48話 くだらなさに、本気を出せ
フラッシュゲーム。
それは、くだらなくて、バカバカしくて、
でもなぜか魂を燃やされる何かがあるジャンルだ。
そして、遊んでるうちに思ってしまった。
(これ、自分でも作れるんじゃね……?)
前にChatGPTで翻訳サイトを組んだときと同じ発想だ。
つまり、ChatGPTがあれば、たぶんいける。
理論よりも、直感が先に言っている。
さっそく、パソコンを起動してChatGPTを開く。
今じゃ、俺の“右腕”というか“脳の外部拡張パーツ”というか、そんな存在になっている。
キーボードを叩いて、聞いてみる。
>ChatGPT4oがあれば、フラッシュゲームって作れる?
すぐに返ってきた回答は、ものすごく頼もしかった。
「はい、ActionScript(Flash用のプログラミング言語)を使えば、基本的なゲーム制作は可能です。仕様や構成を教えていただければ、コード例を提供します」
「うわっ、マジか……」
テンションが上がる。
とはいえ、問題はそこじゃない。
何を作るか、だ。
(フラッシュゲームといっても、ジャンルは山ほどあるしな……)
思い返せば、中学のとき――じゃなくて、元いた世界で中学だったころ――
やたらハマってたのが、上から見下ろすタイプの戦車シューティングだった。
「弾、反射するやつ……あと壁をうまく使って敵を倒すやつ……あったなあ……」
操作は十字キーとスペースだけ。
でも、やたら難しくて、ステージ進むと敵が固くて、スピード速くて、理不尽で、
そのたびに「うおおおお」とか叫びながらやってた記憶がある。
あとは、モノポリーっぽいすごろく系。
マップをサイコロで進んで、止まったマスでアイテムを買ったり、
イベントが発生したり、貧乏神に取り憑かれたり……。
「懐かしすぎる……」
一人用だったけど、なんか“対戦してる感”がちゃんとあって、
運と戦略のバランスがちょうどよくて、延々とプレイしてた。
そういや2025年までのスマホゲームを、完全に知っている立場でもある。
つまり、パズドラとかモンストとか、流行るゲームを作ればいいんだ。
「えっと、なんだっけ……」
少しずつ記憶を辿る。
某ブロック崩しをアレンジしたパズルゲーム。
某アクションRPG。某箱庭経営系。
放置ゲー、タップゲー、ガチャゲー。
「ソシャゲ系の進化って、すごかったよな……」
スタミナ制、イベント限定キャラ、ランキング報酬、そして課金。
でもその中で、ヒットするゲームに共通していたのは――
“1プレイが短くて、繰り返せること”だった。
そういえば、Twitterでよく広告が出てきていた。
道路上に次々と現れる敵兵士を倒しながら進むアクションパートと、兵士の強化や合体を行う育成パートが交互に展開されるゲーム。
「これさ、フラッシュでは見かけないよな……」
あのゲーム、やったことはないけど、やたら広告では見かけた。
きっと流行っていたから、広告費もガンガン投下されていたんだろう。
(じゃあ、これをフラッシュでやってみたら、逆に新しいんじゃ……?)
フラッシュって、本来は“限られた容量と機能でどこまで遊ばせるか”っていう勝負の世界だった。
そこに、ソシャゲみたいな“強化”や“育成”をぶち込んでみたら――今までにない何かができるかもしれない。
思考が加速していく。
フラッシュゲームといえば、基本は単発ミニゲームが多い。
クリアして終わり、ゲームオーバーでリセット。
でも“育成”や“周回”という要素を入れたらどうだろう?
「……うん、アリだな」
俺はノートを取り出して、思いついたことをメモしていく。
【仮タイトル】
『進め!タンクくん(仮)』
【ジャンル】
サイドスクロール戦車バトル × 合体育成シミュレーション
【構成】
●ステージパート(アクション)
• 自動で前進する戦車が、道中で出てくる敵を砲撃で倒す
• マウスクリック or キーボードで攻撃タイミングを操作
• 敵を倒すと素材ゲット(鉄くず・エネルギー・謎の部品 など)
●拠点パート(育成)
• 素材を消費してパーツを強化(砲塔・キャタピラ・エンジン)
• パーツを組み替えて、火力型・スピード型など戦術の幅を出す
• 一定以上の強化で「合体」機能解放 → 巨大戦車化!
【特徴】
• 操作は単純、でもハマる
• プレイ時間1〜2分、繰り返しが楽しい
• フラッシュなのに、変に“壮大っぽい”
「バカバカしい。でも、こういうのがウケるんだよな」
ゲーム名は本当は 『Lord of War』とか2005年らしくしたかったがわざと少しダサいネーミングにしておくのもポイントだ。
『タンクくん』とか、いかにも小学生男子が好きそうなネーミング。
フラッシュゲームならこのレベルのネーミングがちょうどいい。
「で、たまに変な敵キャラとか入れて、ネタ要素も忘れずに……」
たとえば、突然出てくる“うるさい上司風の敵戦車”とか。
セリフが「やる気はあるのかね?」とか「休日出勤だよ!」とか言ってくる。
それを粉砕する爽快感。プレイヤーの心を掴め。
「そして謎の合体演出……爆発しすぎるほどの演出……!」
妄想が止まらない。
「これさ、ChatGPTに“設計”お願いしてみるか」
前にニュースサイトを作ったときも、レシピサイトのシステム構成も、
最初は俺が方向性を決めて、構成をChatGPTに投げたら、だいたい形になって返ってきた。
「……まずは、最低限の“流れ”だけ伝えるか」
メモを片手に、ChatGPTの画面を開く。
キーボードのホームポジションに手を置きながら、少しだけ深呼吸。
>敵を倒しながら自動で進む戦車のゲームをフラッシュで作りたい。
敵を倒すと素材を入手し……
ChatGPTにゲームのアイデアをざっくり伝えてEnterキーを押すと、すぐに返事がきた。
「できますよ。戦車を動かして敵を倒すゲーム、作れます。
敵が出てくる仕組みや、素材を集めて強化する部分も作れます。
こういう順番で作るといいですよ:まず動かす → 敵を出す → 攻撃する → 強化画面を作る、って感じです」
「マジか……やっぱすごいな、こいつ」
なんか、ちゃんと“先生”みたいな感じで返してくる。
ただ――
「実際に作るのは、やっぱちょっと大変だな」
何が大変って、ゲームの仕組みをひとつずつ組み立てるのが、とにかく細かい。
「敵が画面の右から出てくるようにして、ぶつかったらダメージ」
「素材を拾ったら、アイテム欄に“鉄くず”って文字を出す」
「強化画面で“エンジン強化!”って出るようにする」
やりたいことは頭にあるけど、それを実際に動かすように作るのは初めてで、うまくいかないことも多かった。
たとえば、敵が出てくるはずが、画面のど真ん中にいきなり集合してギュウギュウ詰めになったり。
自分の戦車が勝手に空を飛んで、どっかに行っちゃったり。
「なんでそうなるの!? 俺、空飛ぶゲームなんて頼んでないぞ!」
でも、そんなときはすぐにChatGPTに聞く。
「敵が変な場所に出てくるんだけど、どうすればいい?」
「戦車が勝手に上に飛んでくんだけど、止めたい!」
するとすぐ、「ここの数字を変えたらいいよ」「動かす範囲を決めておこう」とアドバイスが返ってくる。
「うわ、めっちゃ頼れるじゃん……」
ちょっとずつ修正して、試して、また直して。
まるでブロックを積み重ねるように、ゲームが出来上がっていく。
フリー素材で、効果音もつけてみた。
弾を撃ったときの「ドン!」って音とか、敵を倒したときの「ピコーン!」ってやつとか。
「くだらないけど……なんか楽しいんだよな、これ」
ずっとサイト作りや文章ばっかりやってたから、こういう“動くもの”を作るのは新鮮だった。
しかも、ちゃんと動いてくれると、めちゃくちゃうれしい。
「もうちょっと背景に動きつけたら、それっぽくなるかも」
そんな感じで調子に乗っていったら、あっという間に夕方。
画面を見てみると、戦車に模した四角い箱が動きながら敵を倒して、素材を拾って――
見た目はちょっとダサいけど、ちゃんとゲームになってる。
「……これ、ほんとに俺が作ってるんだよな」
動いてるキャラを見ると、ちょっとだけ不思議な気持ちになる。
マウスで操作できて、音も出て、ボタンを押すと反応する。
「まだまだ途中だけど……いい感じかも」
そろそろ、合体とかレベルアップとか、派手な演出も入れていきたい。
なんか、思ってた以上に夢中になってる自分がいた。
少しだけ手を止めて、画面を見つめる。
(これ、完成したら……みんなに遊んでほしいな)
もちろん、金のためでもランキングのためでもない。
ただ、誰かが笑ってくれたらいいなって、それだけ。
「くだらないけど、つい遊んじゃうゲーム」
それを本気で作るのが、今の俺の“夏休みの自由研究”だった。




