5話 ウェブサイト作り
翌朝、目が覚めると、なぜかワクワクしていた。
春の日差しがカーテンの隙間から差し込む中、俺はベッドの上でぼんやりと昨日のことを思い返す。
澪と一緒に宿題をして、久しぶりに笑って、ちょっとドキッとして――。
けどそれ以上に、今の俺を高ぶらせてるのは、“レシピサイト”のことだった。
「よし……今日、作ってみるか」
そう決めて、パソコンの前に座る。
目の前には、いつものデスクトップ。
だけど、ここに搭載されているのは――未来の知識を詰め込んだ、ChatGPTという最強のツールだ。
まずは、ここからだ。
>個人で簡単なレシピサイトを作りたい。HTMLとCSSで、中学生でもできるやり方を教えてください。
【ChatGPT】
「了解しました。以下は、シンプルなレシピサイトを作る手順です。
① index.htmlというファイルを作成し……」
「……ほんとに、先生いらずだな」
指示通り、メモ帳でファイルを作って、ざっとコードを打ち込む。
ブラウザで開いてみると――白地に黒文字の、超シンプルなレシピページが出現した。
「うお……ちゃんとサイトになってる!」
地味だけど、それだけでテンションが上がる。
思ったより簡単に、形になった。
次に、ChatGPTに質問を投げる。
>今の時代(2005年)に需要があるレシピサイトってどんなの?
【ChatGPT】
「2005年現在、日本の家庭では「時短・節約・家庭的な味」を重視した料理が求められる傾向にあります。出版されている料理本の多くは、フランス料理やイタリアン、料亭風などの本格志向が強く、
一方で、一般家庭向けの“日常の献立”を簡潔に紹介した情報はまだ不足し……」
「なるほど……そういうことか」
思い返してみれば、たしかに昔の料理本って、やたらとカタカナの料理名が多かった気がする。
“ブイヤベース”とか“ポトフ”とか“パテ”とか――正直、誰が作るんだよって感じのやつ。
だけど、俺が作りたいのはそういうのじゃない。
冷蔵庫にあるもので、サッと作れて、ちゃんと美味しい。
しかも手順がシンプルで、3行くらいで済むやつ。
それを毎日、コツコツとアップしていくサイト――それが、俺の理想だった。
>じゃあ、冷蔵庫にあるものを入力したら、それで作れるレシピを提案するっていう構成はどう?
【ChatGPT】
「それは非常に良いアイデアです。材料ベースの検索は、料理初心者にとって特に便利です。
トップページに「材料リストから探す」リンクを設け、たとえば「鶏肉」「じゃがいも」「卵」などのカテゴリをクリックすると、その材料を使ったレシピが表示され……
「よっしゃ、これならいけるかも !!」
俺はノートを開いて、構成を書き始めた。
サイト名(仮):「毎日ごはんレシピ 」
トップページ: 挨拶文+材料リンク集
サブページ: 鶏肉・豚肉・野菜などのカテゴリ別レシピ
フォーマット:
・タイトル
・材料(3〜5個)
・手順(3ステップ以内)
・ひとことアドバイス(ChatGPTのアイデア)
ページ構成だけでも、かなり形になってきた。
なんか、もう俺――すでに“管理人”名乗っていい気がする。
>じゃあ、レシピの中身を出して。
>例:鶏むね肉、玉ねぎ、マヨネーズで作れる1品を、300文字以内で。
【ChatGPT】
「●鶏むね肉のマヨネーズ炒め
材料:鶏むね肉1枚、玉ねぎ1個、マヨネーズ大さじ2、醤油小さじ1
作り方:1. 鶏肉は薄くスライスし……」
「……もう、ChatGPTに給料払いたいレベル」
材料も手順もシンプルで、しかも“コクうま&時短”っていう一言までついてる。
これをベースに、Wordで見やすく整えて画像っぽく保存したら、1ページ1レシピのサイトができるじゃん。
テンプレートさえ作ってしまえば、あとはChatGPTに「毎日3品」と言えばいい。
しかも手元にある材料だけでも、かなりの組み合わせが出せるはずだ。
「やば……これ、マジで続ければ人気出るかも……」
中学生が個人でやってるサイト、しかも主婦に刺さるレシピが並んでるってなれば――
下手すれば、どっかのブログ経由でバズる未来すらある。
「ちょっと本腰入れて、毎日更新してみるか……」
ノートに“更新目標:1日3レシピ”と書きながら、
俺はもう“運営者の顔”になっていた。
気づけば、レシピサイトづくりが、俺の中で“遊び”から“実験”へ、
そして“仕事”のような感覚に変わっていた。
トップページ、完成。
カテゴリページ、完成。
レシピページ、見本として3つ――これもOK。
「……なんか、めちゃくちゃそれっぽくなってきた」
俺は画面を見ながら、ひとりでニヤけていた。
ChatGPTの言うとおりに構成を組んでいくだけで、どんどん形になっていく。
HTMLはまだぎこちないけど、コピペしながら少しずつカスタムすれば、十分それらしく見える。
「これ、意外とセンス要るな……楽しいけど」
思わず、趣味の領域に入りかけている自分に気づく。
でも、やるならちゃんとやりたい。
だってこれは、“ただの遊び”じゃない。未来の技術でこっそり稼ぐ実験でもあるのだ。
と、そこでふと思い出す。
「……これって、広告とかつけたら、収益化できるんだよな?」
ちょっと現金な発想かもしれないけど、そう思ってしまうのは仕方がない。
サイトを作ったら、アクセスがあって、そこに広告が出て……で、お金が発生する。
「中学生でも、そういうのってできるのかな」
すぐさま、ChatGPTに質問する。
>無料で使えるサーバーを使って、個人サイトを開設して、広告をつけることは可能ですか? 2005年時点でも。
【ChatGPT】
「はい、2005年時点でも無料で利用できる……
広告収益については、Google AdSenseが2003年より開始されていますが、個人利用には審査があります。また、中学生名義での銀行口座開設や契約は難しいため、保護者の協力が必要になるでしょう」
「……そうか、そう簡単にはいかないか」
広告収入自体は可能でも、俺が中学生ってところがネックになる。
まあでも、今すぐ儲けようってわけじゃない。
まずは作って、アクセスを集めて、“育てて”いくことが先。
そういう意味では、無料サーバーから始めるのが一番無難だろう。
>初心者でも使いやすい無料サーバーはどこですか? あと、使い方も教えて。
【ChatGPT】
「初心者なら「FC2ホームページ」や「Yahoo!ジオシティーズ」がおすすめです」
「FC2か……懐かしいな」
すぐに検索して、無料アカウントを作成。
仮のアドレスは「httжжs://recipefan.fc2web.cжm」。まあ、テスト用にはこれで十分だろ。
サイトを見るのは、当然パソコンから。
スマホ? あるわけない。ガラケー全盛だ。
「だったら、PC向けにガチで見やすく作んないとな……」
文字を大きくして、ページは一列で表示されるレイアウト 、色使いも柔らかめ。
リンクをホバーしたときに色が変わる小細工も仕込んで、ちょっとだけオシャレ感を出す。
最初は、「ファイルってどこに置くんだっけ?」「タグってこれでいいの?」みたいに、いちいちChatGPTに聞きながら悪戦苦闘だったけど――
それすら、ちょっとしたゲーム感覚で楽しかった。
「意外と凝り性なんだよな、俺……」
調整しているうちに、どんどん楽しくなってきた。
気づけば、3時間ぶっ通しで画面に張りついてる。
「さて、肝心のコンテンツだな」
まずはサンプル記事を5本くらい並べることにする。
ChatGPTに頼んだ簡単レシピをベースに――
• 鶏むね肉のマヨ炒め
• じゃがいもとツナの煮っころがし
• 玉ねぎと卵のふんわり丼
• ごはんが進む豚こま味噌炒め
• キャベツの即席漬け
「……これ、普通に使えるじゃん」
作り方もシンプル、材料も冷蔵庫にありがち。
昨日の夕飯に採用された鶏もも肉の照り焼きだって、母さん大喜びだったし。
たぶん――
うちみたいに「今日なに作ろう」って悩んでる家庭、全国に山ほどある。
「……だったら、これ、意外と役立つかもな」
最初は“ちょっとズルして小遣い稼ぎ”くらいの気持ちだった。
でも、今は――ほんの少しだけ、“誰かの役に立てたら”って思ってる自分がいる。
「なんか……意識高い系みたいでヤバいな、俺」
苦笑しながら、最後にトップページの一番下に一文を付け足した。
このサイトは、毎日の献立に悩むあなたのために、
簡単・時短・家庭の味にこだわったレシピを紹介しています。
「冷蔵庫にあるもので、さっと1品」――そんな願いを叶えます。
――中学生が書いたにしては、上出来じゃね?
「よし、これでスタートラインには立ったな」
あとは、コツコツ更新あるのみ。
目標は、毎日3レシピ投稿。
やれるだけやってみる。