大陸編終話
「何だよチビ。大人しくしてろよ」
唐突に乱入して来たエリーナ。今更ながら、無事で何より。ただ、はよ大人に戻ってくれ。ホント、頼みますよ。
「アインワースにはワシが行く!!」
が、願い虚しく駄々をこねるこねる。
「せめて元に戻ってから言えよ。大体お前、ヴィルゴ戻すのにまた力使っちまっただろ?」
そうか。俺、結局その瞬間を見ていないから余り実感がないんだけど、彼女とんでもない力を持ってるんだったな。で、ココを戻した影響でまだ子供状態が継続すると。そんな台詞に自然と窓の外を見た。確かに昨日まで見た何時もの街並みが戻っていた。とんでもねぇな。
「今回は特に流石に消耗し過ぎだ。ゴーレムに魔力吸い上げられた状態からここまで復元したんだ。当面はそのままだぞ。正真正銘の足手纏いだぞお前。そんなチビ状態でリブラに行くつもりか?」
「グヌヌ。と、とにかくダメ!!」
しかし彼女も彼女で梃でも結論を曲げない。よくよく考えてみればこの大陸に来てから彼女に振り回されっぱなしなんですよね。
なので早々に大人の姿に戻って欲しいんだけど、当面はこのままという絶望的な答えに頭を抱え、当人は俺の気持ちなど微塵も考えず、アインワースに行くと駄々を捏ね続ける。理知的な大人状態とはえらい違いだ。
「あのなァ。だからチビ状態は嫌なんだよ。大人と違って全然話通じねぇし我儘……お前まさか、夫婦か!?」
気付かれた。コレはマズい。手を出していないとは言え(見た目)幼女と夫婦とバレた日には今まで築き上げた信頼が崩れる。どうにかしないと。とりあえず、都合よく記憶失ったと誤魔化そう。そうしよう。
「その通り。だよねー?」
頼むから満面の笑みで同意を求めないで。ココが地球じゃなくて良かった、バレたら社会的に死んでるんですがね。君、俺を何度殺す気なん?
「ほー、そうかいそうかい」
おやおやぁ。ルチルの様子がおかしいぞ?身分証明の為とはいえ幼女と夫婦という人の道から最も遠い道を歩く現状を知った彼女が嫌な笑みを浮かべた。スイマセン、ホント嫌な予感しかしないんですけど――
「よーし。いまさら一人増えたって大差ねぇだろ?じゃあアタシとアンタも夫婦な。もうめんどくせぇしこれで行こう」
良くねぇよ。倫理観どこに置いてきたの?
「酷いッ。彼は私と夫婦なのよ!!それにもうすぐ子供だって生まれるのよ!!」
お前何処で聞いてたんだ?と、切れの良いツッコミと共にアメジストが参戦してきた。もう勘弁してよ――っていやいやいや、最後の台詞待てや。
「はっきり言っておくが……」
「一緒に寝た位じゃ子供は出来んぞ」
妹の爆弾発言を姉2人は軽やかに無視すると非常な現実を教えるが――
「え!?そんな……一緒に寝たらコウノトリさんが夫婦だって認めてくれて、その後子供を運んで来てくれるんですよ!!」
絶句した。みぃんな絶句した。この子、性知識が欠けているとかいうレベルじゃない……君、三百年も純粋培養されてたの?
「それにぃ、地球では女の子を妊娠させたら責任を取らないといけないんですよ。ねぇ、アナタ?」
なのにその癖やけに男女関係にアクティブだし。挙句、責任ときたか。頼むから何もないところから責任を生み出すな、罪状を錬金するな、罪科の錬金術師か。
「いや。まぁ……その話は後回しだ。リブラの件はそもそも誘いを受けているのがアタシだからお前達じゃあ無理だ。門前払いはされねぇだろうけど、行動制限されるのは間違いない」
ルチルが脱線した話を強引に戻しつつ、治療名目の彼女は自由が認められるとアドバンテージを誇示した。
「ならこうしましょう?全員で一緒に行けば良いんですよ?」
諦めねぇなお前等。何処かで聞き耳を立てていたローズまでもが参戦していた。もう収拾がつかないよね?
(あらまぁ、ナギちゃんは相変わらずモテモテやねぇ)
(なるほど。やはり地球の血を絶やしたくないという訳だね。しかし……ハーレム一直線とは君も隅に置けないな)
あんた等は今頃出てくるな。しかも出て来たかと思えば助言せずに茶々入れるだけとか。と、まぁこうしてゴチャゴチャとした話し合いの末、隣室からやかましいとツッコミを受けた事で一端解散することと相成った。
が、誰も彼もアインワース行きを諦めていない。俺は確定として、果たして誰が一緒に行くことになるのやら。と、そんなこんなで一日は終わり、漸く戻った平穏の中で俺は眠りについた。
※※※
――場所、時刻不明
「幹部スノーホワイトは失敗したようです」
ほの暗い闇の中に2つの濃い影が踊る。片方はもう片方の報告を黙って聞いていたが――
「やはり四凶か?」
やがて一言そう尋ねた。四凶。アメジストを除く3姉妹とアイオライトの4名を指すその言葉とその意味、実力は全世界にまで広まっている。
「いえ、それが……チキュウジンなる男の仕業とのことです」
「何だそれは?いや……まさか、預言書に記載のあった異世界とコチラを繋ぐ転移魔術でやって来た異邦人か?」
「恐らく」
「そう、か」
闇に踊る影はその一言を最後に動きを止めた。
「いかがいたしましょうか。レッドリーパー」
暫しの沈黙が訪れたが、やがて痺れを切らした片方の影がもう1つの影に向けうやうやしく尋ねた。
「確かスノーホワイトが記録したその男の記憶の中にカガクなる未知の知識があると言っていたな?」
「はい。しかしその男自体はカガクを全く理解しておらず、転写された記憶からの再現は困難かと」
影の言葉を最後に再び無言の間が訪れ、また2つの影の動きも暫し止まる。片方は何かを考えるかのように、もう片方はソレを黙って待つかのように。
「次の計画だがな……」
やがて、片方の影が何かを語り始めた。




