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60話  無敵のパスワード

専門用語については、ページ下部に補足を載せています。

また本話の真ん中付近に補足のような形で画像を載せています。適宜ご確認ください。


「じゃあ、あと一個だけお願いがあるんだけど」


「ん? なに?」


俺はUSBを片手にくるくる回しながら、叔父さんに言った。


「使う予定のパソコンのノートPCあるでしょ? それの情報を、あとで送って 」


「……は?」


叔父さんがポカンとした顔で俺を見た。


「え、なんでそんなの必要なんだ?」


「コピー対策」


パソコンのMACアドレス 、CPUのシリアル番号 、HDDのIDを入力し、その情報と適合しないと起動しないようにするためだ。


さらっと答えると、叔父さんの眉がさらに上がる。


「つまり、そのPCじゃないと動かないようにしたってことか?」


「うん。認証通ったマシンじゃないと起動できないようにした。


USB挿しただけじゃ無理。認証確認して、通ったら起動する仕組み」



「マジで? そんなことまでできるのか?」


「まあ、できちゃったんだよね〜」


俺はふふんと鼻で笑った。

いやまあ、正確には“ChatGPTに聞いたら全部教えてくれた”んだけどさ。


「PCに固有の情報をチェックして、合致しなきゃ起動しないようにしてる。

なんちゃってセキュリティだね」


「なんちゃってってレベルじゃないぞ。普通にガチガチだろ」


「おかげで、コピーして誰かに渡しても、動かない。研究室に持ってっても、USB差し替えたらアウトだよ」


「いや、すげえな……。ちょっと感動してる」


「でしょ?」


俺はにやっと笑って、ソファの背に身を預ける。


「ちなみに、ID照合に失敗したら、起動すらしないし、ログも残る。」


「セキュリティ、すごいな……」


自分で考えた風に見せてるけど、実際には指示出してポンって感じだったし。

中学生のくせにプロみたいな顔してるけど、裏に最強の相棒がいる。


そんな会話をしていたら、母さんが冷たい麦茶を持ってきた。


「はい、おふたりともお疲れさま。麦茶どうぞ」


「ありがとう〜」


「すごいわね、恭一。大学の研究室にも使ってもらえるなんて」


「まあ、まだ“仮”だよ。テスト配布って感じ」





その日の夕方。

叔父さんから、メールが届いていた。


件名:「これでOK?」

本文には、簡素なあいさつと一緒に、あのとき頼んだID情報がまとめて送られてきた。


(よし、これで準備完了……)


俺はメールの内容をコピペして、ソフト側の認証リストに登録する。

これで、叔父さんの使ってるパソコンでしか起動しない設定が完成だ。


パソコンを起動し、試しにログイン画面を立ち上げてみる。

画面中央に、シンプルなパスワード入力欄が表示される。


(表向きのソフトのパスワードは……「1209」)


自分の誕生日だ。

完全な自己満だけど、まあ愛嬌ってやつだ。

叔父さんにも「これで入ってくださいね〜」と伝えやすい。


でも、それはただの“入口”。


「1209」を入力してログインすれば、それっぽいユーザーインターフェースが立ち上がる。

見た目はきれいで、使いやすく、安心感もある。


でも――中の仕組みは完全に封印されている。

見た目は使えても、プログラムの中身は誰にも触れられないようにしている。


このソフトを守るために、もうひとつ別のソフトを作った。

つまり、ふたつをセットにすることで、初めて動く仕組みにしたんだ。


ひとつは、《Verdandy KK》仮名:ソフトA

自然な文章を自動で作ってくれる、いわば本体のAIツール。


もうひとつが、仮の名前で 《ソフトB》。

これは暗号生成ソフトで、Verdandy KKを動かすためのカギを作るソフトだ。

ChatGPTの未来の暗号で作った。


例えばこのソフトに「abc」と打って、鍵生成を要求すると、「KDoq0FSJN2PENrbupmjsX5ezma1ag00gvfWWSHElHVw」 というのが生成される。


そしてそのカギを作るために俺がソフトBに入力するのが――「13TD0021PL05」


ただの意味不明な文字列に見えるけど、これは前世で俺が会社員だった頃の社員番号だ。

今では使い道もない番号だけど、毎朝これでログインしていたせいか、体が勝手に覚えている。



「13TD0021PL05」をソフトBに打ち込むと――

「17ef89c87e3599ec85e32a9c4ccfbb2cfceee780869733680e214b5b608afaa1」

という、64桁のやたら長くて複雑なパスワードが生成される。


これが、Verdandy KKの真のカギ。

この64文字のパスワードをコピペすることで、初めて本当の中身にアクセスできる。


当然、こんな鍵を総当たりで解析しようものなら、何十憶年かかるってもんだ。



一応俺が考えたことは、ノートにまとめて書いている。

我ながら最強だな。

挿絵(By みてみん)


さらに――

この64桁のパスワードは、Verdandy KKのロック解除と同時に、XChaCha20による暗号化の鍵にもなっている 。


もちろん、この鍵を知らなければVerdandy KKの内側は絶対に開かない。

このファイルのコードを見ようとしても、誰も見られない。

こうして、完璧な“譲渡バージョン”が完成した。


それに加えて“起動制限”にも転用した。

たとえば、ソフトの起動時にももう一度Argon2を使ってパスワードチェックをかけて、1秒に1回しか試せないようにする。

これなら、総当たりも不可能に近くなる。


明日、叔父さんにはメールでこう伝えるつもりだ。

登録完了しました。

このソフトは、そちらのパソコンでしか動きません。


この安心感。

誰がコピーしても、誰が覗こうとしても――“無理”。


(いやー……セキュリティって、やればやるほど楽しくなってくるな)


この感じがたまらない。

まるで、“俺だけが出入りを許された砦”を築いてるみたいな気分だ。


叔父さんは来週また来る予定だったけど、こっちも色々予定があるし――

今回は書留で郵送しておくことにした。


USBは、新しく買った128MBのやつ。

中学生の小遣いにはちょっと高かったが、用途が用途だけに、惜しくはない。


デスクトップに配置してあったファイル群を、まとめてUSBにコピー。

ついでに、簡単な「使い方メモ.txt」も添えておく。



「さて……っと」


封筒にUSBを包み、プチプチで二重にしてガッチリ保護。

念のため、表紙には「取扱注意」「精密機器」と赤字で書き添える。


「これが、中学生が作った最強ソフトですよーっと」


にやけながら、封を閉じた。



 * * *



その日の夜。

やるべき作業は全部終えて、麦茶片手にソファに沈み込みながら、俺は深くため息をついた。


(……澪と最近勉強してないな)

(もう一回くらい、ちゃんと一緒にどっか行きたいな)


そして思い出す。


遊園地。

この夏、結局行けなかった。AIソフト開発やら納品やら、いろいろあったけど……気づけば、季節はもう秋の入口だ。


(よし、誘おう)


そう決めたはいいものの――


「……え、なにこれ、めっちゃ緊張するんだけど」



件名すら打てない。

メールって、こんなに難易度高かったっけ?


「こういう時のための、おまえだろ……」


俺は、ChatGPTを起動した。


入力:

“女子を遊園地に自然に誘いたい。メールの文章考えて。あまり気持ち悪くならないように。”


【出力例①】

件名:最近どう?

本文:やっほー、元気? 突然だけど、近くの遊園地に行かない? 最近できたアトラクションがすごく面白いらしいんだ~! もちろん勉強の息抜きってことで!


「……うさんくさい大学生のLINEかよ」


【出力例②】

件名:ちょっとだけお誘い

澪さんへ

こんばんは!

最近あまり一緒に勉強できてないし、よければ今度、遊園地でも行かない?

気分転換にもなるかなと。

もちろん、チュロスは奢ります(←ここ強調)

ご都合よければ、また教えてください!


「うん、これがいいかもな……」


【出力例③】

件名:おしらせ

本文:どうも。遊園地、行かない? チュロス買ってやる。




もういい。

俺の中で一番マシな【例②】をベースに、改造してみた。




件名:ちょっとだけお誘い

澪さんへ

こんばんは!

最近あまり一緒に勉強できてないし、よければ今度、遊園地でも行かない?

気分転換にもなるかなと。

もちろん、チュロスは奢ります(←ここ強調)

ご都合よければ、また教えてください!

葛城より



送信ボタンを押す手が、震えていた。

“チュロス”の単語に全責任を押しつけながら、天井を見上げていると、5分後――返信がきた。


件名:Re: ちょっとだけお誘い

To:

え!? いま、まさかのお誘いメール!?

なんか文面がやたら丁寧だったから、焦ったんだけど笑

てか、なんで澪さん??

でも、うれしい。行く! 行きたい!

チュロス奢りはちゃんと記録しておくからね!

やったー!!

澪より



俺はひとり、キーボードに突っ伏した。


(……ありがとうChatGPT)


この瞬間だけは、全力で感謝を伝えたくなった。





補足

・ソフトBは Verdandy KKの暗号生成のみに使われるソフト

・Verdandy KK を開くときののパスワード「1209」

・ソフトのコードなどを見るときのパスワード - 64桁の文字列

・64桁のパスワードの出力方法:Argon2の鍵導出関数が使われているソフトBで「13TD0021PL05」と入力して生成されたもの

・「13TD0021PL05」は前世の社員番号なので、誰にも思い当たらない(13は2013年入社の意味)

次回以降は専門用語はあまり出てこないのでご安心ください。

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判断能力主人公持ってるように見えてるけど実際はチャットGTPへの依存では?
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