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サバイバル 其の4

 走って走って走り続けて、足が止まった。ここまで来て――なのに、これ以上進めない。


 空を見上げた。灰色の雲を両断する深緑。都市のシンボル、神樹が見える。視線を落とす。目の前には石造りの橋。昨日、転落した場所だ。ただ、当たり前だが橋は崩落したまま。このままでは向こう岸に渡れない。助走から一気にジャンプしても届くかどうか。しかも、今はお荷物を抱えた状態。


 化け物が迫っている状況で記憶喪失のアメジストを放置する訳にはいかない。と、胸元の彼女を見下ろした。


 コイツ、やっぱり全然状況を理解していないな。しがみつくの止めろと言うのに、止めないどころか熱っぽい視線で俺を見上げて、かと思えば周囲をキョロキョロと見回したりと忙しない。君、ホントに状況見えてる?


「おい、聞こえるかァ?」


 肩が震えた。聞き覚えのある声が、不意に耳を掠めた。周囲を見回す。目の前を、小さい何かが横切った。最初は周囲をグルグルフワフワと飛び回っていたソレは、やがて俺の目の前に止まるとイヒヒッと無垢(むく)な笑みを浮かべた。


人工妖精(エアリー)ですね、コレ」


 だよね。とすれば――崩落した石橋の向こう側を見た。あぁ、予想通りで眩暈(めまい)がする。三姉妹とアイオライトがいた。全員揃って一様に目が座り、殺気が壊れた蛇口みたいに駄々洩れている。


「よぉし。先ずは言い訳から聞こうかァ?」


 言動と口調から間違いなくルチルはキレている。


「俺達に黙って何勝手なことしてんだ。ホントに毎度毎度、フォローするコッチの身にもなってくれよ?」


 口調こそ丁寧だがアイオライトも確実に怒っている。本当に、申し訳ない。


「オレとの約束よりもソッチ優先したツケは後で払ってもらうぞ」


 ン?ちょっと雲行きが怪しいな。シトリン、明らかに俺を責めてません?


「そうですね。とりあえず何からやってもらいましょうかね?」


 ローズもかなり怪しい。いや、俺も被害者なんですよね?と、視線を主犯に向けた。ふくれっ面で俺を見ている。ホント、気楽で良いよね。


「酷いです。私というモノがありながら、3人と浮気しているなんて!!」


 もうお前ちょっと黙っててよ。これ以上話を(こじ)れさせないでくれ。


「ちょおまて。記憶ないんか?」


 ルチルが動揺した。声を伝えた人工妖精(エアリー)も何故だか一緒に驚く。そうです。彼女、どうやら記憶喪失らしいんです。


「どぉりでオレ達見ても反応しない訳だ。ハァ、何となく予想してたけど頭痛ぇよ」


「なら後ろのアレ、どうします?姉さまなら軽く一掃できるんですけど、私達がするんですか?」


「仕方ねぇだろ?アイツ、今まで以上のポンコツだぞ?」


「それ自体は特に問題ないが……それよりも、無事で何よりだナギ君。で、そうなると残った問題はこの騒動の首謀者への説教位だが、どうする?」


「そもそもさぁ、ホントに記憶喪失なのか?そのフリしてるだけじゃね?こんだけアタシ達引っ掻き回しておいてタダで済むなんて思ってないだろ、流石にさ?」


「そうですねぇ……」


 あの人達、余裕だな。後ろから巨人やら何やら化け物の群れが目視出来る場所にまで迫ってるのにガン無視とは恐れ入る。


「竜一様」


 不意に、人工妖精(エアリー)からローズの声が聞こえた。とても静かで、妙に圧を感じる。


「贈り物の首輪、ありがとうございます。でも、出来れば私にだけにして欲しかったですわ。シトリン姉さまとルチル姉さまにまで贈るなんて……なので、今度お詫びにこの首輪、私に嵌めてくださいますか?」


 どうしてそんな事を頼むんですかね?後、なんで詫び?別に世話になっているから贈っただけなんだけど。いや、もしかして――嵌めてくれ、じゃなくて嵌められた?もしかしたら贈ったらマズい物だったのか?いや、でもそうするとなんで「私に嵌めろ」に繋がるんだ?なんで今そんな事を伝えるんだ?頭が混乱してきた。


 ふと、胸元に微かな震えを感じた。崩落した橋の向こう側に立つローズから少しだけ視線を下げる。涙目のアメジストがプルプルと震えていた。いや何事?


「ひ、酷い!!私そんなの貰ってない!!」


 ――ほぉ。君、記憶ないのになんで貰ってないって言えたの?


「嘘ついてるな、お前?」


 間髪入れずシトリンが追及した。途端に焦り出すアメジスト。君、嘘つくの下手だよね。後先考えねぇな君。


「あ……あの、ソレはホラ……ね?」


「やっぱり嘘だったのね」


「一時的な記憶操作とか色々あるだろうに、なんでベタに嘘つくだけなんだよ?」


「いやぁ。寧ろ使われなくて良かったと思う。簡単に尻尾掴めたし」


 しどろもどろになるアメジストを他所に、ローズ、ルチル、アイオライトの3人は仲良く呆れた。が、対照的な反応をする人が一人いまして――


「オイ。聞こえるなァ?」


 台詞と口調ではっきりと分かる位にシトリンがキレた。刹那(せつな)、アメジストが硬直した。普段は温厚な彼女を怒らせるのは相当にマズいらしい。


「は、はい!!」


「今すぐナギから離れて後ろのアレ何とかしろ」


「え?もしかして私をどかしてその隙にオヒメサマ抱っこを?」


 待てやコラ。何をどうしてその結論に着地したんだい君は?


「違う……よ」


 おや、と橋の向こう側を見た。何か様子がおかしい。俺を見つめるシトリンはほとほと呆れたのか顔に手を当てているが、口調にさっきまでの怒りを全く感じない。どしたん?


「オイ。なんで自信なさげなんだよ?」


「そうよ。私もして貰いたい!!」


「ローズ。頼むから話を(こじ)れさせないでくれ……」


 君達さぁ、ちょっと落ち着こ?ね?


「酷いッ、ココは私専用よ!!」


「「「「お前は早よ離れろ!!」」」」


 人工妖精(エアリー)から綺麗なハーモニーが届いた。全く持ってその通りです。姉妹+αからのごもっともな意見にアメジストは渋々俺の腕から離れ、名残惜しそうに見上げた。その表情はとても切なく、目には涙を浮かべているが、全く同情出来ないんですよコレが。


 この事態は全部丸っと君のせいだよね?ホント反省してる?あぁ、駄目だ反省してねぇ。つくづく羨ましいよ、その図太い神経が。


「じゃあ、行きまーす。そぉれ、太陽光集束照射(ヘリオース)!!」


 アメジストは俺の前に立ち、両手から魔法陣を展開し、聞いただけではどんな効果かさっぱり分からない単語を呟いた。


 直後、灰色の曇天に途轍もなく巨大な円が浮かび上がり、幾何学模様を描き、終わるや真っ白いレーザーが地面に向けて撃ち出され、見渡す限りの全てを一瞬で焼き払った。


 いやいやいや、ちょっとやり過ぎじゃないか?化け物は確かに消え去ったけど、森とかも完全に跡形も無く消え去ってるんですが。


「バッ……お前、加減しろよ!?」


「これ、まーたオレが元に戻さないといけないパターンじゃないか!!」


「ホントに加減だけは絶妙に下手ねぇ」


 三者三様にアメジストを責める。が、同意せざるを得ない。彼女、森を含めた眼前全てを焼き払った。いや、コレはちょっと凄すぎて閉口してしまう位には凄まじい光景だった。


 鬱蒼と生い茂っていた草木の緑は上空からの一撃を受けて完全に消失、辺りは焼け野原同然に裸の木々と立ち昇る煙だけが残る惨状。またそんな有様なので、当然ながら生物らしい生物も跡形もない。


 ――そう言えば、俺が吹っ飛ばした人間が居たような気がするんだけど、生きてるかな?


「まぁまぁ、取りあえず危機は脱した訳だし。後はそうだな……下にはアイツ等に対応する為の準備だった、としておこう。寧ろ、そうしないとナギ君に余計な嫌疑が掛かる」


 他人の心配をしている余裕はないみたいだ。アイオライトの言葉から察するに、俺の評価がなにやら不味い事になっているらしい。まぁ、その辺は何とかしてくれると信じよう。俺としては上手く収まるなら文句ないです。俺はね。


「まぁ、コレで問題は解決したわけですし。終わりよければ、という地球の(ことわざ)もあるそうですし……これでこの件は終わり、ネ?」


 終わる訳ないだろ。全てヨシ、じゃないだろ。終始グダグダじゃないか。余りにも楽観的で呑気なアメジストに俺を含め、全員が呆れて何も言えなかった。


 何をどう経由してその結論に着地したのかは知らないが、一度キッチリ叱られた方が良いと突き放した。途端、彼女はこの世の終わりみたいな表情で俺を見つめた。そんな風に見つめられても助けられないし――それに、別に言い辛くないからぶっちゃけるんですけど、俺も被害者なんですよね。


「あぁぁああ。だから見せたくなかったのにぃ」


 違う。俺が言いたいのはソッチじゃない。いや、確かに驚いたけど化け物一掃した件には寧ろ感謝してるから……と、言おうと思ったが止めた。俺の言わんとすることを理解したアメジストの表情がぱぁっと明るくなった。スイマセン一つ伺いたいんですけど、反省って言葉の意味って知ってます?


「じゃあ一杯褒めてください!!」


 はいはい。説教が終わった後でね。


「はいッ、じゃあ何時もみたいに部屋に行きますね」


 勝手にってのが抜けているし、説教がある事も完全に忘れている。ただ、何処までも我が道を進む彼女の言動は何時も通りで、だから安心して――緊張の糸が切れて、溜まった疲れが一気に噴き出して、ガクンと膝から崩れ落ちた。冷たい、ひんやりとした感触が身体中を伝う。視界が暗転する。直前、何やら姉妹達の叫ぶ声が微かに聞こえてきたが、内容までは分からなかった。

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