エピローグ 其の2
カスター大陸、首都リブラ上空。
「終わった、とみていいかな?」
雲一つない蒼天に二つの人影が躍る。都市の喧騒を眺める2つの影、その1つは黒く隆々とした筋肉が身体を覆う男。
「そうやね」
もう1人は妖艶な美女。
「確かに終わった。けど所詮はオマケや。主の言葉を曲解した大馬鹿なんてイザとなればどうとでもなった」
女の言葉は酷く冷淡で冷酷だった。
「問題は本命の方や。伊佐凪竜一はアレと心を通わせることが出来たか?愛情を発露させることが出来たか?重要なのはソレだけ」
「アレ、か。仮初とは言え君の娘だろう?」
「アンタも分かっとるやろ?だから4分割にした。それでも尚、世界の手に余る化け物や」
その言葉に男は何も言わない。
「何をどうしても滅する事が出来ない不滅の存在。何をどうしても変えられない不変の存在。だが、自らの意志で変わる事ならば出来る筈。ソレを期待したんや、もうそれしか残された道は無いってなぁ」
「彼はその生贄か」
「アンタかて承知の上やった筈やで?だからこそ受け入れたんや。あの厄介な銀河の人類やで?どうせ何処も彼処も断られたんやろ?」
「生まれは罪ではないのだがな」
「分かっとる……そんな事は分かっとる。だから受け入れたやろ?」
「あぁ。感謝している」
やがて、2つの人影は眼下を見下ろした。遥か下方には世界最大の都市リブラ。預言者が呼び出したゴーレムにより悉くが破損され、見るも無残だった都市はシトリンの創造の力により戦禍から回復していた。
「力も使いようやな」
「そうだな。力に善悪は無く、使う者の意志のみが反映される」
「これまで紛い物だったアレ……娘達の中には確実に心が芽生えつつある。それも邪な心ではなく……誰かを慈しめる、愛せる心や」
「彼との交流、ここまでの長いようで短い旅路は決して無駄ではなかった。それに、彼自身も良くやってくれたよ」
「ソコだけは私も褒めたるわ。異能の種、ようあの力に呑まれんかったなぁ。余程に精神を鍛えていたのか、それとも……」
「ごく普通の人間だよ、彼は。どれだけ調べても何も出なかった」
影の視線は喧騒の中心、異世界地球から転移した男へと移った。遠望からであってもはっきりと見えるその姿は周囲の女性達に翻弄され、英雄然とした振る舞いなどまるで感じない。
「まぁ……ええやろ。一度だけなんやろ?」
「あぁ」
「分かった。だけど付いていくかは選ばせるで?」
「構わないし、寧ろそうした方が余計な懸念を抱かれないだろう」
「だけど、なんで今更戻りたいなんて言い出したんや?もう殆ど記憶は残っとらん筈やのに」
「力の段階的な開放に伴い彼を縛る記憶は薄れ、やがて消える。だが、人を動かす意志という物は消そうと思っても消せないものだよ。地球に戻りたいという理由、異能でさえ消し去れなかった思い出。だが、彼はこの旅を経て決別する決心を固めた。彼なりのケジメだろうね」
「そうか。なら断わる理由なんて無いわな。ええやろ、タイミングは任せるわ。あぁ、感謝の言葉はいらんで、利用したのはお互い様や。アンタはどこぞの馬鹿が引き起こした地球人類滅亡を阻止する為、最後の生き残りに安住の地を与える為。私は……」
女は言葉をそこで止めた。男は黙ってソレを見守る。
「まぁ言わんでもええやろ。ほな、またな」
何かを言いたげで、しかしソレを言うのは憚られるとばかりな態度の女は消化不良な空気と余韻を残しながら蒼天の空から姿を消した。対する男は消えゆく女の背中を大きなため息と共に見送る。
「何処も彼処も厄介だね。本当に嫌になる。だが君も分かっている筈だ。何もかも我らが原因だ。故に争いが起き、その果てに宇宙は今の形に塗り替えられてしまった。我らはそれでも全てを傍観した。だが、それではいけないのだよ。全ての尻拭いを我が子等が創り出した人類に押し付けるばかりでは……」
男は神妙な面持ちと共に再び眼下を眺めた。その目に映るのは相も変わらず女性陣に引っ張りまわされる1人の男の姿。
「君は……許してくれるだろうか」
その言葉を残し、男もまた姿を消した。上空を見れば雲一つない青空に浮かぶ恒星。遥か彼方に見える大地へと視線を移せば雄大な景色が一面に広がる。何処にでもあるごく普通の世界が見えた。




