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不穏な気配 其の1

 エリーナを見送り、暫くベッドに横になった。乳白色の飲み物か、それとも後に貰ったヤベェ粉が原因かは分からないが、体調は直ぐに良くなった。


 となると手持無沙汰になり、寝ていても暇だと意を決し外に出た。目的は観光。昨日到着した頃には既に夜更け、更に飲兵衛共に酒場へと連行されたせいでゆっくり景色を見ていなかった。


 この都市の治安は比較的良いらしい。しかも何やら大きな会議が行われる関係で警備も厳重で、帯剣した兵士と何度もすれ違った。そんな理由も外出を後押しした。


 初めて見る大都市はハイペリオンかそれ以上に清潔で、清掃も行き届いていた。等間隔で並ぶ家屋は一つとして乱雑な造りはしていなかった。木製、石造、色々あるが、どれもこれも綺麗で整然としている。


 清潔であるには理由があるとはアイオライトの言葉。都市の外は危険な生物や都市から逃げ出した犯罪者が跋扈(ばっこ)する危険地帯。だから都市内で災害やら疫病が発生しても地球みたいに外に逃げる選択肢がなく、だから治安以上に衛生面の維持は必須だそうだ。


 清潔であるという事は良いことだけど、この世界だと逃げ場が何処にも無い恐怖の裏返し。そう考えると何ともやるせない気持ちになった。


「お客様」


 誰かが呼んだ。表通りを見た。結構な数の人が往来している。空を見上げた。時刻は分からないが、恒星が真上に来ていないところからするに、恐らく昼前か。カフェなどのドリンクを提供するバーみたいな店は辛うじて開いているが、本格的な食事の提供はまだみたいだ。恐らく準備中と書いてある札が下がっている。良い匂いも漂ってくるが、客引きの姿もメニューの看板も見えない。気のせいか?


「お客様」


 また声だ。だけど今度ははっきりと分かった。綺麗な街並みの影、表通りから一歩外れた裏通りからフードを目深にかぶった誰かが俺を見つめていた。視線が重なれば、笑みを浮かべた唇に引かれた口紅に目が吸い寄せられる。どうやら女のようだ。が、怪しい。この世界に来てからコッチ、ずっと女難続きだった俺の中の何かが訴えかける。


 ※※※


 怪しいとは思いつつも、最終的に女を無視出来なかった。案内されるまま、裏通りを歩き続けた。店と店の間の狭い通路、曲がりくねった裏道、大人一人が辛うじて通れる程度に狭い階段、ところどころで水路工事をやっているせいで妙に通り辛い場所を通らされ、目的地に到着した頃には恒星が真上に昇っていた。


 目に入ったのは通路の袋小路に置かれた小さな机。その上には水晶や見慣れない何枚かのカードが置かれていた。どうやら占い師みたいだ。占いは余り信じない性格だけど、こんな魔法万能の世界の占いとなれば俺達の世界とは違うかもしれない。そんな期待に僅かながら胸が膨らむ。


「うふふ。お客様、遠くからわざわざいらっしゃったんですね」


「わかるのか?」


「その程度は。だってアチコチ珍しそうにキョロキョロしていましたから。でもそれ、直ぐにやめた方が良いですよ。治安が良い、とは言え他人を騙そうとする連中は何処にだっているものですから」


「でも、それってアナタにもいえるんじゃ?」


 ちょっと嫌味っぽかっただろうか?とは言え、こんな人通りが絶無の場所に店を構えるなんてどう考えても怪しい。


「ウフフ。では今日のところはサービスさせて頂きますよ」


 女は俺の言葉を軽やかに交わしながら会話を続ける。サービス、タダで占うつもりなのか?


「そっちの方が怪しいよ。タダより高い物はないってのが俺の()()での教えでね」


「まぁまぁ、お気になさらずに。さて、貴方……会いたい方がいらっしゃいますね?」


 またも軽やかに交わされた。女は嫌味に全く動じない。更に会話の主導権も握った。ただ、よくある常套句(じょうとうく)だ。田舎から来た旅行者と思っているなら故郷に会いたい人が居ると考えても不自然じゃない。そんな抽象的な物言いをして、でも具体的な名前や関係性に言及しないのがその証拠。


「おや……貴方、不思議な方ですねぇ。貴方には複数の(えにし)の糸が絡まっているようです。数は……おや、4本も」


 4本?あの姉妹の事か?まだ何も話していないのに四姉妹との関係を言い当てた。もしかして、この占い師は本物なのか?疑念を他所に、女は言葉を続ける。


「そうですねぇ。だけど貴方、ちょっと絡まり過ぎていて正確な本数が分からないんですよ。ですが、一際強く太い糸が見えます。それは4本の糸と違は違いとても、大陸よりも遥かに遠い場所から繋がっていますね。どうやら貴方は本当に数奇な運命にあるようですね。糸はやがて遠い場所から貴方の元へとやってくると、占いにはそう出ています。そして貴方は、その糸を己に手繰り寄せたいと思っています」


 遠い場所。もしかして、異世界の事か?この占い師、俺が異世界から転移してきたのを言い当てた?異世界からの転移という出鱈目な手段はこの世界でも非常識で、誰にも信じて貰えないと判断したからこそ、エリーナは俺を(問答無用で)夫婦とする事でこの世界での身分を確定させたのに。


「さて、ここから先は商売のお話になります。もし私の言葉が貴方の心境を言い当てていたのならば、運命の糸を自らの元に手繰り寄せたくはないですか?」


 占い師はさらに畳み掛けた。


「出来るのか?」


 俺の問いかけに占い師は微笑んだ。そんな事、本当にできるのか?


「勿論。但し、とても遠いようです。なので相応に準備が必要になりますがね」


「金か?そんなに持っていないぞ」


「分かっております。なので先ずは貴方の意志を確認したい。遥か遠い、果て無き世界から繋がる運命の糸を手繰り寄せたいですか?今現在の貴方を絡め取る無数の糸を断ち切ってでも、元の世界に戻りたいですか?」


 正直なところ、半信半疑だ。が、俺の疑問に占い師は淀みなく回答した。地球は滅んだ。ただ、実際に見た訳じゃない。戻るのは無理。だが呼び寄せるなら、もしかしたら――そんな希望が心の底から浮き上がる。


「さぁ」


 占い師が急かす。俺は――

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