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長女篇 其の3

 仲良く連れ立ち、図書館を後にした。視界に、一様に同じ服を身に纏うエルフ達の姿が見えた。恐らく学生、かな?右を向いても左を向いても美人美形が多いが、信じられない事に全員が俺よりも年上というのだから不思議な話だ。


 そんな道行く生徒?っぽい誰もが、貸し切られた図書館から出て来た俺達をジッと見ている。羨望の眼差しで隣の大女を見上げる視線は敬愛、尊敬に満ちているが、アメジストに次ぐ立場という話だからそりゃあ当たり前だ。


 普段は滅多なことでは市井に降りず、専らアメジストの警護(じゃなくて恐らく暴走時のストッパーだろうけど)という立場を考えれば、地球風に言えばハリウッドスターがフラリと近所にやって来た感覚だろうか。

 

 一方、俺を見る目は奇異奇妙、というか珍獣を見るよう眼差しだった。視線が痛い。敵意ではないだけマシだ――と、思いたいがこの状況をどうにかするのは難しそうだ。何せ、見た目が違い過ぎる。


「済まねぇな。外との商売もやっているんだけど、基本的に外縁(がいえん)の商業区域だけで都市内部まで異種族が来るなんて余程大きな会議でもない限り基本的に無いもんでね。良くも悪くも目立っちまうんだ」


 無数の視線に気づいたシトリンは開口一番で謝罪を口にした。この人は本当に気が回る。彼女は周辺に集まった生徒達を手慣れた口調と手つきで解散させると、俺の背中をポンと叩いた。


「じゃあ丁度いい。商業区の飯屋にでも行くか。アンタもいい加減、魚と果実だけじゃあ飽きるだろ?不肖(ふしょう)の妹が迷惑かけた詫びがてら、ね」


 そう言うやシトリンは雑踏の中へと足早に消えた。俺も、何故だか酷く上機嫌な彼女の後を急いで追いかけた。が、その最中に見慣れた人影を見たような気がした――が、気のせいだろう。多分。彼女、2人に引っ張られていった筈だし。


 ※※※


 商業区域に近づくに連れ、潮や磯の香りが強くなって来た。懐かしい、そんな気持ちが湧き上がった。不思議なもので、海の香りは地球と大差ないようだ。そう言えば、と記憶の端に引っ掛かった一文を思い出す。


 確かあの独特の匂いは海藻やプランクトンが原因だと、辞書か何かで見た記憶がある。となれば、この世界の海も地球と似たような構成になっているんだろう。

 

 違う世界なのに何処か懐かしささえ感じる香りに誘われるまま、遂には商業区域へと足を踏み入れた。初めて見る景色に、見慣れない景色に心が躍った。


 確かに活気はあるし、何より俺と同じ外見――まぁ、要は地味な見た目のヤツが確かに多かった。と、同時にそんな連中が都市内部にいない理由も分かった。


 内外が大きな門で区分けされていた。よく見れば門を通るのに逐一検査を受けており、更にその一部は何とか都市内部に入ろうと必死で押し問答をしているが、やがて()()()()()()()()()()()()()体勢で何処かへと連れ去られていった。


 意外と、いや相当厳重に区分けされているらしい。道理で俺以外の人間を見ない訳だ。と驚いたが、し守衛達は俺と談笑するシトリンを見るや直立不動で一礼、何らの検査も行わないまま俺と一緒に素通しした。結構杜撰(ずさん)に思えるけど良いのか?と疑問を持ったが彼女曰く――


「出るときは良いんだよ」


 と、いう事らしい。


 そんな光景を後目に商業区域を一緒に歩いた。青々と繁る樹木が両端に植えられた大きな道が目に入った。緩やかな勾配をした道の遥か先には海が見え、更にその奥には木造の巨大な帆船が何隻も停泊していて、荷物を持った作業員が往復していた。


 静かだった都市中心部とは違い、商業区域と言うだけあり大勢が往来している。良く言えば活気があり、悪く言えば喧噪に満ちていた。が、シトリンはそんな活気のある大通りを無視すると裏道へと進んでいった。

 

「着いたぞ。オレ達は良くも悪くも目立つからこうやって……」


 こんな場所に店が?と、清掃が行き届いているものの何処か薄暗い道を暫く進んだ先で、シトリンが振り返り、目的地に到着したと教えてくれた。


 ――のだが、なにかおかしい。俺の背後の一点をジッと見つめ、かと思えば怒りを通り越し、遂には呆れ、最後には大きなため息を付いた。あぁ、もう見なくても誰を見たのか分かります。


「だからなんでお前は……」


 絞り出すように呟いた一言に振り返り、そして予想が当たっていたと嘆いた。期待通り、予測通り、アメジストがいた。裏通りの曲がり角からちょこんと首を出しながら、俺達の様子を窺っていたが、ソレで隠れたつもりなのかと問いたい。


「酷い。私という者がありながら浮気なんて……浮気なんて……」


 その言葉を俺が言われる日が来るとは思わなかったよ。地球じゃあ縁遠かったもんね。異世界だからかなぁ?いや、それよりどうやって逃げ出したんだ?


「そうやって目立つ真似をするなと言ってるだろうが。後、少しは迷惑になるかどうか考えて行動しろよお前」


「あの、お願いですからもう後を付けるのは止めて欲しいんですけど?」


 シトリンと俺は店先から曲がり角の向こうから涙目で見つめるアメジストにそう懇願するが……


「わかりました、次からバレないようにしますね。あ、私も一緒にご飯食べたい!!」


 駄目だアイツ、全然わかってねぇ。割と真剣に懇願したのに微塵(みじん)も意に介さない彼女を見た俺の頭にはなんでこうなったんだ、と解決しない疑問がグルグルと回り続けた。

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