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罠 其の2

 ――夜


 微睡(まどろみ)の中で見たのはつい半日前のやり取り。どうやら疲れから眠っていたらしい。寝覚めは最悪だ。岩と石でできた寝床はゴツゴツと硬く、上に柔らかい深緑の葉が付いた枝を何層も積み重ねた程度ではほとんど軽減されなかたった。小さな焚火も、この程度では猛烈な雨により冷えた空気を温めるには全く足りない。


 身体が痛い。が、それ以上に寒い。近くで燃える焚火に幾つかの薪をくべた。パチパチと小気味いい音が洞窟の中に浸透するが、その程度では暖は取れない。続けて、無心で薪をくべ続けた。その度に炎は大きく燃え上がり、身体を少しだけ温める。揺らめく炎が、頭の奥で眠っていた思い出を照らし出す。


 ――あったかいね

 ――あぁ

 ――上手いね。どこで覚えたの?

 ――自己流

 ――何時も1人で?

 ――その方が落ち着く

 ――面倒じゃない?マッチとかライターの方が早く火が点くよ?

 ――不便や面倒を楽しめない様なら一人旅なんてしないよ

 ――いい言葉だね


 パチパチと燃える枯れ木が生む火の中に、ふっと過去が過った。どうして今頃思い出したのか、そもそもなんで唐突に――いや、違う。忘れたかったんだ。嫌な思い出が多かった地球(ばしょ)だけど、それでも良い事もあった。思い出、後ろ髪惹かれる、地球に残した数少ない未練。帰りたい理由――


「うぅぅぅん……」


 何とも蠱惑(こわく)的で気の抜けるような甘ったるい声が耳をくすぐる。焚火の向こうに、何とも気持ちよく眠るアメジストが横たわる。それまで色々考えていたのが全部馬鹿らしくなる位に気持ちの良い寝顔だ。俺がこんな状況になっているのは誰のせいだ?と、もう少し前の出来事を思い出す。


 彼女が珍しく真面な手段で俺に会いに来た理由は、まぁ端的に言えば温泉に案内してくれると言うだけだった。今までも散々に地球との類似点を見てきた訳だから当然温泉もあるだろうなと考えてはいたのだが、しかしソレが目の前に提示されるとなれば話は別だと、ノコノコついていったのが間違いだった。


 そもそも今の今まで俺の言葉も姉妹の忠告も暖簾(のれん)に腕押し、全く聞かなかったアメジストが突然大人しくなる訳がない。迂闊(うかつ)だった。


 ※※※


 この島には姉妹を含む極一部だけが知っている秘湯があると、そう教えてもらったのは都市の中心部から郊外へと出て程なくした頃。整然と並んだ石造りの家屋が並ぶ光景は、郊外へと一歩踏み出すとその様相を一気に変えた。


 結界を超えた先に広がる景色は、ちょうど反対側にある商業区域とも、その近くにある農地とも違っていた。良く言えば自然、悪く言えば人の手が全く入っていない雑然、鬱蒼(うっそう)とした森林だった。


「私達は元々自然と共に暮らしていました。だから寧ろ今の生活の方が異常なんですよ。でも人類を含む色々な種族と交流する内に自然とこうなっていました」


 俺の疑問に答えながら、アメジストは頬を伝う雨を拭う。雨が降りしきる中、動物の皮で出来たレインコートのフードから僅かに顔が覗けば、そこに見えたのは今までのちゃらんぽらんで適当で雑でいい加減で人の話を全く聞かない超ド級天然スト-カーとは違い、とても穏やかで見た目通りに魅力的なお姉さんだった。


 頼むから普段からそうしていてくれ。もし頭を打って記憶喪失になったのならそのままでいいから、と切に願った。


 が、そんなこんなでアメジストに案内されるままに鬱蒼とした森の中を進み続けても、それらしい物は見えてこない。


 行けども行けど見えるのは雨に濡れた木々と雑草、申し訳程度に舗装された道路。鐘の音が聞こえてこないから時間はまだ大丈夫そうだが、こんなに時間が掛かるのならば来るべきではなかったと後悔し始めた矢先――


「もう直ぐですよ」


 まるで不安を払拭する様にアメジストが囁いた。容姿もそうだが、澄んだ良い声をしている。性格が全部を綺麗に台無しにしている訳ですが。


 ともかく、彼女に促されるまま進むと、やがて重苦しい木々の向こうに大きな橋が見えた。石造りの頑丈そうな橋は、これまで歩いてきた道路よりも明らかに道幅が大きい。


 橋の下を覗けば雨で増水した濁流が轟音を上げている。落ちれば命はないと思える程度には流れが激しいが、流石に頑丈にできているのか橋はビクともしない――と思っていたのだが、橋の中腹辺りまで来た辺りで異変が起きた。


 何か、揺れている様な気がする。いや、気のせいじゃないと身を乗り出し、橋を支える柱を見た。


 うわ、と本音を漏らした。数本の倒木や瓦礫(がれき)により亀裂が入っており、今にも崩落しそうだ。不味い。直感し、反射的にアメジストを抱きかかえ、急いで橋を、と足を踏みしめた。


 直後、酷い振動が起き、フワリと空中に浮く感覚が全身を包んだ。間に合わなかった。ならばせめて彼女だけでもと、放り投げようと腕に力を籠め――


「そんなッ。これじゃあ計画がぁ!?」


 お前、今なんつった!?計画!?計画とな?やけに大人しいと思ったらやっぱりロクでもないこと考えてやがった、と後悔するがもう遅い。俺達は無数の破片と共に落下、濁流にのまれた。

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