サバイバル 其の3
――朝
寝覚めは予想通り最悪、固い床の寝心地は思った以上にストレスでまともに眠れなかったが、それ以外は問題なかったのは不幸中の幸いか。
夜通し焚火を燃やし続けた甲斐あってか頭も痛くないし、熱っぽくもない。が、別の問題で頭が痛い。巻き込まれた形とは言え約束を破った事実に変わりなく、何とかしてシトリンとアイオライトの機嫌を取らないといけない。きっと怒っているだろうなぁ、特にシトリン。
そう言えば、少し前に首輪プレゼントしたけど、酷く喜んでくれたなぁ。地球の常識からしたら有り得ないんだけど、ならご機嫌取りがてらもう一個くらい贈っといた方がいいな。彼女、怒らせると怖そうだし。
「うーん。おはよぉございまぁす」
何とも気の抜けた声がした。君は何も悩みがなさそうで羨ましいね。本来なら俺と一緒にこの後どうやって姉妹達のご機嫌を取るか頭を巡らせ――だから一々抱き着くな、甘ったるい声を耳元で囁くな、柔らかい何かを押し付けるな。記憶戻ってないよね?ならなんで行動にブレがないの君?
※※※
アメジストが袋から取り出した非常食を口に放り込みながら外の様子を窺う。降りしきる雨は昨日までとは違い、小降り程度にまで落ち着いていた。
濡れるのは確実だが、身体が冷えるまではいかないだろう。当て所なく森を歩き続ければ昨日と同じ目に合うのは明らかだが、幸いにもこの島には途轍もなく目立つ物がある。超巨大な神樹。都市はその周辺にある訳だから、先ずは見える位置にまで移動できれば――
ズシン
何だ、今の振動?不意に起こった地震に驚いた。隣に座るアメジストを見た。ゆっくりと、少しずつ口に運んでいた非常食をポロリと落し、少しばかりご立腹と言った様子だ。相変わらずマイペースだな。この様子を見るに彼女じゃないな。と、すれば――
ズシン、ズシン
何だろう、嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感。心なしか、この独特な振動を何処かで経験した記憶がある。
そう、コレは――と、急いで洞窟の外へ飛び出し、振動の元へと走り、最悪の光景を見た。
巨人だ。しかも一体だけじゃない。何体もの巨人が一直線に、ゆっくりとした歩調で迷いなく突き進んでいる。しかも、見たことがないヤツまでいる。地球とは比較にならないサイズの猪とか鳥、その他色々。
そいつ等は総数も多くないし、巨人よりも随分と小さいが、それでも人を丸呑みに出来る程度には大きい。そんな化け物が迷いなく一直線に何処かへと向かっている。いや、どうやってこの島に上陸したんだ?
ただ、向かう場所は分かる。目的地は都市。直感し、引き返すとアメジストを抱え上げ、一目散にこの場を後にした。
「え?そんな強引な、でも私……アナタがそう望むなら……」
頼むからちょっと黙ってくれねぇかなぁ?そもそも余裕あるなら走れ。
「私、余りそう言うのは得意じゃないみたいで。だから代わりにこうしてぎゅーっとしてあげますね」
お前ホント記憶戻ったら覚えてろよ?後、せめてもっと役に立つことをしろ。大体、今が緊急事態だって分かってる?
と、愚痴りながら必死に足を動かす。一刻も早く、少しでも犠牲を減らす為に。あんな化け物が何匹も侵入したらどれだけが犠牲になるかわかったもんじゃない。
「は、早い!?。凄ーい。え?ホントよ?まるでお馬さんみたいですねー」
そう言われて悪い気はしない。が、冷静に周囲の景色を見てみれば確かに周囲の景色が猛スピードで後ろに流れていく。今の今まで全然気づかなかったのがちょっと悲しい。いや、違うな。単に精神的な余裕が無かっただけだ。
(そうだぞ。君の体内で発芽した種は今や君の身体能力を極限にまで引き上げているのだ)
昨日からずっと続くの悲惨な境遇を嘆いた直後、神様の野太い低音が頭に響いた。見てたんならもっと早く連絡しろマジで。そうすればなんとかできたと思いませんか?
(まぁそれはともかく、気を付けた方が良いぞ)
何がだ?いや、先ずそもそも今それどころじゃないから抽象的な助言は止めてくれ。もっとはっきりと――
(敵がいる)
何?敵?敵って何だよ?と、神様の言葉の意味が分からず混乱していたが、程なくその意味が分かった。
視界の奥に、小さな人影が映った。ローブを纏っていて性別の判別はつかないが、確かに人がいる。どうする?逃げるか、それとも応戦するか。だがこんな状況で正しい選択を即断出来る筈もなく、迷う間にもみるみる人影は近づき、やがて言葉がはっきりと聞こえる程の距離になり――
「ハハハッ!!死にたくなければ黙って言う事を聞けィ。貴様の身柄は人類とぶばぶべらっ!!」
ごめん。迷ってたら轢いちゃった。
(君ぃ、少しは話を聞いてあげた方が良かったんじゃない?何か重要な事を言いそうだったのに。やだぁ、かわいそぉ)
今、それどころじゃなかったでしょ?だけど、少し悪いことをしたかも知れない。後ろ目で様子を確認した。ローブがきりもみ状態から地面に激突、ピクピクと痙攣する光景が視界の端に映った。生きているのは間違いなさそうだ。なんか物騒な言葉が聞こえたから悪人だろうけど、とにかくホントゴメン。後で拾いに戻るから。
「ンもう。ちゃんと私だけを見ないとダメ」
直後、視界が強制的に前方を向いた。次に視界に映ったのはアメジストの不満そうな顔と、その下で揺れるたわわな膨らみ。が、何度も言うけど先ず状況を理解しろ。
「あぁ、私……とても幸せです」
俺は全然幸せじゃないんですけどね。後、だから今はそんな状況じゃないだろ――って、ダメだなコイツ。もう、それ以上を諦めた。
彼女の顔はお姫様抱っこ状態にご満悦。さっきまでの不満顔は何処へやら、見事にだらしない表情に変わっていた。あぁ、なんでこんな状況になってるんだ。胸の辺りの柔らかい感触が無ければとっくに放り投げているぞお前ホントその胸に感謝して下さいありがとうございます。




