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次女篇 其の2

 水晶が映し出した映像中央に身体の右腕部分が吹き飛んだ俺が映った。(おびただ)しい血が地面をどす黒く染め、血が抜け過ぎたのか顔も身体も生気を全く感じず、真っ青になっている。改めて自分の惨状を確認すれば、こりゃあ死ぬなとしか思えない程度に悲惨な有様だ。こんな状況からよく助かったな、俺。


「傷口の確認するぞ。とりあえず服ひん剝け」


「承知しました。が、あの……ほんとに助けるんですか?」


「総裁の命令に背くのかお前?」


「い、いえ。そのような事は」


「じゃあ服剥け。それから消毒用の薬草。白魔導師、さっさと結界展開しろ」


 ルチルは治療を専門にしているようで、映像に映る彼女は的確に指示を飛ばしていた。程なく、一人がナイフで俺服を切り裂き、全身を露にした。なんか、自分で自分の裸を見るのすごく恥ずかしいんですが――しかもこの有様だと結構な数に見られている様な気がします。


「「「「うわ、凄っご……」」」」


「あ、あの……ダメよそんな……私以外見ちゃダメ……ってあららフフフヒッヒェ」


「あの、総裁?」


 映像に映るアメジストは赤面した顔を手で覆いつつも隙間からチラチラと覗きながらそんな事を呟いていて、それ以外もナニかよく分からない事を色々と言っている。済みません羞恥プレイはこれ以上勘弁してください。


 というか見せたいのってこれじゃないですよね?と、ルチルを見た。彼女は、アメジストと部下の醜態に呆れていた。まぁ、分かりますが俺も見て下さい。いや映像じゃなくて生身の方ね。


「総裁。此方は私に任せて、討伐の続きにお戻りください」


 映像のルチルは半ばキレ気味にアメジストと俺を引き離し、直ぐに治療を再開し始めた。が――


「オイ。何だコレ!?」


「え?何が起きてるの。ってうわデッ……いや、キモッ」


 直後、映像の俺の異変が起きた。吹き飛ばされ内臓が、晒された傷口部分が気色悪くグネグネと(うごめ)き始め、次第に肥大化し、伸び始めた。映像に映る誰もが(おぞ)ましい何かを見つめる中、傷口から溢れ出た何かは更に不規則にうねりながら、やがて吹き飛んだ腕を再生し始めた。


 まるで子供が粘土で作った様な歪で不規則な、手の様に見える何かは時間の経過に伴いはっきりとした輪郭を取り始めた。不規則に蠢く何かの奥に血管と骨が見え始め、それを皮膚が覆い、時間にして一分ほどで吹き飛んだ腕も身体も完全に復元した。しかも抜けきった血も元に戻したようで、ついさっきまで青白かった顔は僅かに紅潮していた。


 ※※※


「見たとおりだ。アタシが見ている目の前でお前の身体が勝手に再生を始めた。その時点では何も疑問に思わなかった。そういう生き物か、魔術でもかけられているんだろうって」


 映像にルチルが推測を重ねた。彼女の目を見た。映像に映る彼女の部下と同じく、不信に満ちている。


「だが、お前の記憶ン中にそんな形跡はどこにもない。科学という名前の魔術は、少なくとも治療分野じゃアタシ達の白魔術よりも遅れていて、身体の再生も出来ないらしいな。なら、何でお前の身体は再生したんだ?いや、アレはそんな生易しいモンじゃない。お前の身体、一体何時そうなったんだ?」


 ルチルが畳み掛けた。が、心当たりは全くない。そもそも俺の身体が異常だと説明されても、ソレを知ったのは正に今この瞬間。それまでは漠然と誰かが回復してくれた程度の認識だった訳で。大体、アレは地球の常識でも有り得ない。


「やっぱり失った記憶の中に答えがあるのか。だとするなら、やっぱ問題はお前が信用できるかどうかだな」


 何も言えない俺にルチルが冷めた視線を投げかける。


「んだけどもねぇ。アメジストはともかく、チビとローズも揃ってお前を信用するって言ってんだよねぇ。だから、今のところは信用しとくよ」


 と、思いきやだ。一先ずは信用するとルチルは吐き捨てた。更に「はいコレ」と瓶詰の腕を俺に投げ寄越した。まぁ、確かに俺の物なんですが、3本も腕は要らない訳で。


「なら、貰って良いか?現状でお前の記憶が戻らない以上、手掛かりとなるのは吹っ飛んだ右腕(コイツ)位だ。お前が活け造りよろしく、生きたまま身体を切り刻ませてくれるなら話は別だけど」


 遠慮しときます。


「だよね。ま、その確認が本題さ。じゃあコイツはアタシが預かるんで、必要書類にサイン宜しく。他人の物を研究やらに使うのって色々と許可やらが必要で面倒なのさ」


 なるほど、つまり俺の許可が欲しかった。身形からは想像がつかなかったが、律儀で生真面目な性格をしているようだ。


 しかも私室に招いたのも、恐らく身体の異常を知られない様にする為だろう。と、考えれば俺の身体について誰も言ってこないのもルチルが口外しない様に手を回したのかも知れない。


 シトリンと同じく、彼女も信頼に値する女性のようだ。と、すればローズもかな。ただ、じゃあなんでこの人達とアメジストが姉妹なんだ。何がナニしてどうなったら生真面目姉妹と同じ血筋からゆるふわストーカーなんて面白生物が誕生するのか。


「貸しにするつもりはないけど、でも慈善事業じゃあないよ。この再生能力、もしかしたらアタシの力になるかも知れないし」


「力、ですか?」


「夢さ。何時か大陸中を冒険したい。映像だけなら風景を記憶した水晶で十分だけどさ、でもやっぱり……」


「自分の目で見たい、ですか?」

 

 熱っぽく夢を語るルチルが後に続ける言葉は予測しやすい。いや、俺もそうなのだけど。携帯やテレビが見せる風景では物足りなくて、だから仕事の合間合間にソロキャンプやら一人旅に出かけたりしている。


「お前もか!!だよな、だよね。やっぱりさぁ、こう映像だけじゃあ物足りないよねぇ。だけどアイオライトから聞いてるだろうけど、ちょいと前まで色々とあってね。だから特にエルフの女は単独で島外に出られないんだよ。例えどれだけ強くても、ね。アタシ達が下手にルールを破っちまうと、後に続くヤツが必ず出るからって理由でね」


 どうやら彼女は俺とよく似た趣味や嗜好の持ち主らしく、俺の答えに今まで見た事ない位に食いついてきた。普段は比較的冷静に見えるけど、どうやら今のが素の性格らしい。


「大変なんすね」


「仕方ないさ。誘拐は勿論する方が悪いが、だからって女一人で旅に出ていいモンじゃない。理論や理屈や正論に何の力もないから、隙だらけで旅していい理由にもならないし自分の身を守ってくれやしないし、免罪符にもなりゃしない」


「何時か、行けるようになるといいですね」


「行けるぞ。あくまで単独であって、パーティ組めば問題ない。ツー訳だ。お前、鍛えろ」


 何となく彼女の人となりを知ることが出来て良かった、と思ったのにさぁ。なんでいきなりその結論に飛躍したんだ。


「記憶読んでお前の事はちょっとだけ知ってる。一人で旅しているとかもな。地球(アッチ)もコッチも物理的な法則に大きな違いは無い。摩擦熱を使えば火を(おこ)せるし、炭を使えば汚れた水も浄水出来る。お前は無駄と思っているだろうが、その知識はアタシに必要だ。だから鍛えろ……つーか、授業の一部を変える。先ず走って体力つけろ」


 おかしい。話がズレ始めたぞ。何時の間にか俺は彼女の島外探索のパーティメンバーに選ばれていて、更にその為の訓練まで決まっていた。コレは一体どうすれば?確かに読み書きや一般常識も重要だが――


「そうと決まれば……オイ、聞こえるかチビ?」


 ルチルの行動は早い。胸元から取り出した小さな瓶から人工妖精を取り出した。誰かに連絡するつもりらしい。ただ俺、まだ何も答えてないんですよね。


「ルチル?どうした、何か用か?」


 妖精からシトリンの声がした。ルチルが言う「チビ」とは彼女の事らしい。でもあの人、俺よりも背が高いんですが。


「ナギの授業の半分をアタシが受け持つことにした」


「はぁ?ちょい待ち、何がどうしてそうなったんだオイ!?」


 俺の授業をメインで担当するシトリンの反発は当然。ルチルも引き下がらない。ただ、まだ何も答えてないんですよね俺。


「身体鍛えるんだよ」


「誰が目的を聞いたんだ!!理由を言えって……もしかして、今そこにナギ君いるのか!?」


「いるかも知れねぇし、いないかも知れないな。とにかくコレ決定事項な」


「オイ待てやこの脳筋!!」


「誰が脳筋だゴルァ!!」


「ちょいちょい力押しで解決しようとするところあるだろうが、こンの脳筋!!」


「ンだとこのクソガキッ!!」


 予想通り、遂には喧嘩が始まった。人工妖精越しに互いを罵り合う姉妹はとても仲が良い様に思えるが――でも、人工妖精(エアリー)さん半泣きです。ちょっと可哀そうだと思います。


 後、俺は何時帰れるんでしょうね。途方に暮れる俺は何時終わるとも知れない口喧嘩をただ黙って聞くしか選択肢はなく、泣きそうな人工妖精(エアリー)も同じくただ姉妹の口喧嘩を黙々と転送するしか選択肢がなかった。


 南無三。

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