終幕 敵(しんのてき) 其の5
「分からないのか?」
暗闇の中から声が聞こえた。
「全く、無作法な輩と言うのはなんでこうも杜撰でいい加減で適当なのかしら?」
聞き慣れた女の声が――
「本当になぁ。オーイ、旦那様生きとるかぁ?」
間違いない、生きていた。
「アナタァ~ん。無事ですかぁ?」
「「「うわぁ」」」
「クァァ?」
みんな驚いたよ。俺も驚いたよ。
「馬鹿なッ、なんで生きてるんだ貴様等ッ!?」
闇夜から現れたのはエリーナ、ルチル、アメジスト、ローズの4姉妹。しかも殺されているという言葉とは無縁、誰も掠り傷の1つさえ見当たらない。
「生きてる理由なんて1つしかねぇだろ?」
「有り得ないッ。気取られないよう慎重に展開した魔法陣からどうやって逃げた!?」
驚く預言者達にルチルは背後に置いてあった何かを放り投げた。
「あぁ、コイツがアタシ達が泊ってたホテルの直下に展開してたやつか?」
ドサリ。ぶっきらぼうに放り投げ、地面に落ちたソレは預言者の1人。ここにいるのが全員じゃないと思っていたが、やはり彼方此方にいたらしい。
「簡単さ。いなかっただけだ」
「は?」
「馬鹿なッ。俺が預言者だと見抜いていたのか!?」
「ンな訳ないだろ。寧ろ驚いたよ」
「なら、どうして……」
至極真っ当な疑問に4姉妹は互いの顔を見合わせ、次に俺の顔を見ると笑みを浮かべた。あぁ、嫌な予感するわ。真面目な空気がぶち壊れるから言わないで欲しいんだけど――
「アナタが何処かに出かけるのを見たので後を付けちゃいました」
「ま、そう言うこった」
「旦那様はちょっと目を離すと直ぐに浮気するからのぅ」
「最終的に私達の元に戻っていただけるのなら構いませんけど、でも変な輩に引っ掛かるのはやはり我慢なりませんしネ」
「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」
オブシディアンズが壊れたかのように同じ一言を吐き出すと、その場から動かなくなった。だよねぇ。あぁ、懐かしいなこのやり取り。ここ最近ずっと真面目だったもんなぁ。だけど君達さぁ、ストーキングは良くないよ。ホント。この世界にこれ系の法律はまだないと思うけども。
「クソ、なんだそれはッ!?」
「タダの色ボケに俺の計画が崩されたというのか!!」
「言い辛いんだけど、まぁ端的にそうだよとしか……」
「はい!!」
「こんな……クソッ、またしても……300年前と同じく僅か数人に全部をひっくり返されるのか!!」
頭を抱える預言者の1人が絶叫した。が、4姉妹は駄目押しを続ける。
「逆に考えたらどうでしょう?」
「貴様の計画なんぞその程度で頓挫する位に杜撰でいい加減じゃってな」
4姉妹、煽る煽る。パール達もこっそりもっとやれみたいに応援している。君達、勝ち確になった瞬間、露骨に態度を変えるのは止めようね。
「杜撰だと……」
「いい加減だとッ!!」
「俺がッ、どれだけ苦労して今回の絵図を描いたと思っているんだ。ソレなのに!!そうだ、ヴィルゴだ。あそこから全部崩れ始めたんだ」
ヴィルゴの件と言えばゴーレムの暴走とか記憶ナントカの魔法陣を都市全域に展開したあの件か。なるほど、何も無ければ何か大きな会議があったらしいから、恐らく記憶を強引に書き換えて独立種との戦争をするつもりだったんだろう。
「記憶転写も暴露され、スノーホワイトを失い、挙句に切り札のゴーレムも破壊された。それもこれも……」
「全部貴様だッ伊佐凪竜一!!貴様さえ、貴様と言う異物さえいなければこの世界は1つに纏まっていたんだ!!」
預言者達の怨嗟が俺に集まる。残った全ての視線が俺に突き刺さる。ピリピリチクチクとした感覚、殺意を感じる。
「さっきから聞いてりゃあ世界がどうたらとか1つに纏まるとか、どう考えても邪魔してるのお前だろうがよぉ」
「ルチル=クォーツ!!」
「300年前もそうじゃ。人を強引に動かしても何処かで無理が祟る。あの時も大多数の人類は戦いを願っていなかったのを知らんのか?」
「エリーナ=クォーツ!!」
「カミの為。敬愛する主の為の献身と言えば聞こえは良いんでしょうけど……でもその献身は酷く歪んでいますよ?だって、アナタは弱すぎる。人類が悪い、独立種が悪い、そうやって自分以外の何かに罪を擦り付けるアナタはきっと最後には主であるカミにさえ罪を擦ろうとするわ。だって弱いんですから」
「ローズ=クォーツ!!」
「だから失敗するんですよねぇ?だってアナタは人類の事なんかこれ~ッぽっちも考えていないんですから。何時の間にか目的が手段になってしまったんですよねぇ?ただぁ、その目的が分からないんですけど」
「アメジスト=クォーツ!!」
四者四様の指摘は預言者の心を抉った。行動は止まり、苦悶の表情を浮かべる。
「何がッ。貴様等に何が分かるッ。俺達がどんな思いで人類を見守って来たか、我がカミがどんな思いで人類を生み出したかッ。ただ人類を1つにしたい、たったそれだけの願いを何故邪魔する!!」
「まだ言うかッ、その為の手段がイカれてるって話だろ!!」
「そう言うのは自然に任せるもんじゃ。それを無理矢理に押し付けるからそこかしこに歪みが出る」
ルチルとエリーナの言葉に預言者達は激高する。正気ではないと思っていたけど、アメジストの言葉通り目的が何時の間にか手段にすり替わって、更にソレに気づかない状態になっているみたいだ。
何かを理由に人類を統一したかったのに、いつの間にか人類統一そのものがコイツの理由に取って代わってしまった。本来の理由が消えてしまった、目指すべきゴールを見失った状態だ。
「でもそんな事はどうでも良い。何が理由かなんて私には微塵も興味も関心も無い。だけど、私のご主人様に傷をつけた報い、死罰で償え。そしてその先で理解しろ、痛みとは与えるモノではなく与えられるものだとッ。ネ?」
ローズ、興奮するな。
「「「うわぁ……」」」
「クァァ?」
「でもぉ。私もローズの意見に賛成です。とりあえず、お仕置しちゃいましょう」
珍しくアメジストもノリノリだが、今はこれで良い。少なくともコイツをこれ以上のさばらせる訳にはいかない。
「何もかも想定外だが、それでもこれだけの数のゴーレムと俺達が揃っているんだ。負ける筈が無いッ!!」
やはり引く気も諦める気もない様だ。もうああなってしまえば力づくで止める以外に手段は無い。皮肉だと思う。敵を作って1つに纏めるという目的を突き進んだ結果、自分がその敵になっているんだから。
「伊佐凪竜一ィ!!」
無数の叫びが聞こえ、同時に戦場が仄かに明るくなる。上空に浮かぶ幾つもの魔法陣が輝く光だ。更に不気味な程に鳴動する。大気が、大地が、木々が、水面が揺れ動く。
「貴様だけは、絶対に殺すッ!!」
鳴動する魔法陣から殺意と共に光の矢が放たれる。が、その全ては途中でかき消された。
「甘い」
そう呟いたローズの手によりオブシディアン達の魔術が全て無効化された光景を目撃した。直後、視界が酷く揺れ動いた。
「ソレはこっちの台詞だ!!」
最初は地面が揺れていると思っていたが、だが違った。揺れていたのは俺で、気が付けば地面から生えた鋭い棘が俺を貫いていた。揺れたのはこの衝撃だった、とそう気づいた頃にはもう遅く、四方八方から生えた冷たく黒い棘に身体を串刺しにされていた。刺された場所が酷く熱い。ソコから何か伝い零れ落ちる。
「お前ッ!!」
「よくもッ!!」
「ソレはこっちの台詞だ四凶共!!掛かって来い。時期に合流するゴーレムと一緒に、この場で一人残らず殺してやる!!」
上空から殺意に満ちた声が聞こえる。地面を揺らすズシンと言う衝撃が少しずつ大きくなり、ソレに連れ細かに揺れ動く身体から何かが零れ落ち続ける。
「おい、しっかりしろ!!こんなところで死ぬなよ!!」
近くからルチルの声が聞こえる。動きたい、反応したいが、意に反して身体がドンドン重くなる。寒い、視界がドンドンと狭まり、やがて真っ黒に――




