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エピローグ 其の3

 ――地球


 かつて人類が支配した惑星には文化文明の面影はなく、営々と築き上げた繁栄と栄華の記憶を残すのは地面に埋没、あるいは風化しかかった残骸だけとなっていた。


 空を見上げれば眩く輝く太陽が地面を焦がし、時折吹きつける風が肌をくすぐり、地面には無数の雑草に混じり色とりどりの花が咲き誇る。


 人類の支配から解放された世界は何処までも静かで、同時に美しかった。その星に今、1人の人間が降り立った。一度だけ地球に戻りたいという我儘を聞き入れた神とハイペリオンの力により帰還した伊佐凪竜一。


「探しておいたよ」


 廃墟となった地球で待っていた神が、彼に白い陶磁器製の壺を手渡した。聞かずとも、納められているモノを理解した伊佐凪竜一は、神の手から無言で受け取った。


「信じてくれるのか?」


「今更疑わないよ。それに、重要なのはそこじゃない」


 白い壺を抱えながら淀みなく答えた彼の目に悲しみは無い。地球は彼の生まれ故郷。彼は、そんな故郷との決別を決断した。理由は幾つもある。その中には、この世界での記憶を殆ど喪失していた事実も含まれている。


 異能の種の発芽に伴い仕掛けられた魔術が段階的に開放された影響だった。力の対価、世界を救った代償。故に、今の彼に映るのは荒涼とした地獄のような景色だけであり、涙も出なければ悲しみもない。ソレが良い事か悪い事かは分からないが――


「そうか」


 神は頷き、指を鳴らした。直後、2人の姿は灰色の光に飲み込まれた。瞬きするよりも短い時間で伊佐凪竜一は、生まれ故郷へと転移した。


 日本。世界と同じく辛うじて現状を維持しているように見えるが、やはり長らく続く風雨に強大な力が暴れた余波が止めを刺し、朽ち果てている。かつての面影は何処にも無い。


「実感が湧かないな。記憶が、もう殆どないからかな」


 そう言いながら彼は土を掘り白い壺を埋めると、その上に大きな石を乗せ、最後に手を合わせた。


「今更だが……」


「戻るよ」


 その言葉に神は何も言わなかった。


「意外とまだ引き摺ってる。もう……顔も声も思い出せないのに」


「済まない。記憶の件は本意ではなかった」


「いいよ。きっと、これで良いんだ。だから帰るよ、あの世界も俺の故郷だから」


「そうか」


 神は小さく唸った。顔を見ている訳ではないが、何処か喜んでいる様な、そんな気がした伊佐凪竜一は立ち上がり、神の顔を見て、ほんの少しだけ微笑んだ。


「ですよねー」


 が、不意に聞こえた呑気な声に顔を一気に強張らせた。


「ウム、当然じゃ!!」


 続いて子供っぽい声が――


「私は何処までもついていきますけど?」


 何処か空恐ろしさを感じる冷静な声が続き――


「そりゃそうと、踏ん切りはついたのか?」


 最後に快活な声が本質を突いた。彼の額に浮かんだ玉のような汗が頬を伝う。


「やぁ、遅かったね。用件ならばもう済んだよ」


 伊佐凪竜一が背後を振り向き、絶句した。見慣れた4姉妹の姿があった。まさか追いかけてくると思わなかった彼は大層驚いたが、隣に立つ神はさも当然の如く4姉妹を迎えた。その余りにも自然な態度に伊佐凪竜一は余計に驚き唖然とした表情と共に口をパクパクと動かすしか出来ず。


「まぁよ、いい機会だから地球を見ておいてもいいんじゃないかって話になってね」


「あぁそう言う……」


「そうですね。何せご主人様の故郷ですもの。それに何か思い出になるような物があれば……」


 ローズ、興奮するな(ステイ)


「んがッ、本命は違う」


「へ、何が?」


「エンジェラさんがぁ、アナタをお婿さんにするって息巻いてぇ。だからコッチで既成事実を作ろうって話になりましたぁ」


「ブッ。お前、元気一杯になんて事を……」


 伊佐凪竜一、盛大にむせる。


「ほう。確かに彼女は随分と君に入れ込んでいたが……チョットアトオシシスギタヨウダネ」


「ちょお待て、神様(オマエ)今なんつった?」


 全員の反応に逐一ツッコミを返す伊佐凪竜一は、最後に神がボソッと呟いた一言を聞き逃さなかった。だが心情的には動揺したままなのでそれ以上のツッコミは出来ない。


「なんせ皇帝だしなぁ。勅令ありゃあ一発よ」


「皇帝?って、何が一体どうなってるんだ?あの脳筋兄弟は?」


「アンダルサイトは治安維持と軍再編の為に固辞、スピネルも滅茶苦茶になった帝国財政立て直しを理由にやっぱり固辞。という訳で自動的にエンジェラが皇帝になられましたわ。ちなみにヴェリウス前皇帝は息子の1人が人類統一連合と繋がっていた件に関するケジメをつける為に完全隠居されました」


「あぁ、そうですか誰も頼れませんか」


「という訳でぇ、子供何人作りましょうか?」


「君、とんでもないことを平然と言うね」


「まぁ、彼女達なりに君を気に掛けているんだよ。出会いは確かに私が用意したものだ。だが、それ以外に私は干渉していないよ……ホトンド」


「最後の一言、もう一回大きな声で言ってみ?」


「気にしなくても良い。オホン、ともかく番とて万能全能ではない。例え出会ったところで離れ離れになる事もあり得る。君が4人を娶る運命は君自身が選択した結果だ」


「いやだから……おい待てや。誰が4人全員と結婚すると言った!!」


 とんとん拍子に話が進む状況に何か不味いと感じた伊佐凪竜一が必死でその一言を絞り出すが、神様は良い笑顔でサムズアップした。


「だから私から言えるのはこの一言だけだ……ふぁーいと」


「アンタ、ホントに軽いな!!」


「あぁ、そうそう。エンジェラだけじゃなくてパール君も狙ってるぞ」


 伊佐凪竜一のツッコミは万能な力を持つ神の前には無力なようで、虚しく空を切った。


「何をですかね……」


「ホラ、彼女贖罪の為に残った私財叩いただろう?君に養ってもらう気満々なんだよね。若さとは無謀と無知であるとはよく言ったもので……コッチモチョットアトオシシスギタカナ?」


「「「「は?」」」」


 全員が一様に見せた真顔に伊佐凪竜一、震える。身も心も震える。その焦り方は尋常ではなく、神がボソッと呟いた本音……見えない場所でアレコレ画策していた事実など耳に入らなかった。


「ならぁ……」


「尚の事……」


「タダでは帰れない……」


「ですよね?」


 徐々に距離を詰める4姉妹。二度目のサムズアップと共に姿を消す神。暫しの後、地球の何処かで我慢の限界を超えた男の怒号やら何やらが色々と飛び交ったという。(1名以外)めでたしめでたし。


 ※※※


 ――惑星アルタード某所


「負けた、負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた!!また負けた!!だが、そうだよ最終的に勝てばいいんだ」


 何処とも知れぬ場所に男の叫びが木霊する。辺りは夜の闇が支配する世界。上空を見上げれば曇天に星の光が遮られており、酷く暗い。


「なら、奴らが死ぬまで待って……誰だッ!?」


 が、言葉は止まる。何かを感じ取った声の主は心の底から湧き上がる怒りを無理やり腹の底に抑え込むと、まるで獣から隠れる獲物の如く息を潜めた。本能的にそうした、してしまった。ソレは、それ程にとても悍ましく――


「何だ?いや、まさかッ!?クソッ、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!!我が主の為、その悲願の為にッ!!」





                           ム





 男は走った。力の限り走った。体裁などもうどうでもいい、とにかく逃げねばとひた走った。心の中に怒りはなかった。ただ逃げねばならないという感情が、言葉よりも足を動かした。


 逃げて逃げて逃げ続け、やがて曇天から抜け出した人影が、月夜に浮かび上がる。我武者羅に逃げるのはかつてオブシディアンと名乗った男の姿をしていた。男は尚も逃げ続けた。高い身体能力を駆使して逃げ、物影に隠れると今度は高度な魔術を駆使した空間転移を行う。が――




             ダ




 男の表情が崩れ始めた。何かが追いすがっている。捕まっている、捉えられている。そう直感した男の目に焦りと恐怖が浮かぶ。男は再び逃げた。生きて、己が使命を成し遂げるという一念が男を突き動かす。


「勝つんだ!!いや勝たねばならない。次なる絶望の為に、俺はこんなところで死ぬわけには行かないんだ!!そう我が主イ」



 夜の闇の中を温く温かい風がにビュウと吹き抜けた。曇天が晴れ隙間から星の光が地面を僅かに照らすと、そこに人の姿はなかった。


 ただ、確かにほんの一瞬前までは確かに存在したという足跡だけがそこに残っていた。が、それも再び吹きつけた風に消え去ってしまった。闇に(うごめ)(おぞ)ましい何かと共に――

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