34話 ニュースサイト、始動
7月。
セミの声が、本格的にうるさくなり始めた。
(よし――そろそろ始めるか)
俺は、パソコンの電源を入れる。
頭の中で温めてきた新しい計画。
それを、今日から動かす。
ニュースサイト。
レシピサイトも、翻訳サイトも、そこそこ軌道に乗ってきた。
でも、次は――
もっと「日常的にアクセスされるサイト」を作りたかった。
(やっぱり、ニュースが強いよな)
毎日、誰かが自然に見に来る。
「今日何があった?」って、知りたくなるのがニュースだ。
もちろん、自分で記事を書くのは無理だ。
ニュースの取材なんかできるわけないし、政治や経済の専門的な知識もない。
でも――
俺にはChatGPTがある。
しかも、俺が使っているこのChatGPTには、過去のニュースデータがたっぷり入っている。
だから、細かく指示を出さなくても、「今日のニュースまとめて」って頼めば、自然にニュース記事を生成してくれる。
(これ、マジで最強じゃね?)
未来の技術ってやっぱすげえなと、改めて感心する。
俺は、さっそく画面に向かって指示を出した。
【日本国内の今日の主要ニュースを、高校生にもわかるようにまとめてください。500字以内で。】
数秒後。
びっしりとまとまった、分かりやすい記事が表示された。
例えば――
【2005年7月7日】
国際オリンピック委員会(IOC)は、2012年夏季オリンピックの開催地をロンドンに決定したと発表した。ロンドンはパリやマドリードなどの有力候補を抑え、近代五輪史上初の3度目の……
(すげえ……)
たった一言頼んだだけで、まるでニュース番組のアナウンサーが読んでるみたいな記事が出てくる。
これなら、俺が何か知識を持ってなくても、毎日ちゃんとニュースサイトを更新できる。
(よし、これでいこう)
サイトのコンセプトも、ざっくり決めた。
題して――
【ざっくりわかる、今日のニュース&コラム】
目指すは、誰でも気軽に読めるニュース&コラムサイト!
難しい専門用語や、読んでて眠くなるような漢字の羅列は禁止。
中学生でも、高齢者でも、犬でも猫でも――
「なんとなくわかった気になれる」くらいの、ゆるい記事を毎日載せていく方針だ。
(よし、方針は完璧だ。問題は中身だ)
まずはニュース。
世の中の出来事を、ChatGPTで軽く要約して、さらに俺が「さらにざっくり」噛み砕いた記事にして投稿する。
例えば――
「アメリカで利上げ決定」→「アメリカがお金貸すときの金利をちょっと上げたらしいぞ!」みたいな。
超ざっくり。
細かいことは知りたきゃ自分で調べてくれ精神。
そしてコラム。
時事ネタに絡めた、「なんかそれっぽいこと言ってるけど、実は内容が薄い」ミニコラムを載せる予定。
例えば、「今後の携帯電話の進化とガラケー」とか、
「音楽は"借りる"ものという楽しみ」
みたいな、なんか意味ありげだけど、よく読んだら「ふーん」で終わる系のやつ。
(……俺、天才じゃね?)
ひとりで自画自賛しながら、パソコンに向かう。
とはいえ。
いきなり記事自動投稿システムなんて作れるわけがない。
(うん、ここは地道に手動コピペだな)
まずChatGPTに「今日の世界のニュースをざっくり教えて」とお願いして、出てきたニュースを、さらに脳内でバキバキに要約し、なんとなくそれっぽいタイトルをつけて、サイトに投稿する。
作業内容:コピー&ペースト。
以上!
でも、意外と俺はこういう単純作業、嫌いじゃない。
「おっしゃー! 今日のニュース1件目、投稿完了!」
「よし! 次、コラムタイトル! ……えーと、『梅雨の湿気と人間関係の相関性』……よし!」
脳内編集部が一人で大盛り上がりだ。
気づけば、パソコンの前でひとり、
「これ、世界変えちゃうかもしれん……!」とか
「未来の教科書に載るわ……!」とか
超痛い独り言をぶつぶつ呟きながら、カタカタとキーボードを叩き続けていた。
ニュースの内容を、できるだけ読みやすくして、1本ずつ投稿していく。
(ふう……とりあえず、初日分はこれで完成)
パソコンを閉じて、背伸びする。
――夜。
パソコンの前に座りながら、俺は大きく息を吐いた。
(とりあえず、ニュースサイトの初動は順調……かな)
まだ誰も見に来てはいないけど、まずは形を作ることが大事だ。
記事は1日3本ペースで投稿する予定。
毎朝、ChatGPTに指示を出して記事を作り、それを手作業でアップする。
むしろ、「積み上げていく感覚」が楽しかった。
* * *
それに、プログラミング教室も順調だった。
今やHTMLとCSSだけじゃなく、簡単なJavaScriptも少しずつ教わり始めている。
例えば、ボタンを押したら画面が切り替わるとか、入力フォームに文字が入ると自動で色が変わるとか――
ちょっとしたギミックでも、自分でコードを書いて、動かせると面白い。
(プログラムって、意外と「自分で作った感」が強くて楽しいんだよな)
しかも、授業内容をニュースサイトにも応用できる。
今は手動で記事を貼り付けてるけど、そのうち、簡単なスクリプトを組んで、自動で記事を投稿できるようにしたい。
やっと自分でプログラミングの基礎を学んでいるからわかる。
これを自動でやるのは結構むずかしい……
(……夏休みになったら、やってみるか)
今は正直、学校から帰ってきて1からやるのは正直だるい。
しかし、夏休みは1か月以上もある。
多少失敗しつつも、(明日やればいいかぁ)のノリでつくれるのが心強い。
今日もレシピ3つ、ニュース3つを投稿したら後は自由時間だ。
(土曜は澪の勉強でも見ようかな……)
* * *
俺は、母さんに頼んで、通帳の記帳をしてもらった。
「……入ってたよ」
通帳を渡されたとき、ほんの少し、手が震えた。
(……さて、いくら入ったか)
ゴクリ、と小さく喉を鳴らして開く。
ぱらりとめくったページに、しっかりと数字が印刷されていた。
25,340円。
(マジか……!)
思わず、目を見開いた。
サイト収入。
レシピ、翻訳、天気、作文、そしてニュース。
全部のサイトから少しずつ、でも確実にお金が積み上がった結果だった。
(……たった1ヶ月で、ここまで)
胸の奥が、じわりと熱くなる。
もちろん、プロのエンジニアとか、大人の起業家に比べたら、鼻で笑われるような額だろう。
でも、俺にとっては――
この25,000円は、自分で掴んだお金で大金に見えた。
「で、これ、どうするの?」
夕飯後、母さんに聞かれた。
「全部使っちゃダメよ」
「わかってるよ」
俺は慌てて手を振った。
あらかじめ、考えていた。
「必要経費ってことで、12,000円だけ使わせて。半分だけ」
「必要経費?」
母さんが眉をひそめる。
「プログラミングの本とか、ニュースサイト用の素材集とか、あとはちょっと友達と遊びに行ったり――」
必死にそれっぽい理由を並べる。
「……ふーん」
母さんは、じっと俺を見たあと、小さく笑った。
「じゃあ、その分だけね。残りは貯金か、プログラミング教室の月謝に回すこと」
「はい!」
思わず、ビシッと背筋を伸ばして答えた。
(よし……成功)
これで、自由に使える12,000円を手に入れた。
あともう一つの目的として、収入の半分は使ってもいいって母さんが認めてくれた。
(実は来月は6万円入るんだよな)
もちろん、無駄遣いするつもりはない。
だけど――
(せっかくだし、少しだけご褒美もいいよな)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【現在の収益】 (7月8日時点)
【7月の収益まとめ】
レシピサイト:2,100円
翻訳サイト:19,000円
天気サイト:250円
文章サイト:2,700円
合計(月収):24,050円
【6月の収益まとめ】
レシピサイト:3,800円
翻訳サイト:54,000円
天気サイト:520円
文章サイト:3,900円
合計(月収):62,220円




