事後処理
――人類統一連合とかいう危険な連中が起こした騒動から2日が経過した。長いようで短い期間をずっと眠って過ごしていた間に色々と事が進んでいたらしい。
先ず城郭都市ヴィルゴを破壊した第一秘書フォシルは逮捕された。都市長のコーラルは逮捕出来なかった、と口惜しそうにアイオライトが語った。逃がした訳ではない。既に殺されていた。フォシルが自白した。そう、アイオライトが苦虫を嚙み潰した。
水路改修工事などは実質的に秘書フォシルが主導し、実行にまで移した。コーラルは操り人形と、後は事が上手く進んだ際のスケープゴートだったそうだ。遺産は都市が負った莫大な負債の償却に充てられるそうだが、やはり全然足らないらしい。何とも前途多難だ。
それ以外にも逮捕者が沢山出た。フォシルはコーラル以外の全てを黙秘したが、敗北により旗色が悪くなったと相当数の協力者が自首した。
中でも一番大きかったのはシュルマ建築という水路工事を請け負った会社。フォシルが秘書になって以降から露骨なまでに癒着していた事実は周知であったそうだけど、この会社の現社長が人類統一連合のシンパだったようだ。
他にも今回の件を陰から支援する協力者の存在が判明するや事態は一転、当初は俺達を責める声が方々からあがっていたそうだが、真相が明るみに連れ誰も彼もが都市長や癒着した会社を責め始めた。
「でも幾つか問題もありまして」
「問題?」
「はい。水路工事の資材の中に魔力に反応する石材などがあるのですが、その供給元が分からないんです。都市全域を覆うほどですから相当な量になるのですけど……はい、あーん」
成程。ところでアメジストさん、君は何で俺の部屋に居るんですかね?扉には鍵が掛かっていた筈なんですけどね。
「どうぞお気になさらず。はい、あーん」
「テメェで食って仕事に戻れ」
ほーら、怒られた。そもそも、君がしてるの看病じゃないからね?大体、異臭放ってるソレは何?
「あっ……」
何かに気付いて固まるアメジスト。背後には何時の間にやら仁王立ちしするルチルの姿。でも、君もそうなんだけど、鍵を無視するの止めよ?ね?鍵は開け閉めするものであって、無視したり壊したりする物じゃないからね?
「そんなぁ。せっかく愛情とか色々な物を籠めて作ったのにぃ」
「ロクでもねぇモンを入れるんじゃねぇって何度も言わせんな。とっとと行け」
やっぱりか。ルチルは不法侵入したアメジストを追い返し、今度は自分が代わりにとばかりに椅子に腰を下ろした。
「色々と面倒なことになっているのは確かだな」
「具体的には?」
「リブラ帝国の関与が疑われ始めている。最初はナギやアタシ達を責める声もあったんだけどね」
「ドコ?」
「隣だな。アインワース大陸にある初代皇帝グスタフ=リブラが興した巨大帝国で、世襲君主制でリブラ家が代々皇帝を継ぎ、広大な支配域の統治を行っている。規模が何もかも桁違いにデカいぞ」
「なるほど、でもソコが今回の事件にどう関与してるの?」
「シュルマ建築ってのは元はリブラ帝国の会社で、コッチにあるのは分社。で、資材が流れるなら当然本社も噛んでるよなって可能性があるのに、本社は知らぬ存ぜぬ。怪しまれても仕方ない。それに……今回の会議、リブラ帝国だけが不参加表明してたんだよね。そんな状況で今回の騒動。おまけにヤツラの鉄騎兵が使う鎧がわんさか投入されてたって話も重なると胡散臭いどころじゃない」
「でも、証拠ないんだよね?」
「ないっ。全くない」
リブラ帝国が怪しいという噂、実はルチルを始め大勢が口を揃えているそうだ。が、彼女が即断した通り物的な証拠が何も出てこない。唯一フォシルだけが全てを知っているかと思われたが、本人は頑として口を割らず。
なら記憶をどうこうする魔法陣を使えば、と思ったのだがどうもそんな状況でもないらしい。具体的には余りにも危険な使われ方をされてしまったせいで「もう使うのは止そう」って流れに向かい始めているそうで。流石にこんな使い方をされるのは想定外だったようだ。
「まぁ、アタシだけは不参加の理由を知っているから疑いたくはないんだけど、状況はかなり怪しいよね」
「知ってるんだ?」
「現皇帝ヴェリウス=リブラの体調が思わしくないのさ。もう結構な歳だからな。あ、コレ秘密だぞ?」
なるほど。彼女は医療関係の知識が豊富だから、だからこっそり診察してくれって話が来たんだな、と何となく納得した。
「皇帝崩御となれば相続争いが勃発するのは必至。そんな状況で他にちょっかい掛けるかねぇ、ってさ。だが結局は行ってみない事には分からないよね?で、だ」
ルチルが突然、顔を徐々に近づけて来た。距離が縮まるにつれ、柑橘系の甘い香りが仄かに香る。いや、近い近い近い。
「アタシと一緒にリブラに行くつもりないか?アンタの力は相当なモンだ。ゴーレムの作った鋼鉄製の刃が身体に食い込んだってぇのに、アタシが診た時にはもうほとんど傷が塞がってたし、記憶の方も影響がなかった。魔力に対する耐性に頑強な肉体なんて護衛役にはこれ以上ない。勿論、嫌じゃなければだけど……どうする?」
あぁ、そういう提案ね。確かに、よくよく考えてみれば今回の件はまだ続きがある。何せこれだけの騒動に対し独立種の1人も殺せていないんだから。
最終的な目標が独立種の皆殺しならば、今回の様な件が何処かで起きる可能性は高い。それに、俺自身は人間だけど関わる相手に独立種がやけに多くて、しかもその大半に世話になった。
大体、もう無関係ではいられない。それに、今回の件に責任を感じている。何より人が死ぬのはあまり好きじゃないし、それが世話になった人なら尚の事だ。返そうと思っても、感謝の言葉を伝えようと思っても出来ないのはとても辛いと知っている。それ以前にこれだけ関わっておいて自分には関係ないと捨て置けない。
「どこまで役に立つか分からないけど、行くよ」
即答した。途端にルチルの顔がこれまで見たこと無い位に眩しい笑顔になった。そう言えば、随分と前に旅がどうのと言っていたのを思い出した。目的の関係上、自由はないけど――もしかしてソレが目的、じゃないよね?
「そうか。ところで、身元証明どうやったんだ?差し支えなければそのまま提出するけど?」
oh――ソレ、説明しないとダメですかね?
「なんだ?忘れたのか?聞いてねぇのか?」
「えーと、まぁ……そんなところかな……」
しどろもどろでちょっと怪しまれてるけど、でも何とかして誤魔化さないと。幸いルチルは俺の記憶の方を気に掛けていて嘘ついているという可能性に至っていない。ちょっと罪悪感があるが致し方ない。
バキ
と、何やら扉が嫌な音を出しながら豪快に開いた。頼むから鍵は開けてくれ、壊すな。
「ダメじゃ!!」
扉の向こうからエリーナが叫んだ。と言うかアナタ、まだ大人に戻ってないの?そのままだと話が進まないから勘弁してほしいなぁ。




