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到着 ~ リブラ帝国

 ――リブラ領内


 港町でのひと悶着から6日後。馬車から外を眺めれば広大な草原のはるか向こうに雄大な石壁が見えた。長かったような短かったような旅の終わりは近い。


 港町に降り立った直後にいきなりトラブルに見舞われはしたが、近衛兵団エル・ゲヌビ護衛の下、何の苦も無くリブラへとくることが出来た今の状況を考えれば結果として運が良かった。


 いやぁ、流石に帝国最強は伊達じゃない。魔獣の襲撃とか道中のトラブルもあるにはあったけど、全部近衛兵達が難なく片付けていた。個の実力も相当だが、集団ともなれば凄まじいの一言に尽きる。


「凄いだろう?近衛兵とは個の極致だ」


 ジルコンが馬車の外を悠然と進む近衛を評した。確かに、と港での一件が頭を過った。


「それが集団ともなれば更に戦闘力が上がる。実際、大したモンだよ」


「そうだなアイオライトも常々言っていたよ。アイツ等が300年前にいなくて良かった、とな」


「アタシも人類がドンドン強くなってるのを100年単位で見てるからなぁ」


 ルチルも同意した。100年以上も昔の話をまるで数日前のように語る彼女に、そう言えば見た目は20歳位だけど300年以上生きているエルフだという当たり前の事実を今更ながらに思い出した。色々とあってすっかり頭から抜け落ちていたが。


 となると、仮に俺が4姉妹の誰かと共に生きるとしても、どう考えても先に死ぬのは俺なんだな。精々7、80年位しか生きられないだろうから。


「どうした?」


 俺達に横たわる寿命と言う問題に意識を奪われていると、耳元からルチルが囁いた。意識を隣に向けると俺の直ぐ傍に彼女の顔があった。いや近い近い、顔が近い、近いから。


「い、いや。どうして強くなれたんだろうって」


「死に物狂いの努力。リブラの主力は貧困層と、後は混血もだな。勿論、生粋の武門もいるが数は少ない」


「と、いうかソコにしか居場所が無いとも言えますよねぇ?」


「そうだな。余り良い傾向とは言えないんだけどサ……」


 つまり、何?どうもこの手の話は3人共に知っている前提で話を進めたがる。で、こういう時は言い辛い事情があるというのも理解している。


「差別」

 

 ルチルの回答はある意味予想通り。ま、そうですよね。


「カスター以外では独立種への差別とか偏見が消えてませんからねぇ」


「そうだな。人類からの差別を恐れて独立種の共同体に逃げるか、さもなくばカスター大陸に渡るしか選択肢がないんだけど、何れにしたって金が必要だ。必然的に貧困層は死ぬほど苦労するって話はアタシも耳に挟んだことある」


「あぁ。しかも被害状況の把握も困難でな。ただ、リブラに限れば実力で覆せるのが良い点でもある。極端な実力主義は生まれの如何を問わない。だから必死で上を目指す訳だ」


 だから強いのか、と納得した。でも、同時に少しだけ脆いような気もした。悪いとは思わないけど、上手く表現できない歪さを感じる。


「その感覚は大事にするべきだ。物事に絶対はない。リブラのやり方は現状と上手く噛み合っているだけ。だが、それは今後も絶対的に正しいという意味ではないし、リブラの未来を保証するものでもない」


 俺の率直な感想をジルコンは否定しなかった。現状維持以上の答えが見つからないから、疑問に思いながらも生きてきたと言われれば、俺もそうだった。あぁ、異世界って地球とは環境が劇的に違うって期待していたのだけど、知れば知るほどに夢も希望も無いと痛感させられる。


「ま、今は暗い事気にすんなよ。ホラ、もうリブラだぞ?」


「アナタ。着いたら先ずは私が色々と案内してあげますからねぇ」


「そう言うのは近衛に任せとけよ?」


「ルチルの言う通りだ。特にアメジスト、今の君はタダのエルフだしナギ君はこの辺の事情に詳しくないからな」


「大丈夫ですよ!!」


「そうか?まぁ、これ以上のトラブル呼び込まなきゃあこっちも特に言うことは無いが……頼むから目立つなよ?アタシ達の目的を考えたら下手に目を付けられない方が良いんだぞ。特にナギ」


 アレは俺のせいじゃないんすけどね。酷い濡れ衣だ。とは言え、気に掛けるのも無理はない。エンジェラがいるから揉め事になる可能性は無い――保証はない訳で。特にうっかりぶっ飛ばしてしまったナントカ君。仲間と一緒に敵討ちとか、来ないよね?


「来ねぇよ。ただ、言うなって命令しない限り聞かれたら絶対素直に答えるだろうな」


「でもあの子、そんなに好戦的じゃなかったと思うんですけどねぇ」


 そうなのか。まぁ、恐らく何度か会っているルチルとアメジストがそう言うなら間違いないのだろうが、でも彼はなんで俺に突っかかって来たんだろうね。


「あー、それなんだけどな」


「何だ?心当たりでも有るのか?」


「まぁ、そいつはコレを見れば分かるでしょ?」


 と、何か言いたげなルチルは懐をゴソゴソと探るとよく分からない文字が入った丁寧な包装に包まれた箱を取り出した。雰囲気から察すれば上等な贈り物の様に見える。


「これは?」


「貰った」


 ルチルが溜息交じりに黒い箱を開け、中身を見せた。紫色の大きな宝石をあしらったネックレス。光沢を放つ銀色の鎖に宝石を収めたペンダントトップに施された美しく細かな細工は誰がどう見てもオーダーメイドで、何の好意も持たない相手に贈るとは考えられない高価な一品が収められていた。


「あらあら。でもこれってぇ」


「まぁ、そういう事だ」


「そうか。だからナギ君に突っかかったのか。とは言え、それはそれで余り褒められた行為ではないな」


 道理で怒る訳だ。俺、名目上は彼女と夫婦になっている訳だし。


「は?いやいや違うぞ。コレはお前のだ。アタシは預かっただけ」


「あら、私?」


 が、違うらしい。ルチルに慌てて黒い箱を押し付けられたアメジストは目を丸くした。


「アタシとエリーナがナギと夫婦なのはアイツからしたら問題はないんだが、その魔の手がアンタにまで及ばないか気が気じゃないのさ」


 魔の手って、俺は一体どんな評価なんだ。と、考えてみるがエルフ2人と夫婦って傍目にもかなり好色にみられてるのか。ちょっと凹むよ。


「あらあら。でもそんな素振りありませんでしたけどねぇ」


「そりゃあ恋愛レベル1のポンコツだからに決まってんだろ。どんだけ自分への好意に鈍いんだお前は?」


「そうですか。でもぉ。私ももう夫婦ですし、ネ?」


 違う。勝手に夫婦にするなと言っている。


「酷い。でも、何時か私も……」


 増えるの?増やしていいの?


「ハハハ。モテる男は色々とトラブルを背負いこむ運命にあるのさ。とは言え、カルセドの性格からすれば君は完全に目の敵にされているだろう。エンジェラが抑えてくれるだろうが、可能な限り会うのは避けた方が君の為だ」


「皇帝陛下の来賓とその夫となれば無茶な真似はしない。が、それは通常の話だ。そもそもナギがエルフの中でも抜きんでて強い上にかなりの影響力を持つ四凶と夫婦と言っても信じて貰える可能性は低いだろうし、だからエンジェラにも上手く手を回してくれって頼んだ。ただ、全体に行き渡るまで時間がかかる。だから、暫くは大人しくしていてくれよ?」


「そうします」


「じゃあ、街に着いたら一緒に出掛けましょうねぇ?」


 アメジスト、君はココまでの話を聞いてたのかい?


「実は私も来賓として招かれてばかりでリブラの街を歩くの初めてで楽しみなんですよー。ね、いいでしょ姉さま?」


 いや、ダメだろ。ただでさえトラブルに巻き込まれたら不味い立場何だよ俺達?だから普通は大人しくしてるよね?


「後でエンジェラに案内役を用立てるよう頼んどくから、そいつについてけよ。いいか、絶対にはぐれるなよ?間違ってもトラブルに首突っ込むなよ?」


「はーい」


 まぁ、そんな予感してましたけどね。相変わらず押しに弱いかと思えば妙なところで強引なアメジストに振り回されるのは確定事項らしい。もう変なトラブルは勘弁してほしいんだが。


「まぁ、早々トラブルなんて起きないだろうけど。アタシは到着したら早速皇帝陛下のところに、ジルコンは鉄騎兵団エス・カマリに向かう。何かあっても即座に助けには入れないからな」


「エス……?」


「鉄騎兵団エス・カマリ。リブラ帝国の主力だ。俺を呼んだのはリブラ家の長男アンダルサイト。まぁ、何時もの如く手合わせだろう。彼もエンジェラに負けず劣らずの武闘派だからな」


「街をぶらつく程度なら早々面倒ごとには巻き込まれないだろうけど、気を付けるに越したことは無いぞ。ココはヴィルゴとは違って警備厳重だからフォシルみたいなヤツは居ないだろうけど、代わりにエリートぶったヤツがうろついてるからな」


「ウム。()()()()()()()ならば何も問題はない。喧嘩を売るなんて馬鹿な真似はしないのだが、問題はエリートに抑えられている下の連中の方でな。何事も上澄みよりもその下の方が厄介なんだよ」


 はぁ。俺は溜息と共に頭を抱えた。地球でもそんな話は腐るほどに聞いた。何処も同じだな、と痛感する。環境や世界が違っても人が生きる以上、似たようなトラブルが起きてしまうらしい。ホントに夢も希望も無い。


「ココは極端な実力主義だからそう言った連中が幅を利かせるのは仕方ない。だ・か・ら、絶対に揉めるなよ。そう言ったのは全部護衛に任せて、何かあったらソイツに責任取らせろ。なぁに、近衛の後ろにはエンジェラがいるんだ。余程の阿呆じゃない限り問題起こさないよ」


 だと良いんですけど。でも、何か嫌な予感がするんですよね。


「あ、着いたみたいですよ?」


 俺の心配など無縁とばかりに呑気を貫くアメジストの言葉に馬車の窓から外を眺めた。正面に途轍もなく大きな鉄の門が見えた。横を見れば果て無く続く高い石壁。一体何メートルあって、ソレがどれだけ続いているんだと桁違いのスケールに圧倒される。


「ようこそ客人。我がリブラへ」


 声と共に馬車の扉が開く。柔和な笑みで俺達を見上げるるエンジェラと目が合った。

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