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決闘 其の1

「だからどうしたよ?関係ねぇよ。オイ、良いか。俺はお前等クソったれの人間とは違う。だから大人しくこっから出ていけば見逃してやるよ。ホラ、とっとと尻尾巻いて逃げちまえよ、なァ?」


 際立って好戦的なジャスパーという男がひたすら煽り続けると、周囲も煽り文句に下品な笑いを添える。明らかに挑発。逃げるべきだろう。むきになって喧嘩を吹っ掛けてもあの体格差だ、返り討ちにあうのは目に見えている。


 それに、と無骨な両の手にを見た。拳ダコ。身体能力頼みの腕力馬鹿じゃなくて、ちゃんと武術も(たしな)んでいる。高圧的な態度の裏には己惚れるだけの力量と自信。体格だけでも勝ち目が薄いのに技術面も上では文字通り手も足も出そうにない。


「ちょっと、いい加減にして。種族間の争いはご法度よ」


 流石に、とアクアマリンが制した。露骨な動揺と危機感が言葉から伝わる。ただ、ちょっと遅かった。元から調子に乗りやすいのか、既に喧嘩を売り終えたつもりでいる。既にやる気満々だ。いやもうホントさぁ――


「弁えろ、ジャスパー」


 そんな雰囲気が、背後からの低くドスの効いた声に霧散した。周囲の熱気が一気に冷える。周囲を見た。誰も彼も、何かに酷く怯えている。恐怖に(すく)む視線の先を追った。港から桟橋へと続く石畳の道路の人込みの中心に、ジャスパーよりも更に大きな男が仁王立ちしていた。怖えぇ。


「だけどよぉ。ジルコンの兄貴!!」


「止めろと言ったはずだ」


 ジャスパーは食って掛かったが、大男の威圧たるや凄まじい。止めろと静かに語っただけで、野次馬連中含めた全員が纏めて恐怖に動きを止めた。が、確かにそうせざるを得ない。


 身体が固まる。睨まれるだけで呼吸が困難になる。動いたら、余計な事をしたら殺される。大男から立ち昇る威圧的な気配が、そう語り掛ける。


「済まない。君の話はアイオスから聞いている。血の気の多い連中が迷惑を掛けて済まない。俺はジルコン。ココで商売とか面倒ごとの仲介を主に担当している。宜しく頼む」


 力が抜けた。この大男、ジャスパーよりも圧倒的に強く、見た目も凄まじく厳ついのに性格だけは完全に真逆で紳士的だった。喧嘩っ早い連中とは大違いだ。


 大男はにこやかな笑みと共に手を差し出した。反射的に握り返す。ふむ、と大男は俺を上から下まで見回し――


「ジャスパー。納得したか?」


 背後に声を掛けた。あれ、何かおかしかった?


「する訳ねぇよ」


 意味不明な質問に、ジャスパーは即答した。ジルコンが今度は俺の目ジッと見つめる。すいません、何か嫌な予感がするんですが。とても、とても嫌な予感がするんですが。コレ、最近よく当たるって評判なんですよね。


「そうか。ならば我が部族間の習わしに従い拳で解決しよう。客人、君が望むならばという条件だが……もし良ければ受けて貰えないだろうか?」


 何となくそんな予感がしてました。でも争いはご法度なんですよねアクアマリンさん?

 

「私は何方でも。というか一度くらい痛い目見た方が良いですよ」


 駄目だコイツ。完全に俺を外道か何かだと勘違いしてる。いきなり孤立無援。この場にアイオライトかエリーナがいれば止めてくれたんだろうけど。しかも相手はオークとかいう明らかに肉弾戦向きの種族。俺なんか死んじゃうよ?いいの?


「オイオイ、ジルコンの旦那ァ。良いのかい?言っちゃ悪いがソイツ、全然鍛えてないぜぇ?」


 野次の指摘はごもっとも。異能の種とか言う訳の分からない力のお陰で多少は強いかも知れないし、仕事や勉強の合間に模擬戦みたいな真似事もしていたけど、正直そんな程度でガッチガチに鍛えた大男と戦いなるかって言ったら無理じゃないかなあと思うんですよ。


 大体にして模擬戦の相手だったシトリンとかルチルにもてんで敵わなかったし。だからアクアマリンさん、ココは一つ禍根(かこん)を乗り越えて俺を助けてみませんか――ダメだアイツ、完全に俺を視界から外してやがる。


「ジャスパー、お前が勝てば彼はココから早々に引き上げさせ、仕事も俺が代わりに引き受ける。その代わり、お前が負けたら彼への扱いを見直せ」


「俺は構いませんぜ。但し、ソイツが決闘を受けるんならだけどなァ」


「分かった。さて、客人。ジャスパーには部族の掟に則った決闘の結果は必ず守らせる。どうかね?」


 ジルコンという人は穏やかで、極めて冷静に俺を諭す。ただ、いやもうヤケクソだ。ソレにあの男、一発くらい殴ってやらなきゃ気が済まない。


「やるよ」


 俺の一言に周囲の野次が歓声に変わった。が、大半が何分で死ぬか賭けている上に数少ない応援もせめて数分は生き延びろという微塵も嬉しくない不吉な内容ばかり。


 いやその前にさ、せめて賭けは止めろ。最悪ソレは許すとして、一分持たないなんてムカつく選択肢に賭けるな。


「そうか。ではルールは武器無しのスデゴロ。先に気絶かギブアップした方の負けだ」


 ジルコンはそう言うや手早く周囲の人間に指示を出し、瞬く間に四方に十メートル程度のエリアを確保した。手際、良いっすね。


「ついでにこの円から外に出たら負けというルールも追加しましょう」


 既に誰よりも決闘に乗り気なアクアマリンも手際よく空いたスペースギリギリに仄かに光る円形の魔法陣を作り出した。アクアマリンさん、君なんでそんな楽しそうなの?他人事だと思って好き勝手――いや、完全に他人事だなアレは。嫌われてるなぁ、俺。流石に(へこ)むよ。

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