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決闘 其の2

 不幸は誰であろうが何時であろうが容赦なく牙を剥くもので――


「じゃあ迷わず天国に行けるよう祈れよ人間、覚悟は出来たかァ!!」


 ただ歩いて港町から出ようとしていただけの善良な俺はいきなり因縁を付けられた訳ですが、一体前世で何したら新天地で売られた喧嘩があれよあれよという間に決闘にバージョンアップするんでしょうね。


「では勝負を始めよう。だがジャスパー、どんな理由であれコレは部族の掟に則った決闘だ。負けたら……分かっているな?」


「俺ァ大丈夫だよジルコンの兄貴。そんなに根性腐ってねぇよ」


 俺は大丈夫じゃない。後、お前は腐ってないけどひん曲がってるぞ。しかしどうする?勢いで勝負受けちゃったけど、コレ勝ち負け以前に生き残れるか?


 身長は俺よりも遥かに高い。鍛えた体は巨木の様にどっしりとしている。対照的に目は酷く冷静だ。獣や、その辺のチンピラとは訳が違う。感情と戦闘を完全に切り離している。


 オークという種族は好戦的な割に戦闘となればとても冷静の様で、まるで戦うために生まれた種族と説明されても違和感がない。


「客人。僭越(せんえつ)ながら一つ助言を。勝負は最初の一撃で決めるつもりでいけ。真っ直ぐ突進して拳を振りぬく、ソレだけ考えれば良い。君ならできるさ」


 いざ勝負が始まるという直前、背後からアドバイスが飛んで来た。何時の間にジルコンの大きな顔が見えた。アドバイスを寄越してくれたのは有難いけど、この人は俺を助けたいのか殺したいのかどっちなんだろう?


 いや、目とか態度とか言動だけ見れば助けたいんでしょうけどね。ええい、もう後はなるように成れ、だ。始まってしまえばもう逃げるなんて出来ない。なら助言通り、一撃で決める。


「では、始めッ!!」


 ジルコンが叫ぶと同時、周囲をぐるりと取り囲んだ野次馬が歓声が怒号に塗り潰された。声に惹かれるように野次馬が更に集まる。


 周囲は完全に人だかりが作る壁に取り囲まれ、逃げ場は無い。興奮が作り出す熱に、僅か陽炎みたいなものが見えた。


「ホラ、来いよッ。特別に一発だけ殴らせてやるからよォ。オラオラ、どうしたァ!!」


 戦闘開始の合図にその場から一歩として動かず、ひたすらに俺を挑発し続けるジャスパー。熱気に当てられたのか、再び興奮し始めている。コイツ、意外と調子乗り易いな。


「ほらほら、坊ちゃん歩けるかァ?」


「あんよが上手ってなァ。それとも震えて動けねぇか?」


 無言の俺と余裕で挑発するジャスパー。緊張と余裕。そんな対立構図を見るまでもなく、誰もあの男の勝利を信じて疑わない。同調するように周囲からも挑発が上がった。何か、感情のブレーキが壊れた気がした。


 思い出せ、森の中を我武者羅に駆け抜けた数日前のあの時を。やることはシンプルに、何も考えず全力で走って、殴る。


 相も変わらず挑発するジャスパーを睨み、目一杯足に力を入れ、石畳を蹴った。あの時、数日前にアメジストを抱えて森を走り抜けた時の同じ感触が肌と足から伝わる。思い切り拳を握り、振り抜き――


「オラ?どうしべぶらぶぼおおおおおおぉぉぉぉーーーー!!」


 あれ?と、我に返った。聞こえたのは意味不明な叫びとドップラー効果の如く遠くに消えゆく声。気が付けば、あの男がいない。いや、いた。ジャスパーは面白い様に吹っ飛びながら、あっという間に魔法陣を飛び越え、その向こうで囃し立てていた人だかりを吹き飛ばし――


 ドボンッ


 奥に広がる青い海の中に消えていった。待てども海から上がる気配はない。喧騒が一気に消えた。勝負は呆気なく終わった、みたいだ。


「あれ?」 


「は?」


「え、嘘でしょ?」


 誰もが何時か姿を見せると信じ、呆然と海を眺める。オーク達は言わずもがな、俺をけしかけたジルコンも、アクアマリンも絶句していた。まぁ、何より俺自身が一番驚いたの俺なんですがね。


「なんだァオイ!?」


「話違ぇぞ!!」


 方々から驚嘆や怨嗟(えんさ)の声が上がった。混じる様に賭けに負けただの勝っただのと言った叫びがない交ぜになって聞こえる。折り重なる怒号が、次第に俺を責め立てる。どうやら大半が賭けに負けたらしい、ってソレを俺に怒鳴られても知らんがな。


「っと、いかんな。このままじゃあアイツ死んじまう。オイ、誰か助けてやれ」


「ハ、ハイ兄貴!!」


 正常な思考を取り戻したジルコンの言葉にいち早く反応したオークの女性が急いで海に消えた。残りは相も変わらず怒りに任せて声を上げ、俺を睨みつける。ただですね、何か俺も予想外なんでそう責められても困るんですよね。


「オイオイオイちょっとまてやァ!!」


「テメェ、ジャスパーに何してんだゴルァ!!」


 何やら空気がおかしくなった。俺を責める怒号の中に、明確な敵意が混じり始めた。もはやお約束と言わんばかりに一部の血気盛んなオークが殺気立ち、俺の元へと向かって来た。


「何のつもりだ?ソレぁ俺の顔に泥塗るって分かっての行動か?」


 が、ジルコンが睨みを利かせた。オーク達は一様に震え、その場から一斉に後ずさった。


 直後、ザパンと海から何かが引き上げられた。オークの女性がジャスパーを抱えている。数秒前まで相手を見下していた男の顔を見て絶句した。完全に白目をむいている。やべぇ。俺も絶句した。


「先ずは客人、おめでとう。奴ならあの程度じゃ死にやしないから大丈夫だ。ま、一日位は動けないだろうけどな。鼻っ柱伸びた若造は適度に折ってやらないと正しく精神が育たない。だからアレで良い。君はよくやった。それから我儘(わがまま)を聞いてくれた礼に今夜の飯と宿代は俺が奢ろう」


 ジャスパーとは別の意味で顔面蒼白になっていた俺を見兼ねたジルコンが慰めつつ、無遠慮に俺の背中をバシバシと叩いた。どうやらこの結果にご満悦の様子だけど――


「あの……兄貴。ひょっとしてこの結果、分かってたんじゃないスか?」


 だよね。多分、俺が勝つと確信していて決闘を提案したみたいだ。もしかして、利用された?


「だとするなら、ソイツ誰なんスか?幾ら油断してたって言ってもジャスパーが一撃とか、有り得ねぇよ」


「噂のチキュウジンがこんな出鱈目に強いなんて、島じゃぁ誰も言ってませんでしたよ?」


 残念だけど俺もびっくりなんだなコレが。確かに地球の神様から凄い力を貰ってはいるんだけど、正直なところ自分でも種がどんな能力を開花させたのか測りかねていたところだった。今日、この日までは。


「さあな。ただシトリンとルチルが認める程度には強いぞ」


 ジルコンは俺をそう評価した。そうか、シトリン――今はエリーナと、後はルチルの特訓の成果もあっての今日の結果らしい。


 考える程に俺、世話になりっぱなしだな。が、何やらまたしても様子がおかしい。ジルコンの言葉を聞いて以降、全員は一様に押し黙って何も語らなくなってしまった。何?何があったの?


「「「「「そういうことは早く言ってよ!!」」」」」


 オーク達の汚いダミ声が奏でる美しいハーモニーが周囲に木霊すと、直後から彼等の俺を見る目が明らかに変わった。ついさっきまでのゴミを見るような目は鳴りを潜め、羨望と若干の恐怖が入り混じった目になっていた。


「ワハハハハっ。言ってもどうせこうなったさ。さぁさぁ客人、先ずは酒だ」


 何だったんだ?が、すいません飯でしたよね?さりげなく自分優位の目的にすり替えてません?僕ぁ大人なんで一々指摘しませんがね。つーかこの人もアイオライトと同じ飲兵衛か。となると、また今日も二日酔いかぁ。


 俺は未だ喧騒収まらない一角を逃げる様に離れると、何やら上機嫌になったジルコンに案内されるままに港を後にした。が、後ろからの視線が痛い。相当数が負けたらしいけど、刺されないよね俺?

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