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59話  売らない。でも使わせる

日曜日の昼前。

チャイムの音が鳴って、母さんが玄関へと出ていった。


再び訪れた、あの“研究者の叔父”。

今回はただの雑談じゃない。俺が作った未来AIの、その“使い方”を決める日だった。


「はーい、いらっしゃい。1週間ぶりね〜!」


その声の感じで、誰が来たのかすぐ分かった。


「おじゃまします」


玄関から聞こえてきたのは、少し軽めの、でもどこか気のいい感じの男の声。

母さんの弟――つまり、俺の叔父さんだ。


前に来てくれたときから、まだ5日くらい。


「お、きょういち〜。来たぞ」


「うん、いらっしゃい」


俺はパソコン前からひょこっと立ち上がって、軽く会釈する。


「例のソフト、見せてくれるんだろ?」


「うん。あれからだいぶ強化したから……びっくりしないでよね」


ちょっとだけ自信ありげに言って、PCを持ってくる。

そのまま、叔父の前でノートPCを立ち上げ、

例の“未来すぎるけどバレないように加工済み”のソフトを起動する。


そして、前回と同じように簡単に触る。


「いや、これはすごいわ……本当に。これを……売るのか?」


そう言って、叔父が俺の顔をじっと見る。


俺は一瞬、口元にニヤッと笑みを浮かべた。


「売らないよ」


一瞬、叔父さんの顔がぽかんとした。


「……代わりに“使わせる”って形でいく。サブスクだよ、サブスク」


「……え、サブスクって……あ、subscription ……!!あれか。定額サービス?」


「そうそう。新聞とかジムとかのやつ」


「おおっ……よく思いついたな」


「だってさ、売り切りってリスクあるじゃん。一度渡したら、どこでどう使われるか分かんないし、転売とかされたら最悪でしょ?」


「うん、それはまあ、そうだな」


「でもサブスクなら、IDで管理できるし、毎月使える人だけアクセスできる。変な人に使わせない仕組みも作れるし、アップデートもできる」


「……おまえ、天才か?」


「いや、“ちょっと考えただけ”」


そう言って、俺はにやりと笑った。


「……で、価格だけどさ」


俺は画面を眺めながら、さらっと言った。


「月5000円にしようと思ってるけど、どうかな?」


「月5000か……いや、それ安すぎるんじゃないか?」



「え、もっと高く?」

月1万ってのも考えたけど、さすがにやりすぎかなと思ってたんだけど……


「このままだと、他のサービス全部潰れるぞ。むしろ、もっと強気でいけ」


……いや、そんな大げさな。

でも、確かにそれにも一理ある。


「正直、この機能性で月10万でも、破格だと思う」


10まん??


「いや……さすがにそれは、ぼったくりじゃ……」

「恭一、お前はまだ気づいてないかもしれないが、これはただの文章ソフトじゃない。

ライティング、要約、プログラミング、キャッチコピー、説明文……なんでも書ける。

プロの編集者やコピーライターの“代わり”になるんだぞ」


「まあ……そうかもしれんけどさ……」

「企業が一人雇うより安く済むし、何よりミスしない。疲れない。文句も言わない。文体も選べる。

むしろ、もう社員より優秀と言っていい」


うーん……言ってることは間違ってない。

でも、2025年に月数千円で使ってた身としては、感覚がついていかない。


「コピー防止とか、そこら辺の対策はできるのか?」


「うん、それは考えてるよ。売り切りじゃないサブスクにすることで、ちゃんとユーザーの管理もできる。怪しいやつを排除できるし、アップデートも随時対応できる。使える人は絞る。だから、本当に必要としてる人だけに提供したいの」


「よし、なら最低月10万にしよう……」


「ほ、ホントに10万?」


10万か……協力してくれる叔父が言うんだし、値段は決定かな。

だったら俺自身も、提供の仕方をちゃんと考えなきゃいけない。

そんなことを思いながら、俺はふと画面を指差した。


「ま、でもね。叔父さんには無料で使わせるから」


「えっ?」


「身内に金取るのもなんかアレだし。それに、叔父さん、研究者でしょ?これ使って論文でも書いたり、講演会とかで事例紹介したら――」


「……めっちゃ人気出るかもって?」


「そうそう! “中学生の甥からもらった文章生成ソフト”って話題性もバッチリ!」


「いや、“開発者はうちの甥っ子です”ってのは伏せるけどな」


「いや、そこは……むしろアピールしてもいいんじゃ……」


「お前、いま中学生ってことを忘れるなよ」


「ぐっ……仕方ないか」


俺は悔しそうに唸った。

そう、これは“未来AIを操る中学生”っていう、説明不能すぎる存在。


でもまあ、話題にはなるよな……きっと。


「で、学会で興味持った人がいたら、どうする?導入したいって言われるかもだぞ」


「おおっ!1台でも契約できたらいいね」


「……ただな、俺から月10万って言っといてなんだけど、大学関係って、意外と予算ないぞ。特に文系なんて、パソコン自体が骨董品みたいな研究室もある」


「うーん、なるほど……」


たしかに、今まで自分のサイト運営しかしてこなかったから、“買う側”の事情なんて考えたこともなかった。


「でもさ、月10万にホントにするとして、2本でも契約できたら20万じゃん?」


「それはまあ、そうだが」


「100人中98人に断られても、2人が買えばそれでいいんだよ。むしろ、誰にでも売る気はないし」


「ははっそれもそうか。小遣いにしては十分だもんな」


「でしょー?」


「姉さんのことだから小遣いは少ないだろうし」


「なにーなんか言った??」


キッチンから、ちょっと低めの声が飛んでくる。


「い、いや……」


叔父さんでも、やっぱり姉である母さんは逆らえないらしい。

俺は笑いをこらえながら、こっそり親指を立てた。


(でも、月10万って誰が払うんだ……?)

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