幕間4 城郭都市攻防戦 絶望開演 其の2
「アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!どうしたの?攻撃しないの?出来ないわよねェ?だって、ゴーレムのダメージが核に伝播する様に調整されてるんだもの!!」
ローブの女が勝ち誇る。
「テメェ、汚ねぇぞ!!」
「勝つ為にここまでするの?」
ジャスパーとアクアマリンがローブの女のやり方に露骨なまでの不快感を示し――
「これでは手が出せんな」
冷静に状況を見据えるジルコンは苦悶に顔を歪めた。
「いや……核さえ引き抜ければまだチャンスはある」
唯一、ゴーレムとの戦闘経験を持つアイオライトは冷静に対策を打ち立てるが――
「って言うと思ったわよ単細胞がッ。何の対策もしてないと思う?」
ローブの女はあっさりとその上を行く。女がガン、とゴーレムを蹴りつけた。直後、エリーナを守る様に無数の刃が生えた。歪曲した、まるで牙の様な鋭い刃。魔獣すら喰い殺す鋼の牙。秘策の名を、女は高らかに叫んだ。
暗い影が落ちる。四凶とあだ名され、全土にその名を轟かせるエリーナの魔力はアメジスト程ではないにせよ膨大で、止めなければ少なくともこの大陸を破壊し尽くすまでは暴れる。最悪の結論が全員の頭を掠めた。救出は困難。ならばエリーナを殺し、ゴーレムを止める。
「それは最後の最後まで取っておけ。アイオス、現状で一番可能性があるのはお前だ。俺達が注意を引き付けている内に何としても正気に戻せ」
同時に過った最悪の可能性をジルコンが否定した。
「済まない。分かった」
その言葉に鼓舞され、アイオライトが果敢に飛び上がる。が――
「だぁかぁらァ!!単細胞って言ってんだろうがクソ共がッ。そっちの対策も抜かりないんだよ。最も、それはお前達が原因だけどなァ。この女がどうして無反応か考えてみなよ」
ローブの女の言葉に、再び気勢を削がれた。同時、ゴーレムの容赦ない攻撃が攻撃を襲う。強固な拳の一撃は凄まじい振動を伴い地面を割り、全身に施された魔法陣から魔力を一点集束させたレーザーを放つ。着弾地点に凄まじい爆風が生まれ、全てを破壊した。
「分からない?なら特別に教えてあげようか?夢よ。この女は地球の夢を見ているのよ」
「チキュウ?」
「兄貴の故郷じゃねぇか?でもなんで?」
ジルコンとジャスパーは女の言葉の意図を理解出来ない。
「まさかッ。アナタ、記憶を強引に書き換えたの!?」
一方、魔術に聡いアクアマリンは即座に気づいた。
「ご名答。流石、ド田舎で無駄に長生きするしか能のないエルフ様」
「オイ、どういう事だ?」
「記憶転写かッ!!まさか、夢というのはナギ君の……」
「そうよ。この女が見ているのは地球人の男の夢。その男が残してきた恋人との甘い記憶を夢の中で追体験しているのよ。だから、絶対に起きない。誰も彼も甘い夢をずっと見ていたいと願うもの。それが叶わぬ夢ならば尚の事、という訳よ」
ローブの女は勝ち誇り、エリーナが夢から覚めぬ理由を語った。彼女は伊佐凪竜一の記憶の底から取り出した夢―彼が地球時代に過ごした恋人とのひと時を体験している。
伊佐凪竜一から書き写した記憶を加工し、偽りの記憶として埋め込まれたエリーナは伊佐凪竜一の恋人として夢の中で逢瀬を重ね続ける。通常の夢ならば容易く脱しただろう。
が、相手は正真正銘運命の相手から取り出した記憶。抗いがたい――否、抗う理由など無い。
人間の脳は僅かな負荷で傷つく。よって、精神に操作する魔術の効果は弱い。但し、対象の生死を問わなければ話は別。ローブの女は強引に記憶を上書きした。通常の人間ならば耐えられないが、強大な魔力を持つエリーナは不幸にも耐えた。幾つもの不幸が重なり、エリーナは目覚めない。
「それじゃあ。起こせるのはナギの兄貴だけって事か!!」
ジャスパーが叫ぶ。エリーナが見る夢から覚醒させられる可能性があるのは伊佐凪竜一のみ。
「それも無駄よ。あの男にも与えているからね」
「まさかッ!?」
「えぇそうよ。ソイツに与えたのはその恋人よ。記憶から取り出した女の行動パターンを模倣した人形。断言してあげる。絶対に来ない。ハハ、今頃は黙って殺されている頃じゃないかしら?」
「外道がァ!!」
アイオライトが叫んだ。端正な顔が怒りに歪む。が、その表情も次の瞬間には霧散する。会話と並行して行われ続ける苛烈な攻撃は更に激しさを増し、彼を含めた全員が本体に近寄れない状態にまで陥った。
鋼鉄のゴーレムの鎧が怪しく光る。あらゆる属性の攻撃が撃ち出された。業火が、氷塊が、雷撃が、荒れ狂う暴風。猛攻に容易く劣勢へと追い落とされる。近寄れなければ打つ手はないが、エリーナというエネルギー供給源を得たゴーレムの攻撃は文字通り桁違い。
もはや覚悟を決めるしかない。ゴーレムと相対するアイオライト、ジルコン、アクアマリン、ジャスパーは怒りと不条理を魔力と拳に籠める。
「アハハハハハハッ。出来るの?ねぇ出来るの?」
「出来るか、じゃねぇ。やるんだよ!!」
「強がったところで自分の為に仲間を殺す事実に変わりはない。さぁ、全員纏めて、死……?」
女は自身の勝利を信じて疑わない。疑う必要もなかった。水面下の努力、幾重にも重なった幸運が味方した現状を覆せる人間など誰一人としていないと己惚れた。
が、その態度が初めて崩れた。女は言葉の途中で何かを見つけると呆然と一点を見つめ――
「クソがァ!!あの野郎ッ!?」
あらぬ方角に口汚く罵った。四人が共に察した。誰がいる。希望に、視線がローブの女を追う。
「どけッ!!」
探し求めていた男の姿があった。伊佐凪竜一。異能の種という超常の力を発現する才能をその身体に埋め込まれた彼は、何かと戦いながら都市の中央を目指す光景を見た。




