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喪失した記憶 其の4

「ちょっとアーちゃん、ソコまで説明せんでもええやん。ホラぁ、ちょっとショック受けてはるわぁ。でも心配いらんで、おばちゃんがついとるけんね」


「ありがとう」


 相変わらず緩い。ただ、その口調と雰囲気は現状では素直に助かっている。だから、自然と感謝が口を突いた。


「んふふふ。アーちゃんは気が利かんさかいね」


 ハイペリオンは俺の言葉に(いた)く上機嫌そうだった。一方、神は相も変わらず。相当に罪の意識を感じているらしい。


「済まないね。此方も色々と立て込んでいて、だから君の感情にまで気が回らなかった。正直なところ、まさかあの惑星が超巨大な特異点……宇宙史の転換点になるとは思いもしなかった。このまま地球にいても死は免れなかったし、仮に生きていたとしても君達が原因でどのように宇宙と歴史が捻じれてしまうかも分からない」


 何か理屈はよく分からないが、口振りからするに俺は地球に戻るのも無理そうだ。とは言え、地球人類が絶滅する程度の災厄があったのだから戻ったところで何もない廃墟だろうが。


 故郷の景色も、職場も、好きだった女性も、何もかもがなくなってしまったのか……そう言えば、なんで俺、生きてるんだろう?ソレに、以前ルチルから見せられた映像の俺は何か異様な力を持っているようだったが、それも――


「君が生きている理由は、まぁ身も蓋もない言い方をすれば運が良かったに尽きる」


 なるほど、確かに身も蓋もない。


「次に君の特異性だが、私が意図して付与したものだ。異能。人知を超えた超絶的な力は本来ならば人類には発現することはない力だが、流石に送り出した先で即死されては贖罪(しょくざい)も何もあったものではない。だから生き延びる事が出来る様、かつ転移先の世界のバランスを崩さないギリギリにまで調整した異能、異能の種を君含む生存者全員に与えた。種は環境に応じ発現する能力を変化させる力を持っていたのだが、君の場合は転移直後に瀕死の重傷を負った事により物理的な損傷で死なない異常な肉体として顕在化したようだ。詳しく調査しなければ判明しないが、生命力、治癒能力は確実に人外レベル。加えて副作用で身体能力も上がっているだろうし、何か他に未知の力に目覚めている可能性もある」


 種?そんな物を埋め込んだのか。と、自分の身体をまじまじと眺めた。そんな兆候は感じない、生まれてから今まで見飽きた身体。ただ、神がそう言うならば間違いはないだろうし、何より一度映像で見ている。


 取り巻く環境前部が生きてきた常識とは余りにもかけ離れているが、でも受け入れるしかない。確かに映像で見た異常な治癒力があれば死ぬことは早々にない――と、ならなんで俺以外の生存者は死んだんだろう?


「同胞の死の理由が気になるかね?一概には言えないが、例えば転移先の人類と敵対した末に討たれたという話も聞いたし、共に敵対勢力と戦う中で命を落としたという話もあったし、単純に病死というケースもあった。何れも君と同じく番たる人類の元に送り込んだ。だから、最後はきっと幸せだったと、そう思いたい」


 幸せだった、と呻くように結んだ神は目を閉じ、空を仰いだ。屈強な体格に反し、言動はとても繊細でか細く見えた。とても神とは思えない雰囲気だ。神とて万能全能ではないと言っていたが、今の様子を見れば――こう表現するのは失礼かもしれないが、人間らしく思えて、何となく親近感も湧いた。


「こんな事態になってしまった事をどう詫びれば良いか分からないが、地球人類最後の一人となってしまった君には可能な限り便宜を図るつもりだ。例えば……人類と文明が滅んだ地球に戻りたいと願うならば、私は覚悟を持ってその決断を受け入れよう。何れにせよ、ゆっくり考えて欲しい」


 神は力ない微笑みを(たた)えたまま、背後に現れた赤い光の中に消え去った。木漏れ日の中、霧のように消えていく赤い光を黙って見送った。話は終わった。なのに、立てなかった。動けなかった。


「じゃあ、ナギちゃんも一旦戻ろうかね。それから、もし今日の事を忘れたいのならばそうしてあげるさかい、遠慮せんとオバチャンに言ったってや」


 頭上から声がした。椅子から腰を上げる事が出来ない俺の傍にハイペリオンのおばちゃんが立っていた。神とは対照的にニコニコと微笑む彼女が、元気を出せと言わんばかりに背中をバシバシと叩く。


 大丈夫です、多分。ソレだけを伝え、俺はこの場を後にした。


 ※※※


 気が付けば来賓(らいひん)室に戻っていた。そのままベッドに横たわり、見慣れない天井をボケっと見つめた。


 地球人類は俺を残して全滅した。その事実は、予想以上に重かった。聞くべきだったか、聞かない方が良かったか。疑問がグルグル頭を巡り、気持ち悪くなる。


 過去を思い出した。良い事よりも悪い事の方が多かった。変えようがない環境と現実に苛立ったことなんて何度もあった。理不尽な、虐めに近い経験もある。だけど、滅んで良いとまでは思っていなかった。それにまだやりたい事や、夢も――と、そんな事を考える内に、意識を手放し――目を覚ませば何か柔らかくて温かく良い匂いのする何かの感触を感じた。


 明らかに俺でもなければ毛布でもない。とても安らぎ、落ち着く。ただ、なぁ。まーたコイツかと考えるまでもなかった。アメジストだ。


 確か、この部屋は度重なるアメジストの侵入を防ぐ為、シトリンが転移が出来ない様な結界魔術?なる物が展開されているとかナントカと聞いた。状況を見るに、どうやら力づくで侵入したらしい。また勝手に部屋に入って来た彼女は俺を大きな胸に抱き寄せるような体勢で寝ている。どうりで妙に柔らかい筈だ。


「母上は何も教えてくださいませんでした。でも、アナタが何かに苦しんでいるのは分かります。だから、今はこうしていて下さい」


 全て聞いたと思っていたが、どうやらあのオバチャンは何も言わなかったらしい。それでも俺の変化に気づいたというのは……ずっと俺を見てきたからからか。良いか悪いかは明日に回すとして、彼女の申し出は有難かった。


 今は、コレが一番良い。アメジストに抱き締められながら素直に感謝の言葉を伝えると、直後に身体がビクッと震えた。更に呼吸がドンドンと荒くなり、優しく後頭部を撫でる手が止まったり震えたりし始めた。何?どうしたん?


「わ、分かりました。そこ、そこまでおっしゃるのならば謹んで告白、お受けいたします。どうか末永く……」


 まーた自分に都合よく解釈してるよコイツ。だけど、今はその楽観的で緩い言動が心に()みる。あるいは、俺の為に敢えてそんな態度を取っているのかも知れない。そう考えれば、運命の相手の一人がアメジストだったというのは幸運だったんだろう。


 本人には口が裂けても言えない思いと、もう存在しない故郷への郷愁(きょうしゅう)を胸に抱えながら俺は再び意識を手放した。

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