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幕間4 城郭都市攻防戦 絶望開演 其の1

 ――夜

 

「どうなってんです!?」


「さぁな。だが、ただの見世物じゃあなかったってのは覆しようない事実だ」


 伊佐凪竜一が占い師と邂逅を果たした同時刻、城郭都市ヴィルゴは混乱の真っ只中にあった。


 正に寝耳に水、誰も予想だにしえない事態の発端は都市の中心部にある観光名所ゴーレム。人類の代わりに己を血で染め、傷を負う役目を押し付けられた無垢な人形は終戦と共に打ち捨てられた。時代の移り変わりに伴い、歴史の汚点と称されたゴーレムは、やはて血なまぐさい歴史の記憶が薄れるに従い、観光名所へとその役目を変えた。


 歴史、過去、痛ましい戦争を知らない大多数の人類には巨大な鋼鉄の人形などロマンと娯楽と金を運ぶ手段でしかなくなった。ごく僅か、戦争を生き伸びたエルフ達もそれで良いと納得した。


 戦争の記憶を覚え続けている限り憎しみは続くと考えた彼等は、人類がその歴史だけを記録し、血生臭い真実を忘却してくれるならばそれで良いと考えた。


 物言わぬ鋼鉄の人形はその役目を変えた。戦争の当事者達も、被害者遺族も、その子孫達も、恐らく物言わぬ当人(ゴーレム)もそれで良いと納得した。だがその全てが踏みにじられた。人類はゴーレムを蘇らせた。再びその手を血で染めろと命じた。


 オオオオオオォ


 300年の時を超え起動したゴーレムは低い唸り声を上げ、起動した。伊佐凪竜一とエリーナ捜査に奔走(ほんそう)する全員が、不気味な振動の元に一直線に駆け付け、辿り着き、動かない筈のゴーレムが動く姿に呆然自失とした。


 鈍重な鋼鉄の巨人が動く度に大地に震動が走る。かつての戦いで独立種を追い詰めた人類側の切り札がアイオライト、ジャスパー、アクアマリン達を追い詰める。


 いや、如何に不意を突かれたとてアイオライトが後れを取るなどあり得ない。彼が攻撃を躊躇(ためら)い、追い詰められる理由はただ一つ。鋼鉄のゴーレムの胸部に埋め込まれた動力源。莫大な魔力なくば起動できないゴーレムに潤沢な魔力を供給するのは――


「アレの起動には核が必要なんだ」


「間違いないのだな、アイオス?」


「あぁ。だから俺達は必至で胸部の核を抉り出し、無力化していった。なのにッ、なんでこうなる!?」


「エリーナ、様……」


 全員が呆然と一点を見つめる。ゴーレムの胸部に埋め込まれたエリーナを。頭部と肩以外をゴーレムに埋め込まれた姿に誰もが確信する。ゴーレムの動力源は彼女だ。組み込まれ、魔力を吸い上げられる。そして、その最後を誰もが確信する。死だ。


「オイ、起きろッ!!目を覚ませ!!」


 彼女を良く知るアイオライトが必死で声を掛ける。ゴーレムの攻撃を搔い潜りながら接近し、彼女に呼びかける。


 如何に魔力の制御に難を抱えているとはいえ、エリーナが容易く捕まるなど有り得ない。恐らく何か強力な魔術により精神を歪められていると察したアイオライトは果敢に行動する。


 精神に作用する魔術は、実際は大した強さを持たない。精神、引いては脳の操作はデリケートで、極めて脆いという欠点を抱える。精神を制御出来たとしても些細な切っ掛けで効果が消失する。


「アハハハッ。無駄よ無駄なのよ!!全部、無意味なのよ!!」


 しかし結果は無残。戦場を横断する怒号に、アイオライトは(ほぞ)を噛む。彼ではエリーナを覚醒させるには至らなかった。全員が忌々しく睨み上げる。ゴーレムを見下ろせる施設の屋上にローブを纏った女が降り立った。


「お前が……そうか、お前がナギ君が会った占い師かッ!!」


「ご名答。だけど分かったところでもう意味は無い」


「それはどうかな?」


 直後、施設が派手に揺れた。ジルコンが建物を力いっぱいに殴り飛ばした。が、女は怯まない。崩落する施設を一瞥、宙にふわりと浮き、ゆっくりとゴーレムの肩に着地した。一方的な破壊活動を眺めるには絶好の場所。


「確かにアンタまで来ているのは驚いたわ。だけど丁度良い、復活したゴーレム最初の犠牲者に加えてあげるわ!!」


「お断りだ」


 ジルコンは即答、ゴーレムへと一足飛びに近寄り、思いきり殴りつけた。同時、行動に合わせて幾つかの影が動く。アイオライト、アクアマリンが連携を仕掛け、ダメ押しにジャスパーも鋼鉄のゴーレムの脚部目掛け、力任せに拳を叩きこんだ。


 オオオオォ


 低い呻き声が響き渡り、ゴーレムは片膝をついた。勝てる。これほどの手練れが集まったのならば300年前の兵器を破壊するなど苦も無く――と、誰もが考えた。


 が、その胸部を見た全員の表情が一気に引きつり、全員が散開した。絶好のチャンスを不意にする理由はエリーナの顔。無表情、能面の様な少女の美しい顔が苦悶に歪んだ。

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