幕間5 終局
「ハハハハハ。所詮……」
伊佐凪竜一はプレナイトが召喚したグレイ・グーに飲み込まれた。が、直後にソレは弾け飛んだ。
「何が起きた!?」
異能の完全開花。極限まで強化された肉体が、誰かを守ると言う意志と共鳴、堕ちた守護者の侵食さえ跳ね除ける力を発現した。
「誰もいない世界を望むな!!お前は知らないんだ、自分以外に誰もいない孤独をッ」
勝利を確信したプレナイトは怯んだ。死んだと確信した伊佐凪竜一の声に恐怖した。闇に堕ちた守護者の浸食をものともせず、ゆっくりと自分の元へと歩いてくるその男に恐怖した。
「結構じゃないか!!」
「何処が良いんだ!!世界に置いていかれた悲しさも辛さも知らないで、世界が手を差し伸べたからお前は生きてこれたのに、そこから目を逸らして!!」
「逸らしてなどいない、真実だよ!!なら、何故お袋は死ななきゃならなかったんだ!!何故、俺は……お袋は泥水をすすりながら生きなきゃならなかったんだ!!不条理だろうがッ。生まれを理由に差別され、生きることさえままならない俺達の一歩横に、生まれを理由に命の危険もなけりゃ毎日腹一杯食える連中がいるッ!!こんな世界のどこが、こんな現実を当然と見て見ぬ振りする連中ばかりの世界の何処がッ!!」
「今日ここまで一度も優しさを受け取らなかったって言うつもりか!!」
その言葉にプレナイトは激高する。世界への憎悪を糧に動く男に伊佐凪竜一の綺麗事は火に油を注ぐだけ。臨界を超えた怒りで恐怖を塗り潰したプレナイトが動く。我武者羅に突っ込み、ありったけの感情を籠めた拳を振るった。ゴーレムの核という途轍もないエネルギー源との相乗効果により周辺の全てを震わせ、吹き飛ばす。
だが、肝心の相手には攻撃が通らない。相対する伊佐凪竜一はその攻撃を平然と受け止め、反撃してくる。何度攻撃しても、ただの一度も決定打にならない事実はプレナイトの感情を揺さぶり、変質させる。
「ふざけるなよ!!」
戦場に響くプレナイトの絶叫には、溢れんばかりの憎悪が焦りへと変わる苛立ちに溢れている。
「ふざけてるのはお前だ!!なんでお前は昔お前がされた事をやってるんだ!!他人から押し付けられた考えに振り回されたなら、その不幸が分かるだろうが!!」
「正当な権利だッ!!俺は不幸になった、だから次はお前等全員だ!!」
「そうやって自分の考えを他人に押し付けるな!!次の不幸を生むだけだ。お前は次のお前を作るつもりか!!」
「あぁそうだよ。復讐さ、その権利が俺にはあるッ!!俺達は不幸だった、一度も幸せなんて無かった!!だから貴様等も同じ目に合え、俺達の痛みを知れッ!!」
互いが互いの思想を力で、言葉で否定し合う。誰もそこに割って入ることが出来ず、ただ2人の拳と言葉が激突する様を傍観するしかなかった。
「母親との思い出もそうやって否定するつもりかッ!!」
が、勝負は決した。伊佐凪竜一の言葉にプレナイトの動きが一瞬だけ止まった。
彼には捨てきれなかったモノがあった。ただ一つだけ、ソレだけは捨てられなかった。彼の心を占める悍ましい憎悪の更に奥底にある全ての原動力。ソレは自らを慈しんだ母親への慕情、敬愛。だが、世界は己が命よりも大切な物を踏みにじった。その怒りこそが怒りの源泉。
伊佐凪竜一の言葉は細く鋭い槍となり、瓦礫の様に積み重なった憎悪の隙間を縫い、一番奥深くに眠るその感情を貫いた。故に止まる。ソレは彼の行動する理由であるから、ソレが無くば彼は彼足りえないから。プレナイト=テンペスタという男を構成する最も重要な要素であるから、何より――彼も人であったから。
「しまッ!?」
逸れた意識が覚醒する。再び心に怒りの火が滾る。が、燃え盛る直前にプレナイトは殴り飛ばされていた。
左肩に埋め込まれたゴーレムの核は殴られた拍子に吹き飛び、粉々になった。直後、グレイ・グーであった全てが崩れ落ち粒子へと還った。プレナイトに埋め込まれていたゴーレムの核というエネルギー源が消失した事で戦いは終わった。
「クソ……クソッ……」
崩れ落ちたグレイ・グーの粒子が恒星の光を受けキラキラと輝く中、プレナイトの呻き声だけが静かに木霊した。




