36話 バズりと次の一手
ニュースサイトを立ち上げて、コツコツと更新を続けてきた。
最初の頃は、アクセスもほとんどゼロ。
毎日、空振りしているような感覚だったけど――
それでも、黙々と続けた。
(地道にやるしかない)
そんな思いで、今日もパソコンの前に座って、記事を投稿していた。
その日、俺がアップした記事のタイトル――
【レンタルビデオの終焉】
内容は、こんな感じだ。
• かつて主流だったレンタルビデオ店が、近い将来、全国的に閉店ラッシュを迎える。
• 理由は、ネット配信サービスの普及(ストリーミングで映画を見るなど)
• これからは、DVDを借りる時代じゃなく、ネットで見る時代になっていく――
そんな、わかりやすいまとめ記事だった。
正直、軽い気持ちで書いた。
(まあ、現代だったら誰でも知ってるような話だし、そんなに反応はないだろうな)
そう思って、軽く投稿ボタンを押した。
* * *
数時間後。
サイトの管理ページを見た俺は――
目を疑った。
(……アクセス数、跳ね上がってる!?)
いつもなら数十件いけばいい方なのに、たった数時間で、1000件を超えていた。
(な、なんで!?)
慌ててリファラ(流入元)を確認すると、いくつかの掲示板やまとめサイトで、俺の記事が取り上げられていた。
しかも、けっこうな議論になっている。
「100年後の話か」
「電波受信してんのか?うちADSLだけど、映画1本ダウンロードに何時間かかると思ってんだよwww 」
「10年後は無理だと思うんだが…いやなるのか??」
「今のネット回線じゃ無理。ストリーミングとか都市伝説。記者はおとなしくTSUTAYA行け 」
「P2Pで落とす奴ならともかく、合法でネットで映画見る時代とか夢見すぎ 」
賛成意見もあれば、反対意見もあった。
(……マジか)
ちょっとしたつもりの記事が、思った以上に、人の感情を揺さぶったらしい。
パソコンの前で、俺はしみじみ思った。
(そうだよな……)
今の世の中、動画を見るならネットが主流だ。
Netflix。
Amazonプライム。
U-NEXT。
Hulu。
月額1000円くらいで、映画もドラマもアニメも見放題。
わざわざ店に行って、DVDを借りて、返し忘れて延滞料金取られる――
そんな時代じゃなくなった。
(変わったんだな、世の中)
もちろん、全部が全部いいことばかりじゃない。
だけど、
便利になったのは、間違いない。
それを改めて実感した。
(さて――次はどうするか)
アクセスが集まっているうちに、次の記事もアップしておきたい。
せっかくなら、自分のサイトも紹介してしまおう。
今までは「自分の商売を表に出すのはちょっと……」と控えていたけど、このタイミングなら、自然に見せられる気がする。
俺は、チャット画面を開いて、次の記事を書き始めた。
【タイトル】
「ネットで簡単に! 文章代行・翻訳サービスまとめ」
【本文】
• 今はネットで簡単に、文章作成や翻訳を依頼できる時代です。
• 学校の作文課題、英語の翻訳、ビジネス文書――
• そんなとき、便利に使えるサービスを紹介します!
そして、さりげなく。
【おすすめサービス】
・翻訳代行サイト(日本語⇔英語、短文~長文OK)
・文章代行サイト(学校の作文、スピーチ原稿、ビジネス文書対応)
「こういうのって、一応“PR”って書いとかなきゃダメなんだよな……」
一応『この記事はかんたん翻訳屋の提供でお送りします』って、それっぽく末尾にねじ込んだ。
(よし、自然な流れで宣伝できた)
俺は、記事を投稿ボタンにセットして、深く息を吐いた。
* * *
それに加えて、翻訳サイトももう一段階、グレードアップすることにした。
今までは、「日本語 ⇔ 英語」の翻訳だけを扱っていた。
これは需要が一番多くて、教育用のレポートやメールの下書き、簡単な会話文の注文が入りやすかったからだ。
だけど、ふと気づいた。
ChatGPTって、別に英語専用の翻訳ツールじゃない。
むしろ逆で、世界中のほとんどの言語に対応できる万能型AIだった。
日本語から英語だけじゃなく、英語からフランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、イタリア語――
極端な話、アラビア語やヒンディー語だって翻訳できる。
つまり、「翻訳できる言語が多い」ってことは、そのまま「提供できるサービスの幅が広がる」ってことだ。
それなのに、今のサイトは「英語のみ対応」って……正直、もったいない。
せっかく色んな武器があるのに、一本だけ抜いて戦ってるようなものだ。
なら、やることは一つ。
――多言語対応にする。それも、一気に。
英語に加えて、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語。
このあたりなら、グローバルな需要も高いし、問い合わせが来ても全然おかしくない。
特にスペイン語とフランス語は教育現場でも使われるし、ドイツ語やロシア語はビジネス系の翻訳にも需要がある。
もちろん、全部自分で翻訳できるわけがない。
でも、やるのは俺じゃない――ChatGPTだ。
サイトの入力フォームに「スペイン語」や「フランス語」への翻訳タブを追加するだけ。
あとは依頼が来たら、ChatGPTに投げれば、いつもの13時間後には、ちゃんと翻訳結果が戻ってくる。
超簡単。
これで、サービスの幅は一気に広がる。
やるべきことも、やる労力も、ほぼ変わらないままで。
つまり、やることは今までとほとんど変わらない。労力はほぼ“ゼロ”のまま。
それなのに、提供するサービスだけは――
「英語翻訳業者」から「多言語対応の翻訳事務所」へと、一気に格上げできるわけだ。
この違いは、正直デカい。いや、圧倒的だ。
具体的な作業は簡単。
サイトの言語選択をプルダウン式にして、もともとあった翻訳依頼ページをコピーして、
それぞれの言語版に説明文をちょっと整えるだけ。
翻訳する文案も、ChatGPTに頼めばすぐ出てくる。
だから、時間も手間もほとんどかからない。
こうして、“日本語⇔英語”だった翻訳サイトは――
“日本語⇔世界5か国語対応”の、見た目も中身もワンランク上のサービスへと進化し始めた。
ただし、ひとつ決めたことがある。
日本語⇔フランス語、みたいな単純なペアは追加するけど、英語⇔フランス語みたいな、海外同士だけで完結する翻訳依頼まではやらないことにした。
なぜなら、もし海外から直接アクセスされるようになると、変なウイルスを仕込んできたり、トラブルに巻き込まれるリスクもあるからだ。
ビジネス拡大も大事だけど、安全第一、慎重に。
これが、俺の基本スタンスだ。
パソコンの画面をスクロールしていると、ふと目に止まった。
(……お、俺のサイトのスレがある)
思わずマウスを止め、クリックして開いてみる。
画面には、見慣れないハンドルネームたちが飛ばす書き込みの数々。
「ちょっと依頼してみたくなったわwww」
「このサイト使ってみたけど、結構いいぞ」
「なんでこんな安いんだ? 外語大の学生サークルがやってんのか?」
「運営どこがやってるか書いてねぇんだよな」
「安すぎて逆に怖いんだけど。変なとこでミスっても文句言えない料金設定だよなw」
「大学のレポート出たときに使うかも」
――思ったより、悪くない反応だ。
読み進めながら、俺はほっと胸をなでおろした。
不安だった。
正直、もっとボロクソに叩かれるかと思ってた。
でも、意外と好意的なコメントが多い。
(……よかった。ちゃんと伝わってるんだな)
自然と、口元が緩む。
(もっと依頼が増えるといいな)
感想を見ていると誤解されている方もいらっしゃるようなので、念のための補足です
ChatGPTの無料版ではインターネット検索機能はありませんが、有料版では検索機能が2023年9月から実装されています




