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出発 ~ 港町アルゲディ

 ――カスター大陸東端 カプリコルヌス領 港町アルゲディ


「それじゃあ行ってきますね」


「君は上機嫌で良いね」


 カスター大陸東端に位置する港町の一角に響く無駄に元気な声に対する俺の声は酷く冷めていた。せめてもの抵抗と精一杯に皮肉を言ってみたが、半ば強引に同行を決めたアメジストの耳には届かず、上空を旋回する海鳥の甲高い声にかき消されてしまった。にこやかにほほ笑む彼女の笑顔は何処までも屈託なく、同時に呑気で何をしに行くのか覚えているのかさえ怪しい。


「じゃあ、留守は任せたぞ」


 隣から快活で張りのある声が上がった。ルチルだ。言動を含めた何もかもが隣のアメジストとは比較にならずとても頼もしいが、一方で妙に押しが強いところがあるのが玉にキズ。


 正に渡りに船。アインワース大陸の中心、リブラ帝国の内情を怪しまれずに調査する方法について思索を巡らせる最中、まさかそのリブラ側から呼び出される事態に俺達は浮足立った。


 使者からの言付けによれば、現皇帝の体調が思わしくない為に歴代皇帝専属医師のルチルに診察と、必要ならば治療を頼みたいそうだ。確かに医療関係の知識が豊富とは知っていたけど、まさか皇帝と繋がりがあるとは思わなかった。


 当然ルチルに断る理由は無く二つ返事で了承した。が、代わりに護衛を付き添わせることを了承させた。で、その大役が何故か俺になってしまった。こういう場合は通りが良いという理由で何時もアイオライトの役目なのだが――


「あぁ。飲み友が減るのは悲しいが、こうも戦力が抜けてはなぁ」

 

 当人は相も変わらず酒絡みの心配しかしていない。つーかあれだけ飲んでまだ足りないの?


「分かりました。でもなるべく早く帰ってきてくださいね」


 ローズも酷く不満そうだが、それでも致し方なしと言った様子で俺を見送る――のは良いんだけど無表情で少しずつにじり寄るの止めろ下さい。


「浮気は駄目だぞ。旦那様」


 エリーナ(おまえ)もその台詞やめーや。力使った反動の子供状態でその台詞は不味い、と散々に説明するのだが当の本人は全く気に掛けない。そもそも――


「確かに突然この世界に現れた人間の身元保証しろってのは難易度高いけどサ、でも夫婦はねぇだろ。もう少し考えろよ」


 間髪入れず的確な突っ込み。ルチルが指摘した通り、異世界に来て困るのは俺と言う人間の出生証明――要は素性に問題ない事を証明しなければならない点だ。


 馬鹿正直に別の世界から来ました、なんて説明すれば間違いなく牢獄に放り込まれる。どうやら魔法とか非常識非日常でありふれた世界でも異世界からの転移は流石に荒唐無稽(こうとうむけい)らしい。


「でも、姉さまも言えないですよね?」


「今更もう1人増えたって何も変わらねぇよ」


 で、一番簡単な身分証明は誰かと婚姻関係を結ぶこと。その甲斐あって俺もこの世界で居場所を得た。が、やはり抵抗はある。何せ夫婦、男女の関係。つまりその先にあるのは――後、サラッと流しそうになったけど変わらない訳ないじゃない?1人と2人は大違いですよ?


「なら私もッ」


「お前はまず現状と自分の立ち位置を理解しろ」


 俺との結婚を切に望むアメジストの心情はルチルに一刀両断された。まぁ、ハイペリオンという都市で一番偉い総裁と言う職に就く彼女の結婚相手がどこの誰とも知れない人間となれば嫌でも詮索されてしまう訳で、そうなれば遠からず俺の情報がこの世界の何処にも存在しない事実に行き当たる。


 その下にいる四凶ならばまだ対外的にも理由は付く、とルチルは説明したが凹む彼女の耳に届かない。


 そんなこんなで紆余曲折の末、アインワース大陸へ向かうメンバーにルチルとその護衛兼花婿の俺が内定したんだけども、仮初とは言えホイホイ夫婦になって本当に良いの?俺の疑問は尽きることなく頭に浮かび続ける。


「分かっていると思うが、間違っても本名を名乗るなよ。変装も、絶ッ対に解くなよ?」


「はい。お任せッ!!」


 強引に同行を決めた彼女は先ほどまでの消沈振りなどどこへやら、元気一杯に回答した。それは結構な事だけど、その根拠のない自信は何処からやってくるの?だから大丈夫かな?なんて言葉が自然と口を衝く。


「信用するしかない。それからナギも覚えてるな?」


「あぁ。アッチって実力主義社会だから劣ってると思われたらトラブルになるから気を付けろ、だよね?」


「そう。アタシは皇帝に招かれた客人だから大丈夫だが、護衛とは言えアンタは違う。それに、一部上流階級層にしてみればアタシ達は商売敵。要は何処で何されるか分かんないってネ」


「と、いう訳で隣に顔が利く俺が同行することになった」


 そんな台詞と共にドン、と隣に立ったのはジルコン。オマケで着いてくるアメジストを含む俺達の護衛役として彼の同行がとんとん拍子に決まったのはつい先日。警護を理由にハイペリオンから離れられなくなったアイオライトの代理。本来はアメジストがいる筈だったんですけどね。


「道中の心配は無用だ。何せ皇帝からのご指名。恐らく、護衛に鉄騎兵が来るだろう。大陸中から選抜されたエリート中のエリート連中。忠誠心も実力も高いが、総じてプライドも高い。特に君は気を付けた方が良い」


 君、と言われ「俺?」と素っ頓狂な声を上げた。でも俺の分類は人類だし、気にする必要はなさそうな気がするのだけど。それともその何とかというエリートが原因だろうか。劣等感からではないけど、その手の連中はどうにも好きになれない。本当に、決して劣等感が原因ではないのだけども。


「色々と理由はあるが、この大陸以外では独立種と人類が分かれて暮らしているのは昨日教えたとおりだが」


 そうでしたっけ?あぁ、酒の席でそんな話になった気がする。アルコールに呑まれて記憶が殆ど飛んでるが。


「まぁ、要は自衛さ。いらぬトラブルを避ける為のな」


「そうそう。つまり、隣じゃあエルフやオークは余り良い目で見られてないのさ。ま、実力主義だからアタシとかジルコンなんかの扱いは悪かぁないけどね。で、実力未知数のアンタは独立種と一緒にいる人間って事で余計なトラブル背負いこむ可能性が高い。しかも見た目的にもそう強そうに見えないから尚の事。だから、常にアタシかジルコンの傍にいろ。面倒事はどっちかに任せておけばいい」


「くれぐれも目立つなって事だ。特に君に限れば図らずもエリーナと夫婦になっている上に隣の身分証明の為にルチルとも夫婦になっている訳だから、嫌でも目立つ。何かあれば無理せず俺を頼ってくれていい」


 色々と説明を受ければ確かに、と納得した。でも、夫婦ってのは俺の意見無視された結果なんですけどね。そもそもコッチも一夫一婦制でしょ?なんでルチルとまで夫婦にと思ったのだが、彼女を拒否すると俺の妻は見た目10代前半の少女になってしまう訳で、エルフと言えどもそれは流石にマズいと判断したと信じ――てもいいよね?


「あの、私も夫婦です!!」


 君、ちょっと黙っててもらえるかな。


「酷い……」


「ま、今更言ってもどうにもならない。一夫多妻なんて皇帝とか爵位の高い貴族の特権なのに、ソレが一般人の君となれば余計なトラブルを招きやすい。しかも相手がエルフなら尚の事だ」


 ジルコンがフォローしてくれた。何やらイマイチ要領を得なかったが――


「独立種は嫌いだけどエルフの見た目は好きって連中がいる訳で」


 引き継いだルチルの説明に納得した。酷い話だ。彼女達からすれば(たま)ったものではないだろう。


「私、怖いです」


 アメジストが俺にピタッとくっつき、潤んだ目で見上げる。暑苦しい。そもそも君、出鱈目に強い――いや、性格が駄目か。


「なので、ちゃあんと守ってくださいね」


「目的、分かってる?」


「その通り。浮かれるのも結構だが、本来の目的は人類統一連合の調査だ。今回の件でリブラが怪しいとなったが、向こうにそれを伝えたとて真面に取り合うとは思えない。なにせ確たる証拠が何も無いのだからね」


「だからアタシが皇帝に直接直訴して、もし調査許可もらえたら可能な範囲で内情を調べる。だから、頼むから足引っ張るなよ?ホントならローズについてきて欲しかったんだからな?」


「そうですね。私なら触れれば分かりますから」


 相変わらず恐ろしい能力だな。と、そんな風に彼女を見ていると俺の視線に気づいたローズは蠱惑的な笑みを浮かべた。怖い怖い。


「ま、だからこそローズの移動は強力に縛られている。それに後ろ暗いのはアタシ達も同じだから何も言えんけどね」


 後ろ暗い?何かまだ何かあったか、と疑問を思い切り顔に出すとルチル始め全員が俺をジッと見つめた。あぁ、スイマセン俺でしたか。


「異世界から転移してきました、なんて馬鹿正直に言えないからエリーナもアタシも夫婦にすることでアンタの身元は保証できますと対外的にアピールしてるんだぞ」


「あの、私も……」


「これ以上ややこしくするな。で、だ。そんなところを突っつかれたくないだろ?まぁ、異世界から来ましたって話を素直に信じるヤツなんていないだろうけど、そう言う意味ではアタシ達もリブラを責めづらい。だから保険も掛けてるんだ」


 保険とな?不思議そうな表情の俺にルチルは更に続ける。


「ちょっと前にローズがお前の頭弄ってる。記憶転写を使われた場合、支配魔導で強引に割り込みかけられるようにね。アンタはハイペリオンに漂着した難破船で発見された唯一の生き残り。両親は海に投げ出されて死亡。こういった場合、船の情報を調べて該当する都市に返すのが決まりだったんだが、発見した夫婦が亡くした子供の代わりに育てて現在に至る。ちゃあんと覚えたな?」


「そして私を見初め、支配し……」


 あぁ。そういう事。ってだから怖いからやめーや。


「妄想は帰ってきてからだ。先ずは無事を祈ろう」


 アイオライトさん、止めて?お願い?


「良し。じゃあ後は向こうに着くまでに色々と詰めとこう。間違っても気取られるなよ?嘘がバレたら動きづらいからな」


「では、行ってらっしゃいませ」


「落ち着いたらワシ等も行くからなー」


 君は来なくていいよ。もう十分好き放題したでしょうに。あぁ、ダメだあの笑顔。絶対来るつもりだ。


「兄貴、どうかご無事で」


「うむ。後は任せたぞジャスパー」


「お任せくだせぇ。ナギの兄貴もどうか気を付けて」


「あぁ。有難う」


 ここに来た当初はまさか君に心落ち着く日が来るとは思わなかったよジャスパー。と、そんなこんなの見送りを受けながら俺達は旅立った。向かうはアインワース大陸の中心。目的は人類統一連合とかいう加減を知らない連中の調査と可能ならば捕縛。


 正直、アメジストを始めとした独立種達と関わらなければこうも積極的に動くことは無かっただろう。だけど目的の為ならば何でもやる危険な連中を放置しておけば、何れ被害が大陸中へと拡大する。そして、何れ俺と懇意のアメジスト達4姉妹やアイオライト、カスター大陸のジルコンやジャスパーが巻き込まれる。知った顔が被害にあって平然としていられるほど非常じゃないし、ソレに――

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