旅立ち 其の2
――いっつもココに居るね?
――1人が好きなんだ。
――どうして。
――なんだっていいだろ?
――なら今日は私が傍にいる。
――物好き。
――なんか言った?
――イイエ、ナニモイッテナイデス。
※※※
何時もとは違う固いベッド。薄い毛布。揺れ動く身体。慣れない環境に、ハと目が覚めた。寝覚めは悪い。しかも何か、また昔を夢見ていたような気がする。思い出したいような思い出したくない様な昔の思い出。
少し痛む背中にあぁ、と昨日までの環境を思い出す。俺、凄い恵まれてたんだなと改めて理解した。戻ったら、改めて感謝を伝えよう、と違和感に気付いた。
寝る前と何かが違う。温かい感触があるんですが――もしかして彼女か?懐かしくも嫌な予感に白いシーツを急いでめくると、薄着で眠りこけるシトリンがいた。まだ姿が戻らないのか、少女の姿をした彼女は、さも当たり前の様に俺のベッドで休んでいた。小さな部屋の2段ベッドの上が君の割り振りでしょうが。
「ウ……ン?あぁ、おはよう」
「おはよう。なんでここで寝ているの?」
「君はワシの護衛だろう?」
追及するが、のらりくらりとかわすシトリン。理由になってねぇ。
「一緒に寝る必要ある?」
「ワシがあると判断したらある」
「えぇ……」
力強く言い切られたらこれ以上の何も質問できない。呆れる俺を他所に、随分と華奢で小さい身体に変わったシトリンが大きな背伸びをした。以前はもっとこう、女性らしく美しい凹凸があったのだが、今のぺったんこな身体は正直何とも思えない。
というかこんな状況、見られただけでアウトだよね。鬼畜野郎という評価にロリコンが合体すれば、あの島での俺の評価は地の底を潜り反対側へ突き抜ける。
ただ、こんな身体になった経緯を責めるなど出来ないし、元に戻れとも軽はずみに言えない。どうやら彼女だけにしか扱えない特殊な魔法を使った反動だという。正確には桁違いに強い魔力により損傷した肉体を治癒する為、予備の肉体に魂を移し替えているそうだ。
アメジストが派手に破壊した島の環境を復活させる為に使用した創造魔法とかいう力の影響でシトリンの肉体が破損した。復活するまでの間、魂を保管してく為に用意した仮の入れ物がエリーナ。
アイオライト曰く、300年以上生きたシトリンという魂には経験の蓄積により育まれた性格、知識、俺との番など色々な情報が刻まれているらしい。その魂の情報が肉体側の情報、特に子供っぽい屈託のなさや純粋さといった性質の影響を受け歪んでいるそうだ。
本来ならば魂と肉体の力関係は魂側が強いらしいが、創造魔法行使による疲弊と、魔法によって作られた強靭な肉体という二つの要素によりバランスが逆転しているのが今の状態。
何となくだが奔放で子供っぽい理由は分かった。が、納得し難い。コレはコレでマズい。大人時の理知的な性格の片鱗は窺えるが、流石に無邪気過ぎる。
しかも彼女は俺の番、運命の相手の一人。その情報は全く忘れていなくて、俺への好意を全く隠そうともしない。好かれる事自体は有難いが、この体格差と見た目の年齢差はどう控えめに見ても犯罪臭が漂う。なのに当人はお構いなしに接近してくるのだから堪ったものではない。
頼むからそう言うのは大人の姿でお願いしたい――と、彼女の機嫌がみるみる悪くなった。やべ、もしかして考えていることが顔に出ていたのか?
「おーす。起きてるか?」
助け船が入った。アイオライトがノックもせず部屋に入って来た。少々無遠慮だが、この際どうでも良い。
「うむ」
「お、おう?妙に不機嫌そうだが朗報だ。そろそろ港につくぞ」
確かに朗報だ。が、ちょっと早くないか?島を出たのが昨日の午前中位だったような気がするが。
「そりゃあ、な。ローズが援護してた。早く帰ってきて欲しいんだろうな、ずっと追い風状態だったお陰で到着予定日時が相当前倒しさ。ま、悪い話じゃないがね」
そう、悪い話じゃない。んだけども、シトリンの機嫌が更に悪化した。なんでさ?
「今はワシの事だけを考えろ。それから、今のワシはシトリンであってそうではない。今の名前はエリーナ=クォーツだ、覚えたか?」
シトリン、もといエリーナは俺をビシッと指さす。どうやらこの旅の間はずっとこの身体のままでいるつもりらしい。凹凸、は考えるのは止そう。まーた機嫌が悪くなった。
「ハハハッ、もてるねぇ。それじゃあ行こうか」
俺達のやり取りに酷く上機嫌なアイオライトは一足先に甲板へと向かった。背を追い、階段を昇る。甲板の先に、見慣れぬ景色が広がった。




