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暴(あばかれる) 其の2

「他の連中と同じと思うな!!」


 視界から姿が消えた。僅かも間を置かず耳元から声がした。かと思えば、身体を貫く重い衝撃に吹き飛ばされた。反射的に不味いと感じてガードしたのが功を奏したが、同時に直感した。コレはマズい。


 ゴーレムも十分に脅威だが、核を人間が取り込めるなんて想定外だし、取り込んだら取り込んだで人外の力を発揮するのも異常だ。それにこの威力。打たれ強い自覚のある俺でも致命傷を負わされた。他の誰かに直撃すれば確実に死ぬ。


「来い、お前だけはこの手でッ!!」

 

 それはそれで好都合。元よりもう誰かに止められると考えていない。


「殺す!!」

  

 咆哮に近い声が聞こえた。キラリと輝く何かが目の前を掠めた。剣だ。視認不可能な剣戟に身体が強張る。言葉通りに殺す気だ。


 師匠や姉兄(きょうだい)の時は素手だった。が、俺に殺すつもりはない。だから、どうにかこうにかして胸元から核を引き抜かなければ。


「舐めてるのかッ!!」


「五月蠅い!!」


「何がッ!!」


「そうやって気軽に殺す殺すって言うな馬鹿野郎!!」


 言葉では解決しない苛立ちが互いの拳と剣に乗る。剣が空を切れば、拳が触れればその場所は抉れ、吹き飛ぶ。異形と異形の力、近づくことさえできない戦いにより、気が付けば周囲にはもう誰もいなかった。


「どうした、口だけかッ!!」

 

 攻撃が苛烈さを増す。疲弊も疲労も知らないのか。ジェットは全力で攻撃をし続けながら、俺の攻撃を何度もその身に受けても平然と向かってくる。やはり異常だ。


 俺みたいにのっぴきならない事情から貰った異常な力であっても正直納得しがたいのに、明らかにこの星の人間が扱えるレベルを超えている力が簡単に使えていい理由がない。このまま戦えば共倒れ――いや、その前に身体が持たずに死ぬか、その前に俺が殺される。

 

 だけど、死ぬつもりもないし、このバカみたいな騒動の主犯を死なせるつもりもない。その為には、何としても胸に埋まった核を引き抜かねばならない。今の状況を可能な限り冷静に判断すると、能力では俺が上だけど鍛えられた戦闘技術と天与の才の差で負けてる状態。


 何か切っ掛けが無ければ何れジリ貧で負ける――と思考が敗北に傾きかけた直後、一本の矢が掠めた。誰に向けた攻撃か分からず、互いに飛び退いた。直後、一射がジェットの胸を抉った。


「お、お前!?」


「よぅ。お待たせ」


 アイオライトだった。何か用事があるとかで直ぐに別行動していたのに、何時の間にやら狙撃向きの高い建物の屋上にいた。が、ひょっこり覗かせた顔は険しい。何を言わんとするか察した俺は即座に飛び掛かった。


「きさ、グッ!!」


 喚くな五月蠅い。とりあえず黙らせる為に勢いのまま頭突きをお見舞い、怯んだ隙に背後から羽交い締めにして、ローズの名を目一杯叫んだ。


 保証は無く証拠なんてもっとない。頭の中で呟く神の言葉位しか根拠がない。だけど何となく、そんな気がする。コイツは、いやコイツも操られている。


 本人の意図しない内に、多分都合の良い道具なんだ。差別に心を痛めながら、その解決方法に差別される側の根絶という滅茶苦茶な方法を疑うことなく信じさせられているんだと、そう思った。


 時を置かずローズが一足飛びで俺の傍に転移してきた。顔はどことなく紅潮し……いや、今それどころじゃないから。俺の視線に彼女は仕方ないとジェットの頭に触れた。


 効果は直ぐに出た。くぐもった声が零れ始め、抵抗する力もみるみると弱まった。


「終わった?」


 誰ともなくそう呟く声が聞こえると同時、俺はジェットを掴む手を離した。ドサリ、重力に引かれる様に崩れ落ちるジェットはその場から動かない。ただ、時折呻き声を漏らすばかり。


 やがてその彼の元に誰かが走り寄って来た。アレは確か学園でずっと一緒にいたという……確かプレナイトだったか?


「何で、どうして!?」


 走りながら叫ぶその言葉からは混乱している様子が見て取れる。

 

「うううッ……」


 未だ立ち上がれないジェットをプレナイトが支え上げる。が、相変わらず反応は鈍い。


「ち、違う。俺は……お前は……」


 起き上がり、近づいた男の顔にジェットの口が止まった。代わりに血が止めどなく零れ落ち、腹部が赤く染まっている。彼の腹に、刃が突き立てられていた。

 

「グゥ……」


()()()()ココまでお膳立てしたのに失敗するかなぁ?やっぱ所詮は理想だけのお坊ちゃんか。使いやすいが脆いし不測の事態に対処できない」


 突如態度を翻したプレナイトは支えていたジェットを勢いよく放り投げた。血塗れのジェットが空を舞い、周囲に赤い血を飛散させた。


「何ッ」


「貴様ぁ!!」

 

「いやそれよりもッ!!」


 激高する声が多数を占める中、冷静な叫び声が戦場に木霊した。ブルーだ。


「あぁ君、確かブルー君、だったか?流石に聡いねぇ。いいよ。君の頭脳に敬意を表して、その綺麗なガラス玉は君にあげよう」


「やっぱり偽物かッ!!」


「本当に、ムカつくガキだ。ご明察、偽物だよ。ちょっと純度の低いだけのただの宝石さ。まるーく加工して、限界ギリギリまで魔力籠めて、いかにも重要っぽく見せてただけだよ」


 全てが万事この男の掌の上。男はそう言わんばかりにゲラゲラと笑い出した。周囲を嘲笑する下卑た笑いに全員の不快感がこらえきれない程に噴出する。


「騙していたのか?」


 アイオライトがドスの利いた低い声が聞こえた。プレナイトの言動に相当怒っているのが傍目にもよく分かる。


「人聞きが悪いなぁ。信用していなかったというだけさ」

 

 口角を歪めながら、プレナイトが包帯を解いた。左肩から心臓があるあたりに小さな核が埋まっている。コイツ、最初から――


「貴重な核をこぉんな奴に渡すわけないだろ?」


 流石に怒り心頭。何処までも他人を見下しす言動に、全員が殺気をぶつける。が、まるでそよ風の如く受け流した。


「一体何者だ?」


 比較的冷静なルチルが先んじて口を開いた。誰かが怒りに任せて戦い始めたらもう聞けない、そんな確信があったんだろう。


「色々あるさ、人類統一連合首魁プレナイト=テンペスタ、獣人のハーフ」


 ハーフ。その言葉が聞こえた途端、数名から怒りのオーラみたいなものがフッと消えた。


「伊佐凪竜一、お前は知らんだろう?いや、そもそも誰からも教えて貰ってないんじゃないか?人間、獣人がいて、その子供の話が一切出てないなんてさ。不思議だろ?なら教えてやるよ。語る前に、皆死んじまうんだからなぁ。金と運があればカスターに渡れるが、大半の運命は悲惨極まりない。どちらからも認められず排除され、拒絶され、最後は野垂れ死ぬか魔獣の腹の中なんだよ」


 プレナイトの瞳に、言葉に、雰囲気に明確な怒りと殺意が混ざり始める。 


「お前達が憎い。人類も、独立種も、それを隔てる壁も、母を殺したこんな下らない世界も何もかも憎いッ!!だから殺す、全部滅びろ!!」

 

 合点があった。だから人類だけの世界を謳いながら、躊躇いなく人類を巻き込んだ。コイツが本当の敵だ。

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