終幕 敵(しんのてき) 其の2
「ちょっと何が、ってオブシディアン!?」
驚くパールの声が聞こえた。
「チョイチョイ待ちなよ。なんで君達が戦ってるのさ!?」
グランディまでいる。なんで、と考えても流石にこうも派手に暴れたら来るに決まってるか。
「やぁ。我が愛しの子らよ」
「は?頭でも打ったの?」
「いや。どっちかと言うと本音かな?」
「そうだよ。改めて自己紹介を。俺が預言者だよ。フォシル、ジェット、プレナイトに続く人類統一連合最後の1人。だがソレは正しくもあり、間違いでもある。人類統一連合は元から俺1人の組織。ただ、今回の作戦の為に止むを得ず仲間を引き入れ、拡大しただけだよ」
「アンタが?」
「冗談でしょ?」
「いいや」
かつての仲間の問いかけをオブシディアン――いや、預言者は淀みなく否定した。その顔は何処までも無表情で、ほんの半日前まで見せていた仲睦まじさなど欠片も感じさせない。
断絶した、いや最初から繋がってなどいなかったと察したパールとグランディの表情に怒りが滲み出す。
「君達とのごっこ遊びは楽しかったし、出来ればもっと続けていたかった。君達は心も体も正しく強い、何れは英雄になる素質さえある。だからココは見なかったことにして引いてもらえないか?」
「「お断りだ!!」」
当然、2人共に即答で拒否した。
「だろうね。残念な話だ。何故いつもこうなのだろうね?俺が認めた者ほど俺とカミの望まない行動を取る」
「そりゃあ、お前が間違ってるからだッ!!」
予言者の背後から鋭い声が突き抜けた。同時に魔法陣が足元に展開、光の鎖が出現すると預言者を拘束した。
「ブルー、君もいたのか?」
「気安く呼ぶなッ」
「クェッ!!」
「嫌われたものだ」
だが、預言者は拘束をあっさりと引き剥がした。鎖はボロボロに崩れ、やがて光の粒子になり、最後には霧散した。
「全ては我がカミの思し召し。人よ、苦難を乗り越え一つになり、やがて来る絶望に抗う希望となるのだ」
「何いきなり訳わかんない事言ってるのよ?」
「なるほど。俺達人間はその絶望ってのに対抗する為の道具って訳ね?」
「その言葉から察するに、独立種では対抗できない理由があるようだ」
三者三様の反応に預言者は嬉しそうにほほ笑む。どうやら有能な人類の存在を本気で喜んでいる、その存在が嬉しいようだ。
「グランディは正しい。が、ブルーは外れだよ。敵が必要だった、それだけさ。そして、その敵は我がカミが生み出した人類であってはならない。同族が殺し合うなどという悲惨な歴史は呪いとなり、遥か未来に滅びと言う名の徒花を咲かせる」
ただ、それ以外は全く褒められない。唖然とした。人間以外の敵が欲しかったというたったそれだけで独立種を滅ぼそうなんて正気じゃない。
「真面な神経してるのアンタ!?大体、じゃあプレナイトは何なのよ!!アイツのせいで私の両親も使用人も死んじゃったじゃん!!アンタの言葉が正しいなら、何でプレナイトなんて引き入れたのよ!!」
パールの怒りは最もだ。預言者が全く信用ならない理由はその一点。人類の為と言いながら、人類諸共に滅ぼそうとしたプレナイトを仲間に引き込むのは矛盾している。
「パール。君のご両親の件については悔やんでも悔やみきれないし、謝罪で許してもらえるとも考えていない。本当に済まない」
再び唖然とした。預言者はあろうことかパールに頭を下げた。その表情には後悔が滲み出ている。本心だと、何となく察した。
「別に彼女だけじゃない。今回の件で人類側にも被害が出ている。全容は解明されてないけど、結構酷い有様だ。君は何とも思わないのかい?」
「そもそもヴィルゴだって同じです。シトリン殿が復元しなければ恐らく今でも立ち直れなかった。アナタはその時点でエルフに大きな借りがある筈だ。返せとは言わないが、せめて交渉のテーブルに付く程度の度量は見せてはどうです?」
「ソレは出来ない。人類統一の悲願達成に、独立種には敵でいてもらう必要があるのだよ」
最悪だと、全員して閉口した。何をどうしたって預言者の頭の中では独立種=敵の図式が出来上がっていて、修正する気が微塵もない。
「なんでそこまで人類に媚びてんのよ?」
「それともカミってのがイカれてるのか?」
「もしくはカミの言葉をアナタが拡大解釈しているか」
「理解する必要はない」
「して貰えないの間違いでしょ!!だから300年前の戦いが止まったんでしょ!!」
「黙れッ!!」
パールの挑発に預言者は激高した。それまでの落ち着き払った口調が粗雑で乱暴な物言いに変わった。
「アレは間違いだった。戦いが長引いてしまったばかりに!!」
「嘘つくな!!」
「そもそもお前が預言者ってのも眉唾だよお兄さんはね」
「活動年数と年齢が合わない。エルフと同じ長寿なのか?」
「違う。我がカミの知識と技術は年齢や寿命の問題を既に解決している、ソレだけだ」
なんだか話が飛躍してきた。それに、何だか違和感がある物言いだ。まるで預言者の根源に科学があるみたいじゃないか。
いや、そんな筈はない。地球からの知識流入は頓挫しているし、そもそも寿命の問題は地球でも解決できていない。それ以前に、コイツが活動していたのは数百年も前の話だ。地球じゃない。コイツの知識の源流は地球ではないどこか別の場所から手に入れたんだ。
「なんだっていい。そうやって自分の都合を押し付けて、不都合なことは全部自分は悪くない他人のせいだと決めつけるお前のやり方は認められない。過去の人類もお前に何か良からぬ感情が含まれていると知ったから二分し、最終的には強引に和平を結んだ!!」
「独立種共の奸計だ!!我がカミが創り出した人間が、その意から外れた行動を取る訳が無いッ。ゴーレムと預言書の知識があれば、独立種どころか魔獣も死凶さえも圧倒出来た筈なのに、なのにどうしてこうなるんだ!!」
「間違っているからだ」
俺の言葉に預言者の顔が引きつった。怒りに震える表情に先ほどまでの冷静さは完全に消え失せた。
「他所から来た異物風情が!!」
「知っている。最初は帰ろうとしたし、1人で生きていこうとも思っていた。だけど、その異物を受け入れてくれたのはお前が嫌う独立種だ。その時に俺は分かった。大事な物は形には出来ない中にあると。だから、そう言う目に見えない物を大事に出来ないお前みたいなヤツを認めない!!」
「貴様はッ!!」
激高した預言者は俺に殴りかかって来た。拳が空を切ると、凄まじい衝撃が周囲を震わせた。
「負けたヤツラと同じだと思うなッ!!」
圧倒的な火力。確かにこれまでと同じではなかった。素でココまで強い人間がいるのか。決して己惚れている訳ではないけど、でもココまで押し負けるとは思いもしなかった。
「イレギュラー相手に何の手も打たないと思っていたのか。此方も相応の用意をしている」
その物言いと、何より勝ち誇った表情に強がりじゃないと直感した。直後、ズシンと言う大きな振動が地面を伝った。




