リブラ帝国 ~ 到着 其の2
「ってお前ー!!死ぬッ、死んでしまうッ!!」
叫んだ。俺は叫んだね。が、悲しいかな願い届かず上空から無数の光線が降り注いだ。幸いにもハイペリオン郊外の森を焼き尽くした桁違いの破壊力ではないようだが、代わりに敵とみなした鉄騎兵を情け容赦なく追尾した。
アメジストを人質に取っていた2人はさながら誘導レーザーの如く追尾する光に焼かれアッサリ戦闘不能。ソレを見た残りの連中は一斉に彼女から距離を取るが、遅れた相当数が吹っ飛ばされた。可哀そうに。
「バカな!!いつの間にあんなレベルの魔法陣を!?」
「あんな真似ができるのは死凶レベルじゃないか、何なんだコイツ!!」
あ、スイマセン。それ以上の詮索は止めて貰って良いですかね?
「あーん。アナタァ、怖かったぁ!!」
アメジストが泣いた振りしながらこっちに走ってくる。が、君はまぁよくそんなウソをしゃあしゃあとつけるな。後、抱き着くな、胸を押し付けるな、上目遣いで見るな目を閉じるな!!どれもこれもこの状況でやって良い行動じゃない。いや今はソレよりも――俺は彼女を守る様に鉄騎兵の前に立った。
コイツ等、まだ諦めてない。全員の目を見ればついさっきとはまた違う目をしている。怒りではなく、驚きでもなく、もう引くに引けないという焦りに近い目だ。プライドがそうさせるんだろうか、喧嘩を吹っ掛けたは良いけどその相手が自分より強かった。だけど自分から拳を引っこめることが出来ないという、半ばヤケクソに近い感じがした。
「テメェさえブベラッ!!」
ただ、そんな無茶苦茶な理屈に納得できるわけない訳で。大体、喧嘩売って来たのソッチだろ。
「「俺達を何だとベブシッ!!」」
鉄騎兵なのは知ってるって。
「「「エリートだボベラッ!!」」」
エリートなら気軽に喧嘩を売るなよ。
「アナタぁ、私の為に争わないでぇン」
もうホントにちょっと黙ってくれないかな。絶頂するな。今忙しいんだから――
「お前達ッ、ココで何をしているッ!!」
今の誰や?って、この声は――と、恐る恐る振り向き、硬直した。怒り心頭のエンジェラ=リブラがいた。しかも後ろにはカルなんとか君を含む近衛兵がズラッと並んでいる。その余りの威圧感に俺は元より鉄騎兵の動きも完全に止まってしまった。やべぇ――控えめに判断しても死ぬんじゃないコレ?
※※※
――鉄騎兵宿舎跡地
「さて、どういう事か説明してもらおうか?」
状況は最悪に近い。鉄騎兵の宿舎で争いが起きたとなれば当然相応の戦力が事態解決に動くのは当たり前だが、まさか一番最初に駆け付けたのがエンジェラ率いる近衛兵とは夢にも思わず、俺を含む全員戦意喪失すると黙って彼女に従うしかなかった。
「説明した通り、コイツ等に喧嘩売られて……」
「伊佐凪竜一、私は君に問うてはいない。こっちの連中に聞いている」
彼女は俺を見てほほ笑んだが、どう見ても作り笑いだ。目が笑ってないです怖いです。言い終えた彼女が鉄騎兵へと視線を戻す頃には目と眉が吊り上がっていた。
「あ、あの……こ、コイツに喧嘩を売られて……」
「カルセド、剣を」
「ハッ」
エンジェラの一言にカルセドは腰に下げた剣をうやうやしく渡した。直後、彼女は問答無用で振り下ろした。視認困難な斬撃をモロに受けた壮年の片腕が血しぶきを上げながら宙を舞う。その光景に鉄騎兵達は一様に震えあがるが、対する近衛兵達は凄惨な光景に微動だにしない。
「もう一度だけ聞く。説明しろ」
ドスの効いた低い声は、短い付き合いながらも相当以上に怒っていると伝わった。俺がそうなのだから鉄騎兵達はより強く感じていることだろう。
「答えんのか?」
尋問を受けている男は恐ろしさで震えている。いい年をしたオッサンは、体つきだけを見ればエンジェラとは比較しようがない位に逞しく分厚く筋骨隆々と言う表現が相応しい。が、その男が俺に殴られた分を差し引いたとしても恐怖で震えまともに動けない。この人、どんだけ強いの?
「そうか。ではしかたあるまい。連帯責任で全員除隊の上、リブラから追放する」
「い、や、お待ちを。わかりました……申し訳ございません。コチラから彼等に……喧嘩を売りました」
除隊、追放。その単語を聞いた壮年の男が観念する様に白状すると、エンジェラは冷たいため息を1つ漏らした。
「そうか。主犯は?」
「アンデシン隊。隊長のアンデシンを含む10人、です」
「そうか。誰か、コイツの腕を繋いでやれ」
「ハッ」
エンジェラが背後に向け指示を飛ばすと近衛の1人が地面に落ちた腕を拾い上げ、壮年の男を引き摺りながら何処かへと消えていった。
「ではアンデシン隊とやら。今回の件、お前達が原因で相違ないか?」
エンジェラは鉄騎兵に向けてそう尋ねる。目は未だに吊り上がっており、許すつもりなど微塵も無いのが伝わる。やがて、かつての仲間達に押される様に俺に喧嘩を吹っ掛けた連中全員がエンジェラの前に引き摺りだされた。
「は、はい。ど、どうか……」
「許して欲しいのか?」
「は、はい」
「ならば力を示せ」
「は?」
「お前達10人掛かりで私を倒せたならば不問にしてやろうと言っている」
は?いやいやいや、ソレはマズいでしょ。
「どうした、伊佐凪竜一?何故君が心配する?」
俺の顔を見たエンジェラが無造作に近づき、俺の顔をマジマジと見つめる。いや近い近い、顔が近い。あ、でも良い匂い……いや、ソッチに意識向けてる場合じゃないな。
「いや、コレは俺の問題で……」
咄嗟の言い訳にしては上出来――
「いいや。我らリブラの問題だ。下がっていたまえ。それから、私を心配してくれたこと感謝しよう。久方ぶりだよ、他人からこの身を心配されるなど。だが気にする必要など……無いッ!!」
いや不出来でした。言い訳をそよ風の如く受け流した彼女は振り向きざまにアンデシン達を横凪に斬り払った。凄まじい威力の斬撃は瞬く間に10人を飲みこみ斬り裂き吹き飛ばし、空中に無数の血渋きを舞い散らせた。ドサリと言う音が幾つも響いた。たった一撃、一振りで10人を纏めて葬った。いや、生きてた。辛うじてだけど――こえぇ。
しかし、この人もどこかの誰かさん達と同じで全く人の言う事聞かないよ。心配したのは嘘偽りないけど、まさかこうもアッサリ勝つとは思っても見なかった。
「ね、大丈夫でしょ?」
背後から呑気な声が聞こえて来た。振り向くと――カル何とか君がいた。何時から?は、良いとして頼むから音も気配もなく近寄るの止めよ?ネ?最悪、背後から近づくのは良いけど殺気交じりで近づくのは止めてお願いだから心臓がキュッと締まっちゃうから。
「いーけないんだーいーけないんだー。なぁぎ君がまぁた私との約束を破っちゃったぁ」
今度は別の声が背後から聞こえた。確認するまでも無い、ルチルだ。
「あーあぁ。目立っちゃったぁ。困るよねぇ。ホントに困るよねぇ、さぁてどうしようかなぁ何して貰おうかなぁ?」
いつもと違って妙にねちっこく、その割に妙に嬉しそうな声色の彼女は楽しそうに俺の背中を突きまわす。もう勘弁してよ。全部俺のせいじゃないじゃない?そうだよね?




