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暴(あばかれる) 其の1

 ユースティア橋の前に広がる広場の様子は悲惨そのも。周辺を見れば相当数の鉄騎兵や近衛が倒れており、その中心地点には傷だらけのジルコン達の見えた。


 流石に死んではいないようだけど、状況は芳しくない。全力で殺しに来る相手を殺さないように加減しつつ、更に鉄騎兵や近衛を捌かなければならないのだから無駄に疲弊している。


 が、状況が一変した。


 魔法陣が消え、ローズの手により正気に戻った市民の呼びかけと鉄騎兵の参戦は3兄弟に動揺を生み、結果として最前線で戦っていたアンダルサイトジルコンの一撃を受け昏倒、その隙にブルーが魔術で生み出した鎖で拘束した。


 地面から伸びる鎖に雁字搦めにされ必死でもがくアンダルサイトだが、攻撃のダメージから立ち直れておらず、もがく度に口から血を吐き出している。


「任せてください!!」


 ジルコンの視線に言わんとすることを察したブルーは全力で魔術を維持する。ギリギリと、魔術製の鎖がアンダルサイトを更に締め上げる。


「スピネル。我々は君が人類統一連合の一員ではないかと踏んでいるのだが、どうかね?」


 残りは2人。その片方、ピネルにアゾゼオが肉薄する。体術で翻弄しながら、同時にストレートに問い質した。


「ふざけるなッ。言うに事欠いて、父上を殺した逆賊がッ!!」


 当然、否定する。彼に限らず他の兄弟も同じで、誰が関係者にせよ馬鹿正直に全てを話す理由は何処にも無い。やはり証拠がなければ――と、事態が更に急変した。


 戦場にエンジェラが降り立った。全員の視線が彼女の手に持った何かに集まる。


「ジェット、コレは何のつもりだ!!」


 怒号と共に、彼女は手に持った赤い何かを全員に見せつけた。絨毯の切れ端だ。確か、そうジェットが贈ったという


「何故ッ、これに魔法陣が編み込んであるんだ!!」


「それは、確か父上の部屋に敷かれていた……?」


「馬鹿な、念のため調べた時には何もなかっ……お前ッ!?」


 あらん限りに叫ぶエンジェラの言葉にスピネルが、立て続けにアンダルサイトが反応した。が、その途中で何かを見て、絶句した。


 視線が、意識が一か所に集中した隙を突き、ジェットがルチルの横っ腹を剣で貫きつつ素早く背後に回り込み羽交い絞めにした。


「あの方が」


「そんな馬鹿な!?」


 幾つも折り重なる動揺と困惑。


「バカ者がッ!!」


 その全てをかき消す一際大きな叫び声。アゾゼオの言葉には怒りよりも悲しさややるせなさが溢れていた。


「今日、この日を迎えた時点でバレてしまうのは想定内でしたよ」


 覚悟が無ければこんな真似はしない。犯行を認めるジェットの態度は、そう言わんばかりに落ち着いている。


「なんでお前がッ!!」


 ローズの手により記憶が戻ったアンダルサイトが弟を見る視線に過去の自信も精強さもなかった。


「お前、嘘だろ?」


 同じくローズの手により正気に戻ったスピネルもまた、最愛の弟の凶行を前に呆然自失している。過去の理知的な姿は、兄と同じく欠片も見られない。


「どうして?何時もまっすぐで正義感に溢れたお前は何処に行ってしまったのだ?」


「俺は何も変わっていない。だけど、自分が無力だと知っている。正義を掲げるだけじゃ、正しい理念を持ってるだけじゃあ世界を守れないって事もです」


 エンジェラの言葉にジェットは凶行に走った理由を説明した。が、当然誰も納得などしない。


「そんな事はッ」


「じゃあ、どうして今もこうして争いが、差別が続いているんです!!人と独立種の争いは今も止まらず、父上の威光をもってしても止められない!!」


「だからと言ってッ!!」


「力。俺は、俺に足りないのはソレだけなんです。俺には兄様達みたいな力も、頭も、人を惹きつける魅力も無い。だけど、変えたい、その願いだけは負けてはいない。だから、俺には力がいるんだ!!この世界を正す為に、圧倒的な力で歪んだ現実を正す力がッ!!」


 俺も、俺以外の誰もが青臭い青年の言葉に歪みを見た。正しさを理由に青年は歪んだと、誰もが理解した。一足飛びで理想を実現しようとする甘さ故に青年は歪んだ。いや、違う。


「ならばッ」


「兄として」


「姉として」


「「「その歪みを正す!!」」」


「出来ると思うなァ!!」


 兄姉(きょうだい)から否定されたジェットは怒号と共にルチルを突き飛ばし、懐から取り出した球形状のガラス玉を強く握りしめた。中心部から放つ淡い輝きが握り締めた手から零れ、周囲を僅かに白く染めた。


「マズいですよぉ」


 事の重大さを理解したアメジストが珍しく叫んだ。ただ、大半にはアレが何か分からない。


「ゴーレムの核だ!!」

(ゴーレムの核か)


 ルチルの声に重なる様に神の声が頭に響いた。


(異常だと思わないか?)


 更に神が重ねた。異常なんて一目で十二分に分かる。


(違う、理由だよ)


 早合点する俺に神が更に重ねた。理由と言われても、力が欲しいと言っていた以上を語っていない。


(差別に至る理由は様々で、決して力だけで解決できる問題ではない。ソレに人同士でも起こっている筈。クエストと言う形で世界を巡っていればその程度を理解するのは容易なのに、彼は頑なに力による排除を願う。あれではまるで……)


 全てを聞き終える前に、飛び出していた。道を違え、殺し合おうとする4人に割って入る。全員、驚いた。。ジェットを除いて。俺を睨む一際強い視線には、強い憎しみが混じっている。


「貴様さえいなければ!!」


 眼前からはそう口走る声、背後からは邪魔するなと言う怒号。ジェットは怒りに任せ、その身にゴーレムの核を取り込んだ。胸に押し付けられた核が身体と融合、莫大な魔力が漏れ出し周囲を鳴動させた。


「お前は何を見て来たのだッ!!」


 背後から一際大きな怒号と共に大きな人影が幾つも横切った。真っ先に通り過ぎた大きな狼の様な影はアゾゼオ。続いてエンジェラ、アンダルサイト、スピネル。


 が、有ろうことか全員纏めて片手で薙ぎ倒された。全員が名うての実力者なのに、ゴーレムの核を取り込んだジェットはそれぞれをたった一撃で容易く撃退した。


「スノーホワイトから報告は上がっているよ。最大のイレギュラー、伊佐凪竜一!!」


 吹き飛ばされた全員が石畳や家屋の外壁に叩きつけられる中、ジェットは再び俺を睨みつけた。眼差しは敵意から殺意へと昇華し、説得など到底受け入れない程に濁っていた。

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