやいやいやいやいやいや!!ちが、ちっちつっちち!!」
「うむ、その通りだ」
ジルコーーーーーーーォン。あんた何言ってんの!!が、何やら俺に必死で目配せをしているのに気づいた。アレは――ハッ、と察した。
人類統一連合となっている3兄弟を探るという真の目的を逸らす良い目隠しだと。そう言いたいんですね絶対そうですよね楽しんでる訳じゃないですよね?信じますよ。とは言え、コレを認めるには相当勇気がいるんですが――と言うか先ず本人に話を通さないと。あぁ、頭が痛い。
「隠そうとした理由は理解するさ。あの跳ねっかえりの婚約者と分かれば特別待遇は必死、だがそれは貴様の本意ではないのだろう?自力で鉄騎兵か、あるいは近衛に上り詰めたいと条件を出したんだろうが、そんなまどろっこしいことしなくても俺自らが裁定してやるよ」
良かった。コイツ、意外とポンコツだった。勝手に勘違いしてくれ――
「だが、それならば婚約者の言動に注意を払っておくべきだったな?」
ン?何やらまぁた嫌な予感がしますよぉ。ビンビンにね。
「お前と婚約したと当人自らが吹聴していたぞ」
エンジェラァァァァァァァァァァァァァァ!!お前もかァ!!って言うかお前かァ!!
「さて、じゃあ始めようか。凡骨共は気付いていないだろうがお前から妙な気配を感じる。見せてみろ、エンジェラが認めた力を。俺にッ!!」
アンダルサイトが叫ぶ。浮足立っていた全員の意識が一点に集中した。裂帛の気迫が緩い空気を一気に吹き飛ばし、緊張と緊迫が場を支配した。直後、ドンという大きな衝撃に続いて背後に激痛が走った。痛い、激痛と身体を貫く衝撃でまともに呼吸が出来ない。
「どうした?ハンデのつもりか?それともこの程度か?」
朦朧とした意識が泰然とした男の声に向かう。ついさっきまで俺と話していた男が遥か遠くに見える。どうやら思い切り殴り飛ばされたようだ。色々と整理がつかない内に始まったなんて言い訳にならないし、許してくれる状況でもない。婚約者どうのこうのは置いておこう。今はこの状況をうまく切り抜ける方を優先しないと。
「ほう、立ち上がるか?」
「おいおい、直撃しただろ?」
「アレで立てるのか?どんなタフネスだよ?」
遠くからまた男の声が聞こえ、続いて動揺する声が幾つも重なって聞こえた。直後――再びドン、と大きな衝撃が走った。
「なるほど、思ったよりも早いな。もう慣れたか」
危なかった。今度はちゃんと防げた。が、何だコイツ。防げたはいいけど、両腕が吹き飛ぶんじゃないかって位の衝撃だった。カル何とかの攻撃も桁違いだったけどコイツそれ以上じゃないか。この都市はこんな化け物クラスがうようよいるのか?
「がァ!!加減したまま負けるつもりか貴様ッ!!」
至近距離から怒号が飛んだ。同時、攻撃のモーションが見えた。握り込んだ拳が仄かに輝き、そのまま力任せに叩きつける。喰らったらマズイ、ソレだけは分かる。
「今度は避けたか。段々慣れてきたようだなァ?」
背後からの凄まじい衝撃に続いて男の余裕の声が聞こえて来た。避けられて当然とでも言わんばかりだ。危なかった。が、これ以上はマズい。
「やっと、やる気になったかァ」
反射的、気づけば反撃していた。手が痺れていた影響か余裕で回避されてしまったが、それでも本気に近かった。それなのにあっさりと避けられた。本気とかバレるのバレないのとかどうとか言ってる状況じゃない。
コイツ、さっきの強かった試験官がクソ雑魚ナメクジレベルに見えるほど強い。少なくとも攻撃力はオークレベルかそれ以上。コレが人類って、バグか突然変異だろ?挙句に加減するつもりは無いらしい。
「コッチも身体が温まって来た頃だ」
マジかよ。男はそのまま力任せに拳を叩きこんでくる。紙一重で交わすが衝撃が凄まじい。喰らえば間違いなく気絶、最悪死ぬレベルの重い一撃。俺はその合間を縫って反撃するが、コッチも間一髪で回避される。
「気に入らんなお前ッ!!」
言葉に怒りが混ざり始め、ソレに伴い攻撃も苛烈になる。今度は足を思い切り振り上げた、踵落としだ。手よりはモーションが遅い――だから余裕をもって回避できたが、その一撃は激しい衝撃と共に地面を陥没させた。嘘だろ?と思考が逸れた直後、今度は横凪の蹴りに入る姿勢が見えた。喰らえばタダでは済まない連撃。頭に色々な可能性が過る。
直撃すればタダでは済まない。良くて気絶、最悪死ぬ。秤に掛けるのは命と約束。いや、約束じゃない。不条理を止めたい。人が無意味に死ぬ、ソレを止めたい。人類統一連合とかいう思想も理念も共感できない連中を止めたいというもっと大切な願いと一緒に色々な光景が頭の中に浮かび、通り過ぎ、消えていく。




