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終幕 敵(しんのてき) 其の3

 視界を何かが遮った。ゆっくり見上げ、絶句した。見たくもない鋼鉄の巨体が、夜の闇に明滅している。


「ゴ、ゴーレム!?」

 

「動力源はもう無くなったでしょ!?」


「作ったんだ。そもそもゴーレム自体が預言者が作った物だから、動力源を作るなんて……」


 パールの疑問に即答するブルーは、唐突に言葉を止めた。何かに気付いた彼の顔がみるみると青ざめ始める。


「聡いな。誇っていいよ。混乱するこの状況でそこまで頭が働くならば、君の頭脳も精神も常人を超えている」


「ちょっと何に気付いて……って!?」


「オイオイ。こりゃあ不味いでしょ」


「クソ。最悪だッ」


 視線を夜空に向けた。無数の魔法陣、その中から呼び出される無数のゴーレムを見た。質も量も、到底叶わない鋼鉄の巨兵が夜空から地上目掛け、降り注ぐ。


「滅茶苦茶だ」


「早々に決着をつける。先ずは貴様を殺し……」


「殺すなんて軽々しく言うな!!」


 反射的にそう叫んだが、しかし相手は当然の如く無視する。コイツ、何処までも腹立たしいな。


「だが、そうせねばならない」


「彼もアンタの好きな人類でしょうが!!」


「いいや。その男だけは違う」


「計画の邪魔したからって理由にしちゃあ、狭量(きょうりょう)すぎやしませんかね?」

「クエッ?」


「違う。生まれた場所さえ違えば手を取りあえたのだよ。だが、我がカミの怨敵が生み出した忌み子ならば話は別だ。死んでもらう」


 相変わらず預言者が何を言いたいか全く分からない。生み出した?神話の話ならアマテラスオオカミだし、科学的な話ならアミノ酸とか原始生命体とかソッチ系か?だけどどちらにしても殺される理由に納得など出来ない。


(知らぬならばそれで良いと思っていたが、やはり君を狙うか)


 知ってたのか?


(実を言えば、異能の種はその為の処置だった)


 神様の言葉に、不思議と驚きはなかった。生きるだけならこんな出鱈目な力は必要ないし、何ならアメジスト達と一緒にいれば力自体も必要なかった。だけど与えたのは、コイツみたいに俺を狙う奴がいると知っていたからだ。天の川銀河(おれたち)を異常に敵視する奴が――


「何言ってんのか訳わかんないけど、でもアンタのいう事素直に聞けないのよッ!!」


「同感だよ。お兄さんとしても流石に君の言動を許しておけないというか、正直ドン引きだよ」


 動揺して動けない俺の横を2つの影が通り過ぎた。パールとグランディだ


「君達の行動パターンは全部把握しているよ」


 が、当の本人は余裕の態度。囮のパールが背後から思い切り蹴りを見舞うが預言者は目視すらせず回避、更に左側面から思い切り剣を振り下ろすグランディの一撃をあろうことか指一本で受け止めた。


「ってぇ油断すると思ったよ!!」


「お兄さんいつも言っているよね。決めつけちゃあ駄目だってさ!!」


「何?」


「無垢なる月、血の誓い、宵闇に蠢く暗黒の翼、我が命に従い我が敵を侵し、断絶せよッ。氷獄結界(アイス・プリズン)ッ!!」


 2人の余裕の言葉にさしもの預言者も驚くが、直後周囲の気温が一気に下がる。同時、預言者の足元が凍り付いた。


「ほお。ブルー君は最上級魔術が使えるのか。結構結構」


 2人の死角にはブルーが魔法陣を展開していた。足元をほのかに青く照らす魔法陣から強烈な冷気が吹きつけ、風に乗り、預言者を包む。


「オッサン!!」


「ハイよッ!!」


 2人は息を合わせ再度攻撃を繰り出す。が――


「甘い」


 やはり自力が違い過ぎた。ブルーの魔術をあっさり無効化した預言者は視認できない速度で突っ込んで来たパールとグランディ、そして離れていたブルーさえも魔術で拘束した。神々しく輝く鎖に縛られ、ドサリと音を立てながら3人は地面に倒れ込む。


「悪いが君達程度では無理だよ。俺が何年生きていると思っている?その間にどれだけの研鑽を重ねてきたと思っている?高々十数年程度の君達が俺を止めるなど、己惚れも(はなは)だしい」


 地に伏すかつての仲間に吐き捨てる男の表情に、過去の面影はもうなかった。


「さぁ。邪魔者は消えた。後は貴様を消し、四凶を消せば終わりだ。本来ならば人が成すべきを俺がやってしまうのは不本意だが、敵ならまだまだ残っている。今度はもっと上手くやるさ」


「アンタって奴はッ!!」


「この期に及んで、まだそんな事言ってるのか?」


「彼等も生きている。生まれは違っても、身体に流れる血は同じだ!!」

「クェッ!!」

 

「同じではないよ」


「いい加減にしろ」


 ドスの利いた声が聞こえた。その声は低く鋭く、だから全員が行動を止めるには十分な威圧感があった。その声は――俺だった。


「異物が」


 預言者が殺意、敵意を剥き出しにする。


「お前は失敗するよ。前回がそうだったように今回も、次も、その次も。お前は結局何も分かっていないから、だから何度やっても失敗する」


「この世界を何も知らない異物が偉そうに知った口をッ!!」


 俺の挑発に激高した預言者が一直線に突っ込んで来た。いや、突っ込んで来たなんて生易しい状況じゃない。姿を消した次の瞬間には俺を殴り飛ばしていた。これまでの誰よりも重い一撃に身体が軋み、吹き飛ばされ、叩きつけられた衝撃が全身を伝う。


「そうやって他人を見下している内は何も気づけない。遠くから見ているから分からない」


「俺達が、カミがどんな思いでいるか知らない癖に!!」


 預言者は更に激高、速度と鋭さを増した攻撃を繰り出す。が、見えなくても問題は無い。どれだけ速くても怒りに任せた攻撃は単調だった。真正面からの攻撃を咄嗟に回避、そのまま頭突きを喰らわせた。


「なッ!?」


 怯んだ隙に裾を思い切り掴み、そのまま地面に投げ飛ばした。ドシンと、身体の奥まで揺らす衝撃が周囲に響く。


「グウウッ!!きさ……ゴフゥ!!」


 更にそのまま腹部を思い切り殴りつけた。衝撃が腹部を貫き背中から地面を抉る。


「く、くそ……」


 その言葉を最後に預言者は意識を手放した。


「終わった?」


「みたいだ」


「た、助かった」

「クァッ!!」


「何がです?」


 安堵した。直後、不意に誰かの声が聞こえた。いや、この声は――反射的に全員が視線を落とした。足元に横たわる預言者は気絶したままで、動く気配はない。


 じゃあ今の声は?いや、声はもっと上から聞こえたような気がする。視線が、自然と夜空へと向かった。

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