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揺(ゆれる) 其の3

 ――上位区画


 要所に配備された鉄騎兵をぶっ飛ばしつつ、俺達はリブラ城へと向かう。


「ご迷惑を……その、おっかかけけっけ……」


 隣を走るエンジェラはしどろもどろに謝罪する。生真面目なのか、意外と気にする性格なのか。記憶を弄られてたんだから、殺しかけた件とか気にする必要はないんだけど――とにもかくにもこの作戦、君に掛かっているんだけど大丈夫?


 走りながら身悶えするエンジェラから視線を外し、背後を見た。追撃はない。陽動作戦は成功しているようだ。


 足止めしているのは主にジルコン、アゾゼオ。二人が上位区域への追撃を防ぎつつアンダルサイト達兄弟と鉄騎兵を制止しているというのが現況。


 本来なら二人共に鉄騎兵諸共に三兄弟を軽く捻る程度の実力があるのだが、殺してしまえばそれこそ敵の思惑通りになってしまうから全力を出せない。操られていたなど理由にならない。獣人が帝国の皇子を殺害したとなれば、その事実は虚構を交えながら瞬く間に広まる。


 かといって他に戦力はいない。ローズは操られた鉄騎兵達の解除、エリーナは魔法陣の解除中。


「援軍()んで来る、死ぬなよ」


 ダメ押しに、戦力補充を目的にルチルも一時離脱した。オブシディアン達や想定外のコカトライズと言う戦力はいるが、辛うじてコカトライズが食らいつける程度で3兄弟を足止めするには余りにも力不足。


 足止めは確かに成功した。が、綱渡り状態。彼等が敵を引き付けている間に黒幕特定の決定打となる証拠を探し出し、ソイツだけを討たなければジワジワと追い詰められ、最終的には負ける。


「父上の部屋だ。一直線に向かうぞ!!」


 誰がこの事態を引き起こしたのか。何を探すべきか。しかし迷う俺に対しエンジェラははっきりと明言した。俺と皇帝陛下がこっそり会ったあの部屋だと。


 彼女が意識を取り戻した時、色々な情報を教えてもらった。先ず、皇帝ヴェリウスは死んいない。ただ、強硬な言動に違和感があった、今にして思えば記憶を改ざんされていたのだろうと、そう言っていた。


 皇帝の命で帝国全戦力が1か所に集められた直後、足元に青白く光る魔法陣が浮かび上がった。この時点で彼女の父親である皇帝陛下の記憶改竄(かいざん)を確信したそうだ。


 主要メンバー全員を一斉に操るなんてどうやって行ったのか、そんな疑問はあっさりと解決した。なるほど、皇帝陛下の命令ならば確かに全員を一か所に集めるなんて容易い。


「父上の警備は極めて厳重。しかし、唯一その手が及ばない場所がある」


 護衛を片付けながら彼女は空を睨みあげた。荘厳なリブラ城の最上部。皇帝陛下の私室。が、眼前には大量の鉄騎兵。一々倒すには数も多ければ実力も高く、真面にぶつかれば無駄に時間を使わされる。


「は?へ?へ?ふわぁ!?」


 ゴメン。コッチの方が多分速いからと、そう言い訳と謝罪を重ねた俺はエンジェラを抱きかかえ、目一杯足に力を籠めて地面を蹴った。無数の鉄騎兵は瞬く間に視界の横を通り過ぎ背後へと流れ消えていった。


 なんか俺、事あるごとに誰か抱きかかえて走ってるような気がする。なんだろう、こういう運命なのかな。


 ※※※


 ――リブラ城最上階


 皇帝の私室へと辿り着いた俺達が目にしたのは呆然自失とする皇帝陛下。実の娘を前にしてもまともな反応を返さない辺り記憶を弄られているのは疑いようない。どうやら理性は残っていたらしい。


「父上!!」


 甘かった。エンジェラが声を掛けるや皇帝は何かに取り付かれた様にゆらりと立ち上がると、それまで虚ろだった目を吊り上げ、鬼のような形相へと変えた。


「黙れ逆賊!!我が娘を騙るとは良い度胸だ!!」


 用意周到。証拠を守るのは他ならぬ皇帝。殺すなど俺もエンジェラも、それ以外の誰一人として出来やしない。


 殺せば疑いようなく反逆罪で処刑されるが、何よりこの大陸を纏める人間がいなくなってしまう。かといって殺意に染まった人間を無傷で止めるのは困難を極める。


 剣を鞘から抜く音、抑えきれない興奮が滲む呼吸音、剣と剣がぶつかる激しく甲高い音。


 目も当てられない状態。呆然とする俺を他所に親子が剣を交えた。古臭いながらも親子愛に満ちた部屋に何度も何度も金属音が響く。壺が揺れ、本棚がカタカタと揺れる。


「貴様ッ!!」


「目を覚ましてください!!」


「とうに冷めているぞ逆賊!!」


 やはり娘の説得など聞く耳持たない。いや、娘だと気付いていない。その認識を頭から消されている。余程強固に、且つ念入りに記憶の改竄が行われているのは疑いようない。調査の為には皇帝をどうにかして無力化しなければならないのだけど、エンジェラ達を見ていれば分かるが、親である皇帝も大概に人間から外れている。


 身体を鍛える暇なんてある訳ないのに、一度剣を振るえば空気を切り裂き震わせる。エンジェラも必死で反撃するが、敬愛する父親と戦う事態に対する覚悟が無かったみたいだ。なら――


「貴様ッ。そうだ、貴様がァ!!」


 ほんの一瞬だけ両者の動きが止まった隙を狙いエンジェラを突き飛ばし、皇帝の前に立ちはだかった。彼女に戦わせるべきではないし、何より時間が無い。


 直後、声にならない叫び声と重なる様に鋭い音と視認できない何かが目の前を通り過ぎた。剣を振るったと頭が理解するのにそう時間は掛からなかった。圧倒的、年齢による衰えなど微塵も感じさせない攻撃だった。この子にしてこの親ありだ。考えが甘かった。無傷で止めるには、前に出て身体で攻撃を受け止めるしかない。


「何てことを!?」


 肉は斬らせても骨は断たせない。振りかぶった直後に前に飛び出し、勢いが乗る前に左腕で受け止めた。痛い。噴き出した血が零れ落ちる。身体から少しずつ熱が奪われる。肉と骨を伝う激痛に頭が痺れる。


 が、これで良い。そのまま無傷の片腕で皇帝を掴み、背後に向けて「あとは頼む」と叫びながらそのまま部屋の出口へと走った。これで良い、後は彼女が何とか手掛かりを探してくれる。


「貴様ァ!!」


 鼓膜を破りかねない位の絶叫が耳から脳を揺さぶった。意識が怒号に逸れた隙を狙い、腹部への強烈な打撃。堪らず腕の力を抜いた。即座にブォンという音が身体を掠める。何度も、何度も。一度直撃したからよく理解できる、まともに喰らえばひとたまりもない。


 そうやって紙一重で大ぶりの攻撃を避ける度に血が赤い絨毯零れ落ち、壁に飛散して染みを作る。もうどれ位避けただろうか。彼女はまだ手掛かりを見つけていないのか、それともそんなモノは初めから無かったのか。


 血は更に零れ、息も上がり始めた。ただ、向こうも同じなのは幸いか。どうやら記憶を弄って無理やり戦わせているようで、俺よりもさらに息が上がっている。体力の限界が近い。なのに、目だけが異様にギラついている。殺意、怒気、憎悪etc……色々な感情で煮えくり返っている。言葉は通らない、諦めるつもりもない。


 だけど殺してしまえば言い逃れしようがない程に立場が悪化する。ましてやこの人は暗君ならばまだしも稀代の名君とさえ言われている。


 殺せないし間違って殺してしまえば余所者の言い訳なんてこの都市の誰も許さないだろうし、下手をすれば人類統一連合に利用される可能性だってあるし、寧ろその為に生かしておいたとさえ思える。


眠りの神(ノート)よ、かの者を深き眠りに誘え」


 懐かしい、聞き慣れた声が耳に入った。同時、まるで糸が切れた人形の様に皇帝が崩れ落ちた。


「よっ、生きてるか?」


 また聞こえた。窓の辺りに黒い人影が踊った。何時の間にやらぶち破られた廊下の窓から懐かしい男の顔がひょっこりと覗いていた。


 待たせたなと、また気さくに声を掛けるとそのまま窓から廊下へと着地したのはアイオライトだ。


「おう、久しぶり。なんか城の上の方から暴れまわる音が聞こえたからもしかして、と思ってちょいと寄り道したんだが、来て正解だったよ」


 随分と久しぶりに会った彼は俺の顔を見て安堵したのか、背中をバシバシと叩きながら再会を喜んだ。相も変わらずだ、と思うけどちょっと痛い、傷に響く。


「おっと、済まねぇ。とりあえず傷薬、よく効くヤツだから直ぐに効果出るぞ。で、お前なんでこんなところで陛下と戦ってるんだ?ってそもそもこれ本人?偽物だよな?」


 本物です。操られてるんです。そう伝えるとアイオライトの表情がみるみる曇った。


「そうか。物は使いようというけど、こりゃあ厄介だな。俺は別件でここを離れなきゃならないから、もう少し強めに魔法掛けておくよ。じゃあ、終わったらまた酒でも飲もう」


 アイオライトは先ほどまでの暴れっぷりから一転、寝息を立てる皇帝を念入りに眠らせると壊れた窓の枠に手を掛け、蒼天の空に消えた。


 ガシャン


 何かが壊れる音がした。皇帝の部屋からだ。多分、いやきっと何かを見つけたのだろう。


 急いで部屋へと戻った俺が見たのは彼方此方がひっくり返され見るも無残となった部屋。壺はひっくり返され、本棚からは本が無造作に投げ捨てられ、絨毯はめくられ切り裂かれ、入口側から見て一番奥にある窓が粉々に破壊されていた。


 周辺に破片はなく、部屋にいたエンジェラの姿は何処にも無かった。何か犯人を特定するヒントを見つけたと、そう信じた俺は彼女に続くように壊れた窓から外へと飛び出した。

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