表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/116

揺(ゆれる) 其の2

 敵意と殺意に満ちた鉄騎兵と近衛が取り囲む。口々に仇だ、殺せと叫ぶ。何を意味しているのか分からない。


「よくも、父上を殺したな!!」


 最悪だ。父、つまり皇帝が殺害されたと言っている。そう思い込まされただけか、それとも誰かが殺害した場面を見た後、俺が殺した風に上書きされたのか。何れにせよ彼女の殺意は俺に向いている。目は酷く血走っていて、美貌は完全に台無しになっている。


 明確な殺意。皇帝、父親を殺害されたという理由。当代の皇帝は上にも下にも良く尽くし、名君と名高いそうだ。その人格が仇となる。彼女は、本気で俺を殺しに来る。


「信じていたのに!!」


 目に涙を浮かべるエンジェラ。僅かに動きが止まったその隙に、鈍色の輝きが身体を射抜いた。剣。間一髪で回避した。もう僅か反応が遅れていたら串刺しにされていた。


「運命だと、そう思っていたのに!!」


 尚も叫ぶエンジェラは心臓に狙いを定め、剣を構えた。殺意、怒気、憎悪、色々な感情が籠った目に睨まれ身体が強張る。たった1つだけしか記憶を弄られていないというのに、たったそれだけで人はココまで変わってしまう。


「どうした!!何故手を出さない!!」


 叫ぶ。が、出せる訳が無い。殺してもいないのに、理由も無いのに手なんか出せる訳が無い。剣が身体を掠め、斬り、抉り、突き刺す。


「なんで!!」


 再び叫び声。今、この状況をどうにか出来るのは自分だけだという認識はある。彼女を倒して前に進むべきだとも理解している。殺す覚悟で戦わなければ殺されるかもしれないなんて嫌と言うほど肌で感じ取っている。だけど、出来ない。それは、秤に掛けていい問題じゃない。


「どう……して……」


 カシャンと何かが落ちる音に、消え入りそうな声が重なった。戦意を喪失したエンジェラが今にも泣きだしそうな目で俺を見上げていた。


 当たらないように避けたつもりでも怒りでキレが増した彼女の攻撃を何度もよけ続けられるわけがなく、俺も満身創痍で動けない。身体のから血が溢れ、血痕があちこちに飛散している。改めてみると結構酷い状態だ。しかもこれが後3人も続くんだから(たま)ったものじゃない。直後――


「ねぇ、その女……誰?」


「お主、浮気か?コレ浮気、ねぇ浮気?」


 声がした。エンジェラの背後に人影が踊ったかと思えば、彼女は糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。


 助かった。いやまだだな、と人影を見た。俺を助けた人影はローズとシトリン(エリーナ)だった。そ俺は絶句し、崩れ落ちました。


 ※※※


 機嫌を直してほしかったら私の首に首輪をつけて所有物と宣言してくださいと無茶振りするローズに、浮気と責め立てるエリーナを何とか(なだ)めすかし、誤魔化しながら中央へと目指した俺達が見たのは予想通りの光景。


 エンジェラを除く3人の兄弟、アンダルサイト、スピネル、ジェットを中央に大量の近衛と鉄騎兵がユースティアの橋からその先の広場に陣取っていた。誰もが動かず、ただ一様に父の仇を口走るその様子は常軌を逸している。彼等の中で皇帝と言う存在がいかに大きいか、喪失した痛みが嫌でも伝わる。


 一方、この中に犯人がいる。人数は不明。記憶を操作されている者とそのフリをしている者。あるいは全員がシロか、もしくはクロかも知れない。特定しようと躍起になって、だがその前に行動を起こされてしまった。


「結局、犯人の特定に至る前にこうなってしまったな」


「しかし状況は最悪とも言えるし、ある意味最良ともいえる」


 最良?とてもそうとは思えないんだけど。


「恐らく、本当はもっと入念に計画を練り、実行に移す予定だったのだろう。しかし、君の存在が無視できなくなった。リブラで徐々に仲間を増やしつつある君にこれ以上時間を与えては不利だと、だから強引に計画を前倒した」


「つまり、作戦には穴が多いという訳だ」


「あぁ。しかし厄介なのはあの3兄弟だ。寄りにも寄って揃い踏みの上、両翼を近衛と鉄騎兵が固めている。この状況ではローズの能力で戻すだけでも一苦労だし、正気に戻せても結局誰が黒幕か分からないのでは状況が変わらない」


 背後から合流してきたアゾゼオとジルコンの声が聞こえた。ローズにより記憶改竄(かいざん)に耐える能力を付与された2人の参戦は大きく、その内にルチル達も合流してくるだろう。


 が、それでも状況は不利。質は確かに高いが、相手の量が余りにも多すぎる。しかも更にこの中から黒幕を見つけなければならないし、敵と味方が分からない以上、むやみに殺す事も出来ない。


「賭け、お好きですか?」


 背後から男の声がした。驚き振り向けばブルーが立っていた。どうやら駆け足でココに来たようで、息が上がっている。


「ウム……そうか、そういう事か」


「なるほど。一瞥しただけでようもまぁその結論に辿り着けるものだ」


「お世辞は、まぁ有難く受け取っておきます」


 ジルコンとアゾゼオはもう一度広場の布陣を見ると何かに気づき、視線を翻してブルーを褒め称える。


「先ず不可解なのは何故あの場所で止まっているのかと言う点です。エンジェラ様は独断専行したみたいですが、恐らくあの方も本来はこの場にいたのではと推測できます。あ、エンジェラ様ならもう直ぐ合流できると思いますよ」


「現状におけるリブラの最高戦力4人が何故か一か所に集まっていたというのは、つまり各個撃破を恐れての事。だが、どうして全員が揃って()()()()()動かないのか、いや動けないのか」


「つまり、橋の先に行かれては困るのです。上位区画の何処かに黒幕を特定する何かがある可能性は十分にあり得ます。そして、3人の誰かが黒幕と仮定した場合、考えられる場所はもう一つだけです。最奥にある、最も警備が厳重なリブラ城です」


 彼の言葉にストンと納得するだけの説得力があった。


「話はまだ終わっていません」


 なら急いで、と動こうとした俺をブルーが制した。そう言えば、賭けと言っていたな。となればこの後に言いたい事は何となく予想がつく。


「そうです。賭けと言ったのは、全て憶測にすぎないという事です」


「しかし、少なくともワシとジルコンはこの事態を見越した罠だとは考えておらん。どう考えてもこの行動は無謀すぎる。強引な形での記憶転写の反転魔法陣、本来ならば我々がいる時を狙った筈。現にローズ殿の助力が無ければ伊佐凪竜一殿以外に誰もリブラに踏み込む事さえ出来なかった。が、そのチャンスを不意にしてまで発動したとなれば、証拠を処分する暇さえなかった筈だ」


「だから、後は君が乗るか否かだ」


 アゾゼオとジルコンが背を押す。俺を見る眼差しは、多分――いや確実に俺の返答と行動に命を懸けると言っている様に思えた。だから、その眼差しに押される様に伝えた、行ってくると。


「ウム。ならば我々も命を賭して時間を稼ごう」


「無論、俺達もです。フローライト!!」


 俺の覚悟にブルーが背後に小さく叫んだ。ややあって、白い影が一直線でコチラに向かってきた。アレは彼が手懐けたコカトライズだ、って言うか名前つけたんだ。


「あぁ、個体を識別する概念みたいなものが無かったので適当に付けたら喜んでくれまして」


 その言葉に俺もジルコンもアゾゼオもあぁ、そうなんだみたいな反応しか返せなかった。知能が高いという話は聞いていたが、意外と人間世界の常識に馴染んでくれるようだ。が――


「シッカリ捕マッテイロ。ソレカラ渡シタオ守リハ持ッタナ?」


 喋ったよ。


「あ、そういや言ってませんでしたっけ」


「「喋るの!?」」


 どうやらジルコンとアゾゼオも初耳だったらしく、2人は仲良く驚いた。


「教ワレバ簡単サ。デハ行クゾ。ダーリン」


「「!?」」


「だからそれは止めろって言ってるだろ!!あンのクソ兄貴、余計な事ばっか教えやがってエェェェ」


 俺達を置き去りに、ブルーはコカトライズと空に消えた。ブルー、いやブルー君。君とは美味い酒が飲めそうだよ。きっと、いや確実に。いやぁ、世界ってこうも眩しいのね。俺は今日、アイオライトに続く飲み友をゲット出来て最高の気分だよ。あ、君まだ未成年だっけ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ