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喪失した記憶 其の3

 緩い、ひたすら緩い。神って、ある種絶対的な存在じゃないのか?それとも緊張しなくて良いように、的な善意からかな?


「神なんて大体はこんな感じさ。万能全能の存在なんていうのは人間が作り上げた幻想、縋りつきたい者がそう思い込んでいるだけだ。期待させて申し訳ないがね。だが、神なんてのは人よりちょっとだけ早く生まれて、宇宙の理を少しだけ弄れて、物事をほんの僅か思い通りに進める事が出来るだけの存在だ」


 何とも言い難い表情と視線に気付いたアーちゃんが神をそんな風に評した。まぁ、そうだよね。見た事もない、伝承や神話でしか知らない神が実際はどんな存在かなんて人間が知るのは無理だ。


 伝言ゲームの様に少しずつ歪んでいったか、あるいは誰かに都合よく解釈されていった結果、万能全能な存在にされたんだろう。取りあえずそう思っておこう。


 そう考えれば目の前にいる神が何だか可哀そうに思えてきたし、神さえ都合よく扱う人間の面の皮の厚さに辟易(へきえき)した。が、頼むから本名おしえてくれないだろうか。仮にも神様を、しかもいい歳した俺がアーちゃんなんて呼べるわけないだろ。


「そうか。残念だなぁ。まぁ、ソレは一旦置いておいて、君は君の過去……つまり、地球の話を聞きたいのだね。だが、もう予想がついているのではないか?何故、私とハイペリオンが意図的に記憶を封じたか。何故、君の(ツガイ)となる運命の相手がいる世界に送り出したか」


 神の口振りから、やはり俺は意図的にこの世界へと送られたらしい。しかも記憶を封じてまで、だ。だけどもその前に疑問がある。ここにきて以降、誰もが当たり前の様に口に出すツガイという言葉の意味がイマイチ分からない。いや、何となく予想はついているのだけど。


「そうか。ならば先ずその言葉について教えなければならないか。簡単に説明すれば、そうだな……君の生まれた日本で言う『運命の赤い糸』が一番近い。但し、相違点がある。赤い糸が人同士を繋ぐのに対し、番は人と物質、あるいは物質同士の間にも作用するという点だ」


「より正確に言えば、人間に始まりあらゆる物質が持つ固有の波長が全く同じモノ同士による共鳴作用やね」


「うむ。例えばとある芸術家の番は巨大な岩石だったのだが、芸術家は歴史にその名を残す彫像を作り出した。番とは通常ならば奇跡的な確率で出会うのだが、君の場合はちょっと特別でね。神同士で昔に交わした相互互助の約束を使って方々から君の番を探し出したのだよ。通常、番たる運命の相手に出会える確率は絶望的に低く、正に奇跡に等しいのだ」


 あぁ、と力なく相槌を打った。予想通りだ。つまり俺の番はアメジストで、この神様はその運命にある俺達を出会わせる事で異世界での安全を確保しようとしたという事か。


「あらぁ、ナギちゃんは鋭い子やねぇ。でもちょっとだけ違うでぇ。アンタの番はあの子等全員や」


 は?いや、でも確か誰かからアメジスト達は四つ子だと聞いた様な記憶がある。四姉妹ならバラバラだが四つ子なら波長も同じ……なのか?イマイチ釈然としないが。


「だから、ナギちゃんは誰を選んでも良いし、誰も選ばなくても良いし、なんなら全員選んでも良えんよ」

 

 全員って、それはちょっと常識的にどうなんだ?母親なのに随分とざっくばらんというか、放任的というか、言葉にし辛い感情が湧き上がる。いや、確かに男として……いや、今はよそう。


「エルフの価値観は人間とはちょっと違うからなぁ。それに嫌ならナギちゃんとは距離を置く位はしてる筈やて。でもそうしてないでしょ?程度の差はあれども、誰もナギちゃんを悪く思ってないんよこれがねぇ」


 それでも親か?と思ったのは決して考えすぎではない筈だ。が、一方で誰か一人に絞れと言うには全員が全員魅力的でもあり……だから考えるのは止めよう。直ぐ結論を出せる話じゃなさそうだ。


「真面目やねぇ。まぁソレは当人達が決めればエェ話やからね。さて、じゃあ肝心の本題、いこか?」


 また空気が変わった。ハイペリオンの冷めた目がアーちゃんを射抜いた。釣られるように俺も見た。緩い空気はなかった。ジッと俺を見る神の目は冷たく、とても静かで、威厳と、何故だか悲哀に満ちていた。


「地球の現状について教えよう。君が考えている通り、地球は滅んだ……今の地球に人類も文明も存在しない。一人残らず、一つ残らず全て、根こそぎ破壊し尽くされた」


 あぁ、と納得した。やっぱりそうか、寧ろそうでなければ、それ位の出来事が無ければ記憶を消そうなんて思わない。俺は、何らかの理由で地球が滅ぶ直前にこの場所に飛ばされたんだ。


 でも、一体何があったんだ?忘れる前の記憶を思い起こしても、ごくごく普通で平凡な日常があった。空は快晴、報道も戦争だどうだとか不穏な内容は一切なく、滅亡する様な理由なんて見当たらない。


 それに神様がわざわざ手を貸す位なのだから、相当以上に想定外の理由で滅んだはずだ。隕石とか世界大戦とか、そんな陳腐な理由で予測しやすい理由ならばその前に幾らでも手が打てるはずだし。


「信じろ……と言うには中々難しい。だからほんの少しだけ見せよう。君の記憶、転移直前の悪夢を」


 は?と、驚く間もなかった。視界に、気が付けば神が立っていた。大きな掌が額にピタ、と触れる。


 直後、脳裏にあの時の記憶が蘇った。崩壊する街、泣き叫ぶ人、(おびただ)しい血と死体、遠方では何かが爆発する音と衝撃、そしてその奥に見えるのは咆哮を上げる化け物――が、俺を睨みつけたところで記憶が途切れた。


 何だアレ?怖い。ほんの僅かな記憶なのに、ただ思い出しただけで身体が震えあがり、心臓は激しく鼓動し、呼吸が激しく乱れる。


「悪夢だよ。我々でさえ想定出来なかった悪夢。可能性が生んだ最悪の忌み子。それが君の世界を滅ぼした。そして……我々が原因だ。こんなこと、謝罪して許されるとは思っていないが、それでも……済まない」


 神はそこまで話し終えるや、俺に頭を下げた。いや、神様がソレをするのは不味くないか?というか神でさえ想定出来なかった事態って一体――


 だが、聞く気は起きなかった。真摯に頭を下げる神の傷口に触れるような事を聞きたくなかったという事もあるが、素直に教えてくれそうにないというのが本心としてあったからだ。


「だからだ。地球という惑星の危機は何時かあの宇宙の破滅の引き金になるだろうと考えた私は、償いの意味も込めて君を含む数名の生存者を地球から逃がした。全員から破滅直前の記憶を封じるか、あるいはトラックに轢かれたなんて適当な死因……偽の記憶を植え付け、更に幾つかの異能(おくりもの)と一緒ね。相互互助の協定が存在するから難なく事は運んだよ。君が転移した真相はこれが全てだ」


 神妙な語り口と共に知った事実は俺の予想通りだったが、それでも俺は立っていられず崩れ落ちた。が、気が付けば背後に椅子があった。そんな物、ついさっきまではなかった筈、と周囲を見回せばハイペリオンがニコニコと微笑んでいる。


 どうやら彼女が用意してくれたらしい。有難い話だ。正直、これから先も立って話を聞いていられる自身はなかった。


「君を番の元に送ったのは、忍びなかったからだ。滅亡の引き金は人類自身の手によるものであったが、元を辿れば我々が原因。それで地球人類が滅びるという運命を傍観するのは忍びなかった。だからだよ。しかしそれも君次第だ。私は強制しない。君が地球人類は滅びるべきだと考えるならば誰も選ばず生きても良いし、誰を伴侶に選んでも良いし、ソレが番の中からでもそれ以外からでも構わない」


 (ようや)く全て納得――いや、と何か違和感を覚えた。滅びるそうだなんで滅びると言った?生存者は数名いた筈だ。いや、まさか――


「察しが良いね。転移した地球人の内、君以外は死に絶え、残るは君だけとなった。君が最後の地球人(ラスト・ワン)だ。君の意志を蔑ろにしたことについては謝罪する。だが、これが君に隠していた全てだ。君は、孤独だ」


 何だか、神らしい残酷さを感じた。だけど、いやだからあんなに悲しそうだったのか。視線を上げ、神の目を見た。とても申し訳なさそうだった。一体どんな理由であの化け物が生まれたのか興味がない訳ではないが、やはり聞けなかった。真実が、重い。

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