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幕間2 暗躍 其の1

 ――明け方


 ハイペリオン城内は騒然する。城主たる総裁が行方不明となった。それだけでも大事だが、異世界からの転移者である伊佐凪竜一も同時に姿を消した。


 最大の問題は、この同時消失の話題が城内どころか都市全体にまで波及した点。この手の話は尾ひれがつき、真実を簡単に歪める。


 誘拐された、というう程度ならばまだ可愛い方で、既に亡き者にされた、何がしかの組織のスパイだった等々、内容はエスカレートを始め、既に収拾がつかない方向に歪曲しつつあるものだから姉妹達の焦りは尋常ではない。


 話がここまで(こじ)れた理由は幾つかある。エルフ自体が持つ、外界から拒絶されたこの島から積極的に出ようとしない消極的で異物に対し拒否感を持っている性質。そして伊佐凪竜一の髪の色。


 黒い髪は不吉の象徴というのは迷信だと誰もが知りながら、しかし彼が転移してきた日に巨人一体と巨大な鳥型幻獣数羽がこの島の土を踏んだ事実を結び付け、遠回しに彼を忌避(きひ)する様になった。


 それでも彼に具体的な悪意が向けられなかったのは四姉妹の中でも一番面倒を見ていたシトリンと、それ以上にアイオライトの働きかけによるところが大きかったのだが――誘拐騒動で全てが水泡に帰した。


「クソが。騙して連れ出したのはアメジストの方だってのに!!」


 長姉シトリンの怒りは特に酷い。


「落ち着けよ。それバラしちまうと総裁のイメージガタ落ちだ。ま、無理もねぇけど。アイツめ」


 比較的冷静な次女ルチルは珍しく怒りに我を忘れる長姉をなだめ落ち着かせる。が、当人ももうあと一押しもすれば長姉と同じく怒りに我を忘れそうな気配を(ただよ)わせる。


「いずれ噂は都市全域に広まるでしょうから、ソレまでに見つけ出して払拭しないといけませんね。それにしても、一体何を目的に郊外に出たのかしら?あの森に大した物はないですから、多分また考えなしに行動したんでしょうかね?」


 最後に控える末妹ローズは怒りを通り越し、盛大に呆れた。


「二人になりたかったんだろうな。ってんなら相応の準備はしてただろ、多分」


「それに、仮に何かトラブル起きてもナギなら大丈夫だろ?アイツ結構サバイバル関係の知識豊富だし、結構身体も鍛えてたぜ?なんでも子供の頃かららしいぞ」


「そうですね。それに、まぁ郊外といっても未整備なだけで危険はほぼありませんからね」


「但し……」


 一方、三者共通に2人が死んだとは微塵も考えていない。シトリンもルチルも姿をくらました2人を相応に信用しており、またローズが口に出した通り基本的にこの島に危険らしい危険はない。が――


 ギィ


 大会議室の大きな扉が開いた。シトリンが喉から出掛かった言葉を呑み込み、入室した男を見やる。アイオライト。神都ハイペリオンの総裁を守る最高戦力四凶の一人、約300年前に起きた人類との戦いに参加した英雄。


 彼の今の主たる役目は伊佐凪竜一の飲み友達として、また良き親友として彼の生活を補佐するという、派手な経歴の割には地味な仕事。「予想以上だ」と、アイオライトは簡潔に伝えた。


「そうか」


 シトリンの表情が強張った。


「で、具体的な数は?」


「分からん。ただ相当数が一直線にココを目指している。あり得ない話だ。ローズ、結界は?」


「勿論、完璧に機能しています。強風と結界で島の目視は不可能です」


「なら、間違いなく意図的にだな。問題は誰がって話だ。独立種(みうち)か?」


「ルチルよォ、俺がどれだけ苦労して仲を取り持ったと思ってるんだ。皆、過去は忘れている」


「なら……」


 誰かが何かを島に呼び込んでいる。では誰が?と、そこで誰もが口を閉ざした。四人が一様に同じ可能性を頭に描いた。


 シトシトと、外から微かに聞こえる雨音が室内に響く。誰も、何も語らない。無言の間。重苦しい空気が流れる。シトリンは天井のステンドグラスを眺め、ルチルは床に敷かれた真っ赤な絨毯に目を落とし、アイオライトは窓の外から白み始めた夜空を見つめた。

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