不穏な気配 其の2
気が付いたら、ベッドの上だった。
「オイ大丈夫か?」
大声に驚いた。硬直する視界に、男の顔が割り込んだ。アイオライトだ。酷く心配していたようだが、無事を確認するや何時もの穏やかさを取り戻した。
「今まで何処で何をしていたんだ?」
視界の下からエリーナが覗き込む。アイオライトと違い、酷く沈んだ表情を一切変えない。どうやら相当心配させてしまったみたいだ。
「ゴメン。ところで、何処だココ?」
「酔ってないよな?ホテルの、お前の部屋だ」
未だ自分の身に何が起こったか理解できない俺の質問に、アイオライトは怪訝そうに見下ろす。
「兄貴ッ、大丈夫ですかい?いやぁ心配しましたよ、いきなり姿が見えなくなったってエリーナのねぇさんが必死になるもんで!!」
ジャスパーまでいる。どうやら俺を探す為にオーク達にも声を掛けたようだ。彼等にも随分と迷惑をかけてしまった。
「そうよ。ところで、どこ行ってらしたんです?何時まで経っても戻ってこないから心配になってアチコチ探して見つからなくて、疲れて部屋に戻ってきたら寝てるから驚きましたよ」
アクアマリンもいる。呆れ気味だが、心なしか少し息が上がっているように見えた。恐らく彼女もアチコチ走り回っていたのだろう。
「ゴメン。なんか迷惑掛けちゃって。でも……おかしいな。占い師の話辺りからどうも記憶が……」
そう。何故か分からないが占い師と話した以降の記憶がプッツリと途絶えている。一体何を話したのか、その後どんな経緯で戻って来たのかも含め、何もかもが完全に喪失している。
「占い師?詐欺られてないよな?金とか大事な物はちゃんとあるか?」
確かに――と確認したが金は減っていなかった。失くなった物もない。というかロクな物を持っていなかったけど。
「ともかく、無事で何よりだ」
「身体の方にも異常はなさそうじゃな。記憶が曖昧ってのが気になるが、調べようと思ったら記憶転写の魔法陣があるハイペリオンに戻らにゃならんしの」
「流石に持ってきてませんからね」
エリーナとアクアマリンがさも当然の様に言っているが、持ってこれるんだ?運べるんだ?
「同じ機能を持った簡易式の魔法陣を展開する道具があります。使い切りですが、代わりに効果は折り紙付きですよ」
「何ならヴィルゴにもあるだろ?記憶と占い師の件、念のために調べた方が良いと思う。明日、俺が都市長に掛け合ってみるよ」
相変わらず細かい部分にまで気が回るな、アイオライトは。申し訳なさで胸が痛くなる。
「頼むぞアイオス。早ければ二、三日で君の失った記憶についても分かるだろう。が、浮気だったら覚悟してもらうぞ?」
エリーナにも感謝したい。前半部分だけな。後半は、冗談だよね?と、思ってたが駄目だなこりゃ。目がマジだ、寧ろ怖い。
「あぁ。で、明日から会議開催までは俺達と行動を共にしよう。ナギ君が狙われる理由なんて思いつかないけど、人類統一連合が独立種と近しいと言うだけで無差別に狙う可能性も否定できない」
「そうですね。なら俺達も協力しますぜ」
一緒に行動と、そう濁してはいるが護衛だろうな。確かに狙われる理由なんて思いつかない。ただ、アイオライトの予測も間違っているとは思えない。要求を突っぱねる理由も特にないし、アイオライトとジャスパーには悪いが――
「駄目じゃ!!夫婦水らずの邪魔をするな」
「「「えぇ……」」」
と、エリーナが即断で否定した。全員が呆れた。が、本人は頑として考えを変えるつもりが無く、このまま仮初の夫婦という関係をごり押しするつもりらしい。
どうしちゃったの?なんで子供になるとそんな性格になるの?アメジストのあの性格ってもしかして血筋なの?いずれ君もああなっちゃうの?俺、凄く心配です。
「俺は別に構わんが、流石に目立つから方々で夫婦って喚き散らすのはなしだぞ」
後半には同意しますが前半はどういうこと?アイオライトさん、お願い俺の目を見て?
「駄目!!」
エリーナはやはり即断で否定した。もはや駄々を捏ねる子供――嘘です、素敵な女性の間違いでした。だから怒らないで、機嫌直して?
「お前なぁ。移動許可申請を出した時に相当に疑われたの忘れたのか?それに自分が相当な有名人だってのも忘れてるだろ?今のところ市民側にまでは知られていない様だが、バレたら今まで通りとはいかないぞ?」
「構わんよ」
「いや、構えよ。ナギ君、このままじゃあ幼児性愛者の汚名被りまくりだぞ?」
「構わんよ」
いや、構ってよ。ねぇ頼むから2人とも俺の目を見て話そう?
「俺も兄貴が納得してるなら何も言いませんが……でも、どの世界でも子供に手ぇ出すのは最低のクソ野郎ってのが共通認識ですよ?一時的な姿だってのは俺達知ってますが、でも知らない連中から見たら確かに勘違いされちまいますよ。で、悪い噂ってのは広まるのが早いモンですから、用心するに越したことはありませんよ。エリーナのねぇさん」
ジャスパー君、意外と冷静に物事判断できるじゃない?ならなんであの時、俺に突っかかったの?と、まぁその後も喧々囂々の意見交換が狭い部屋の中で交わされ、何時の間にかワイワイと騒然としだし、最終的に周囲の宿泊客から怒られた辺りで一旦今日のところはお開きとなった。
静かになった部屋で天井を見ながら今日の出来事を思い出すが、やはり占い師の話辺りで記憶が途切れる。だけど――
「今現在の貴方を絡め取る無数の糸を断ち切ってでも、元の世界に戻りたいですか?」
ふと、それだけを思い出した。俺は、一体なんて答えたんだ?どうして思い出せないんだ?俺に一体何が?いや、今は何よりも――
「さぁ、じゃあ寝ようかの」
君さぁ。なんで当たり前の様に一緒のベッドに入ってくるんです?ってもう寝ちゃったよ。あぁもう、何処で寝るかなぁ。




