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ヴィルゴ 其の2

 旅の安全と引き換えに連日二日酔い寸前まで飲まされる日々は、目的地に到着しても続いた。この飲兵衛共め、と毒づきたいがジルコンのお陰で何のトラブルもなしにこの都市に到着したのは間違いなく、だから断り辛かった。


 目下最大の問題、二日酔いは神が俺の身体に埋め込んだ「異能の種」が解決してくれたみたいで、少々頭が痛い程度で済んでいる。ちょっと情けないが、何にせよ助かった。ただ、コレ本来は二日酔いなんて想定してないよね。


 とにもかくにも、その力の影響で地球にいた時と同じかそれ以上に飲んでも後を引く辛さを感じない。しかし、俺は力があるから納得出来るんだけど、アイオライトもジルコンも相当に飲んでいる筈なのに全くそんな影響を見せないのは何なの?


「会議終わるまで俺達ココに居ますんで、何かあったら遠慮なく呼んでください」


「あぁ。有難う。ジルコンにもよろしく伝えておいてくれ」


「オス。アイオスの兄貴。それじゃあ兄貴、また後で!!」


「じゃあ俺は庁舎に顔出してくるから、夜までには体調治しとけよー」


 部屋の扉の向こうから元気な声と遠ざかる足音が幾つも聞こえた。昨日、俺と同じかそれ以上に飲んでいたジャスパーもアイオライトも、二日酔いなんて知らぬ存ぜぬと振る舞う。


 俺も酷くはないが、軽い酩酊感が残っているし、昨日酔っ払い共に絡まれしこたま酒飲まされたアクアマリンは完全にダウンしている。ホントに身体の構造どうなってるの?


「聞こえるかー?」


 なんで部屋の中から声が聞こえるんですかね?扉、開けた音しなかったよ?嫌な予感に頭まで被っていた毛布を取っ払うと、もう当たり前のように俺の部屋で(くつろ)ぐシトリン|(カスター大陸のすがた)もといエリーナがいた。


 彼女はよぅ、と気兼ねない挨拶もそこそこに透明なコップに入った乳白色の飲み物をベッド横の机に置いた。


 触るととても冷たい。恐らく起きるまで冷やしていたか、あるいは持ってきてから時間が経っていないのか。なんにせよ手に伝わる冷気にエリーナの労わりを感じ、そのままグイっと飲み干した。でも、受け取っておいて今更だけどコレは何?


「豆を煮詰めて作った飲み物に果物を混ぜたヤツ。二日酔いに効くぞ」


 有難い。子供の姿になってもこういた部分に気が回るのはやはり長姉として苦労してきたからだろう。もしや、今はっちゃけてるのは手間がかかる妹達(特にゆるふわストーカーのアメジスト)がいないからか?そう考えれば、今まで300年近く苦労してきたんだろうな、と酷く同情すると共に少し位は我儘を聞いてやるべきか、なんて気持ちも湧く。


「後はコレも飲むと良い」


 次に手渡されたのは粉末状の薬。口に流し込めば程よい苦みから来る不快感が舌から脳へと伝わる。この懐かしい感覚、整腸薬とか胃腸薬の類か。この世界にも漢方薬みたいなモノがあるんだなと、奇妙な類似点から地球で味わった懐かしい苦みを思い出しつつ、粉薬を全部口に含んだ直後――


「あぁ、それな。精力剤……って汚い!!コラ勿体ない、吐き出すな飲みこめッ!!」


 いいや無理だね、と勢いよく噴き出した。マジ何考えてんだ、と口調が強くなるのは当然。少なくとも朝っぱらから渡していいブツじゃない。


「え?何って、何が?」


 が、エリーナの反応はコレですよ。君、なんで俺の方がおかしいみたいな反応するんですかね。いや、もしかしてコレも体調が良くなるからと貰って来た薬とか?


「え?いやだって夫婦だし?」


 ちょっとでも同情した俺が馬鹿だったよ。


 ちょっとでも同情した俺が馬鹿だったよ。


「時間帯がどうだとか、ワシはそんな些細なことは気にしないぞ?」


 いやもっと大きなことを気にしようよ君はさぁ。と、何時もの如くそんな常識的なツッコミが頭を過るが、同時に多分今の彼女に説教しても無駄なのだろうという話を思い出した。本来の彼女らしい理知的な精神は、子供の身体に引き摺られているらしい。


 そう言えば、地球の情報を見たアメジストが、憑依とか狐憑きみたいな状態も魂の力関係が強いことが関係しているとかナントカ言っていた記憶がある。強力な魂の欠片が何かの切っ掛けで別の肉体に入り込み、操るとか。魂とは、本来ならばそれ位に強いのだそうで。


 ただ、彼女の場合は強力な創造魔法?だったか、その力の代償に魂が弱くなっていて、肉体とのバランスが逆転している。その身体も創造魔法だかで造ったらしいから尚の事。


 つまるところエリーナ状態ではシトリンとしての理知的な性格に期待して説得しても無意味。と、いう事は彼女が戻らない限り今後もいい様に扱われるのは確定している訳で。しかも、彼女の護衛を買って出ている以上、逃げられないんだよなぁ。


「仕方ないなァ。じゃあワシも仕事で中央会議場に行ってくるからな。元気になったら外に出ても良いが、余り無茶はするなよ旦那様。それから金も渡しておく。ある程度の知識は教えたけど、でも最低限度だから面倒なトラブルに巻き込まれる可能性もあるから気をつけるんだぞ。最後、夜までにはちゃあんと帰ってくるのも忘れずにな?」


 エリーナはそう言うと小悪魔ッぽい笑みを浮かべながら部屋から出ていった――かと思えばUターンすると俺の額に軽く口づけをした。顔には無邪気な笑みが浮かぶ。が、直ぐに真顔になり――


「付き合いとは言え、毎夜毎夜酒浸りは許さんからな」


 耳元に正論を囁いた。はい、誠にごめんなさい。ぐうの音も出ません。護衛ですし。


「うむ。一直線でワシのところに帰ってこい。何せ夫婦じゃからな」


 あぁ、その設定は継続するんですね。いや、文句はないですよ?世話になってますし感謝もしてますよ。だから毛布をめくるな、添い寝しようとするな、はよ仕事行け。はぁ、俺は後何回彼女にツッコミを入れ続ければいいんだろうか。

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