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幕間4 絶望浸食 其の2

「随分と前から考えてたんだな。都市計画に基づく水路改修工事を利用して」


「つまり、最終決定権を持つ都市長のコーラルが黒幕って事ですかい?」


「いや。お前、フォシルだな?」


 アイオライトはローブの下の顔をそう推測した。


「ご名答。とは言え、もう遅いッ」


 女はローブをはぎ取った。アイオライト、アクアマリン、ジルコンは予想通りとばかりに睨み上げる。ジャスパーだけは驚き戸惑うが、彼は都市の事情に明るくない。


 端的にコーラルは無能だった。都市防衛に関する計画さえ知らない程に。加えて大それた計画を立案、実行する程の能力も気概もない。とすれば、と消去法で選ばれたのが秘書のフォシル。


「え?あ、そうか。別に都市長にならなくても脅せば……」


「そう。だけどもう全部遅い。準備は全部整った、お前達の負けだッ!!」


「その為に都市を巻き込むつもりか!!」


「だからどうしたッ。尊い犠牲さ。本当ならここまでするつもりじゃあなかったんだけど、切り札を切った以上は必ず殺す!!」


 ローブの下のフォシルが切り札を切る。都市全域を覆う魔法陣を展開すればその痕跡は必ず残り、隠し通せない。ゆっくり時間をかけて準備すれば逃れる術の無い必殺の切り札は、本来ならば戦闘を想定していた訳ではなかったようだ。恐らく、と誰もが本来の用途を描く。会議用だと。


「消えなさいよッ!!」


 魔法陣が輝きを増し、都市全域を包む。記憶が無造作に取り出され、上書きさる。アイオライトはアクアマリンと共に結界を展開するが、ゴーレムの攻撃が阻む。圧倒的な火力を前に結界は脆くも粉砕され、フォシルは勝利を確信した――


 ドンッ


 激しい振動。


「何?」


 ゴーレムの巨体が激しく軋んだ。鋼鉄の脚部に強い衝撃が走る。伊佐凪竜一の拳がゴーレムを攻撃した。大きく揺れ動き、ゴーレムは体勢を崩す。


「お前ェェェエエッ!!」


「止める!!」


「できる訳ないッ。正体不明の力を持っているようだけど、でも地球から持ってきたその力に魔力への耐性がてんで無いってのはもうバレてんだよ、死ねよッ!!」


 フォシルが叫び、指先を光らせる。空中を踊る光が瞬く間に魔法陣を描く。直後、水路を走る光が魔法陣に呼応する形で強まり、フォシルの言葉通り伊佐凪竜一を(さいな)む。


 膝を付き、頭を抱え、遂には倒れ込む伊佐凪竜一。魔力への耐性が皆無という話に偽りない光景が、魔法陣から伊佐凪竜一に何かが流れ込む様子がアイオライト達の眼前に広がる。記憶が強制的に白紙状態へと上書きされる。


「ざまぁないわね。後、そうそう。コレ、預かっておくわ」


「そ、それはル……ら……」


人工妖精(こんなもの)で助けを呼ばれては困るのよ」


 フォシルが伊佐凪竜一に瓶見せつける。彼が出発前にルチルから渡された小瓶。中には遠距離通信が可能な人工妖精(エアリー)が入っている。何かあった際に助けを呼べるようとルチルが渡したもの。


 が、好意も無駄に終わる。フォシルは小瓶に魔力を流し込み、破壊した。割れた破片と共に中の人工妖精(エアリー)がキラキラと光る粒子をまき散らしながら力なく地面へと落ち行き、その途中で消失した。


「お前ッ!!」


「無駄よ、全部全部全部全部全部全部全部ッ!!ちょっと計画はズレたけど、今日この日の為にどれだけ準備を重ねてきたと思ってるの!!さぁ、次はアンタ達の番よ。死霊鉄騎兵召喚サモン・ゴーストナイト!!」


 フォシルが畳み掛ける。怒号と共に都市全域に展開された魔法陣の中央から何かを呼ぶ声が木霊す。


 魔法陣の中に小さな魔法陣が無数に生まれ、夥しい数の青白く輝く人魂が浮かび上がる。地面から真っ黒な鎧が浮き上がる。鎧は人型に組み上がり、最後に人魂が鎧の中に吸い込まれ、消失した。ギギ、とぎこちなく鎧騎士が動き出し、隊列を組みながらゴーレムを取り囲んだ。


 死後に強い未練を残してしまったが為に輪廻の輪へと入れなかった死霊を核とする鉄騎兵の群れは、フォシルが与える僅かな生気に操られ、意のままに動く。


「あの鎧は……リブラ帝国の鉄騎兵!?」


 リブラ、とアイオライトが叫ぶ。この大陸の隣、世界最大のアインワース大陸の覇権を握るリブラ帝国。その国の一般兵士に支給される鎧をフォシルは操る。


「不味いぞッ、この厄介な魔法陣の中でヤツラの鎧を相手するだけでも面倒なのにこの数は!!」


 鎧の性能を知るジルコンは圧倒的な質と量を兼ね備えた死霊鉄騎兵の軍勢の前に苦虫を噛み潰し――


「そもそもどうやってあの数の鎧を調達したの!?」


 アクアマリンは帝国の精鋭の身に与えられる鎧の不可解な数に違和感を覚え――


「とにかく今はアレをなんとかしなきゃあ兄貴が死んじま……って兄貴ィ!?」


 焦りと苛立ちと怒りがない交ぜになったジャスパーがとにかく行動を、と声を張り上げた。


 ドンッ


 再び発生した振動。絶望的な状況を揺さぶる一撃に、視線が釘付けとなる。都市全域に展開された記憶を書き換える魔法陣の中央に陣取る鋼鉄のゴーレムを取り囲む死霊鉄騎兵の一部が吹き飛んだ。


「動けるのか、この状況でぇッ!!」


 驚き、叫ぶフォシル。衝撃の中心に、伊佐凪竜一が立つ。彼は魔法陣の影響下にありながら死霊鉄騎兵を攻撃していた。


 有り得ない、理解が追い付かない、誰もが何故、彼が動けるのか分からなかった。魔力に対し抵抗力の無いと評された彼が魔法陣に晒されれば、瞬く間に全ての記憶を喪失する。


 記憶が全て無くなれば自分が何者か分からなくなり、ただ生きているだけの人形へと変わる。その筈だった。


「馬鹿なッ。何なんだお前ッ!!何で動けるんだテメェは!!」


「ナギ、今行く!!それ以上無茶をするなッ!!本当にどうなるか分からんぞ!!」


 叫ぶアイオライトがアクアマリンの展開する魔法陣から飛び出す。ジルコンも触発され、魔法陣から飛び出すと死霊鉄騎兵を薙ぎ倒しながら伊佐凪竜一の元へと向かう。


「助ける」


「助けるだと?ふざけるなよッ!!お前一人に覆せるような状況じゃあないんだよぉ、元々は四凶と総帥を纏めて始末する為に用意した物なんだからなァ!!」


「黙れ!!」


 伊佐凪竜一が咆え、死霊鉄騎兵を破壊しながらゴーレムを目指す。覆せない。それは事実だ。彼も分かっている。だが、それでも尚、止まらない。記憶を消去する魔法陣の影響を受けながら、それでも確実に自らの元へと迫るその姿にフォシルは怒りを露にする。


「苛つかせんなよ!!帰る場所はあれども故郷は既になく、待つ相手も死に絶え、破壊され尽くした世界にテメェが居た面影はない!!人も、物も、思い出も何もかも無くなったんだ。全部失ったテメェに寄る辺は無い。どこまでも孤独で1人でその上お前の記憶まで消えていくそんな状況で、一体何を理由に立ち上がるンだよテメェはァ!!」


 尚も諦めない男にフォシルはゴーレムをけしかけた。苛烈な攻撃が戦場に降り注ぐ。

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