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編入試験 ~ 長男アンダルサイト 其の1

「もう始まっていたか。しかし、なるほど俺の予想通りお前の勝か」


 アンダルサイトが不敵な笑みを浮かべながら俺へと歩み寄る。全員の視線が再び俺に集まった。スイマセン、のっぴきならない事情で目立てないんです。だから見ないで見つめないで睨まないで。


「え?」


「どういう事?」


 生徒達も教職員もアンダルサイトの言葉の意味を理解できず、俺とその男を交互に見つめるばかり。


「そうか、誰も知らなかったな。まぁそうか。何があったかは訳あって伏せるが、その男は20人近い鉄騎兵を一方的に叩きのめしている。しかも無傷でな」


 その言葉に全員の視線が一気に集まった。マズいよマズいよコレ非常にマズいですよ。いや、これ想定外じゃん?


「その程度ならばジルコンが推薦する位だから別に驚きもしなかったが、だが……お前、昨日父上に会っているな?」


「は?」


「こ・う・て・い?」


「嘘でしょ?」


 ダメ押しの追求に周囲は一気に騒然とした。不味いマズいバレるバレる、いきなりこの話が終わってしまう。お願いしますこれ以上余計な事を言わないで?


「いや、どうかなあ?」


「惚けるな?それとも目の前にいる男はそんな程度すら分らん無能だと思ったか?」


 いやあぁあぁぁ。惚けても駄目だ、この人も有能だ。嘘も誤魔化しも通じない。不味い、非常にマズい。何とかしないと――


「おい。試験はもう終わりか?」


「い、いえ。それは……」


「続けるのか?なら次は誰が相手だ?」


「わ、私の予定です」


 気が気ではない俺を他所に向こうの話はサクサク進む。次の試験官が名乗り出ると、アンダルサイトは背後に立つ僧侶風の女に目配せをした。女は無言で頷く。態度に諦観が隠しきれていない。どうやら割と好き勝手する性格らしい。


「俺と代われ」


 ですよねぇ。予想した通り、アンダルサイトは重苦しい鎧を脱ぎ去るや試験官を押しのけ、俺の前に立った。


「へ?」


 その言葉に全員が波打ったように静かになり――


「「「「い、いやいやいやいやいやいや!!」」」」


 直後に驚き目を丸め、仲良く手を顔の前で横に何回も振りながら同じ言葉を叫んだ。


「アンダルサイト様が自ら試験を行うなど聞いたことがありませんよ!!」


「何を固い事を、そもそも俺にはその資格がある筈だが?」


「確かに特別顧問として在籍して頂いてはおりますが……」


「なら問題あるまい。オイ。お前……あー、そいつの名前は何ていうんだ?」


「は、はい。伊佐凪竜一だそうです」


「イサナギリュウイチ?変な名前だな。ジョブズ出身か?まぁ、出身も生まれもどうでも良い。お前、俺と戦え。試験官程度では消化不良だろう?」


 その言葉に生徒達はヒートアップ。先生方も勿論ヒートアップ。もう勘弁してよ。今の俺の顔、きっと真っ青だと思うんです。


「は?消化……」


「ぜ、全力じゃないの?」


「師範を相手に?」


「確かに一撃で倒したけどさ、でも、幾ら何でも……」


「な、何なんだよアイツ?」


 コレは相当マズいですね。目立ってる目立ってるゥ。ルチルのお仕置がスキップしながら近づいてくる幻覚が見える見える。


「無論。断ったとて試験の結果には影響はせん。俺が約束しよう。これは俺個人の問題でもあるのでな」


 ン?ソレはどういう意味でしょう?言葉の意味を俺含め誰一人として理解できず、全員が怪訝(けげん)そうな表情を浮かべた。個人の問題?何でしたっけ?


「昨日、父上と会ったという件だよ。さて、どうする。逃げるか?それとも受けて立つか?」


 どうする。と、必死で考えるが答えは出ない。だけどこの状況、考えようによってはチャンスだ。この男に近づき、人類統一連合かどうか知るには断るよりも受けて立った方が良い。


 別に勝たなくてもいい、いい勝負を演じて友好的な関係になれば良いんだ。雨降って地固まる。昨日の敵は今日の友。ウン、名案。ちょっと目立ったけど、コレで帳消しにしよう。ヨシ、お仕置がその場でタップダンスし始めたぞ。俺は提案に了承の返答を返した。


「良し。エピドート、ソイツの手当を頼む」


 アンダルサイトは満足そうな笑みを背後に投げかけた。程なく、生徒が作る壁が二つに割れ、その間を一人の女が歩いてきた。


 どうやら鎧やら何やらを片付けていたのか、ほんの少しだけ呼吸を荒げる白いローブを纏った女性は少し前アンダルサイトが声を掛けていた人だ。眼鏡の奥の落ち着いた視線は他と同じく俺を値踏みするかのように一度上下したが、血塗れの左腕へと移るや大きく揺らいだ。


「これは……試験にしては随分と酷い傷ですね?」


「鉄騎兵を紙切れみたいにぶっ飛ばす奴だぞ、普通の試験では測れんよ。とにかく頼む」


「なるほど、畏まりました」


 彼女は血塗れの手に触れるとその部分が白く発光し始め、程なく傷口がムズムズとした感触に襲われ、次に(ほの)かに暖かくなり、痛みがドンドンと引いていった。時間にして数秒、彼女が手を離す頃には傷口が完全になくなっていた。相変わらず凄い技術だ。


「コレでフェアだ。方法はお前に合わせるがどうする?見たところ特に武器は持っていないようだが、ステゴロが趣味か?俺は別に何でも構わんぞ」


 怪我の完治を確認するやアンダルサイトの様子が変わった。この人、凄いウキウキしてるよ。なんでこんなに楽しそうなんだ。もしかして戦闘狂?


「じゃあ、素手で」


 俺の回答にアンダルサイトは嬉しそうに口角を歪めた。拳を鳴らし、俺へと歩み寄る。


「さぁ、掛かってこい!!我が妹を娶るなら、俺より強くなければ話にならんぞ!!」


 んんんんンンンンn?おやおやぁ、この人何言ってるんですかねぇ?

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