3話 ちょっとズルして、小遣いくらい
「……ってことで、ChatGPTで小遣いくらい稼げないかなって話なんだけどさ」
誰にともなく、独り言のように呟いた。
でも、頭の中はけっこうマジだった。
ChatGPT――未来のAI。
作文もレシピも瞬時に作ってくれる、まさに“人類最強の道具”。
これ、俺が中学生じゃなかったら、すぐ起業とかしたと思う。
けど、今は14歳。バイトも禁止、口座も親名義。
「んー……まあでも、小遣いくらいならいけるんじゃね?」
大それたことをするつもりはない。
別に世界征服とか、億万長者とか、そういうんじゃない。
ちょっとお小遣いが欲しいだけ。
たとえば――ゲーセンで1000円分遊んで、帰りにコンビニでファンタ買って、ちょっと贅沢なお菓子を買うくらいのささやかな幸せ。
その程度なら、ばれずに、こっそり、ズルくなく、ただちょっと“賢く”立ち回るだけで、なんとかなる気がしていた。
「とはいえ……プログラミングとか、全然わかんないんだよな……」
これは事実。俺はプログラミングに触れることないまま、34歳になってしまった。
“JavaScript”って単語を聞くと、「あ、それなんか便利そうなやつだよね」くらいの感覚しかない。
HTMLとCSSの違いも曖昧。WordPressは一応いじったことあるけど、テーマぶっ壊して泣いた記憶しかない。
「でも、ChatGPTに聞けば……もしかして、教えてくれんじゃね?」
試しに、質問してみる。
>中学生でも作れる簡単なホームページを作りたい。HTMLとCSSでどうやるか教えて。
【ChatGPT】
「以下は、最もシンプルな構造のHTMLとCSSです。メモ帳などのテキストエディタに貼り付け、「.html」形式で保存してブラウザで開いてください。そして……」
「うわ、マジで来た」
なぜか今の俺、勉強意欲だけは妙にある。
たぶんChatGPTが全部“すぐに教えてくれる”ってわかってるからだろう。
「でも、ホームページ作ったところで、何を載せるかだよな……」
問題はそこだ。
ChatGPTを使えばコンテンツはいくらでも出せる。
でも、何を作れば“お小遣い”に変わるか?
昔のネットって、情報サイト系が流行ってた気がする。
レシピ、読書感想文、豆知識、怖い話、占い、あと……無料素材とか?
「……あ、読書感想文サイトってどうだ?」
思いつきで言ってみたが、意外とありかもしれない。
中学生、高校生って、絶対に“読書感想文”ってイベントが年に何度かある。
そして、ギリギリになってから「ネットで探すか……」ってなるやつが山ほどいる。
そこに、ChatGPT製の“感想文サンプル”が大量に載ってるサイトがあったら?
「いや、ぜったい需要あるって」
実際、自分も使いたかったもん。
しかもChatGPTなら、「『ごんぎつね』の感想文を400字で」とか、「『走れメロス』を男子中学生が書いた風に」とか、無限に出せる。
>「坊ちゃん」の読書感想文、男子中学生風、500字以内で
【ChatGPT】
「僕は「坊ちゃん」という小説を読んで、坊ちゃんの正義感の強さに共感しました。特に……」
「ほら来たー! 完璧じゃん!」
読みながらニヤニヤしてしまう。中学生っぽい文体、漢字の難易度、文末の“思いました”率、すべてが計算されたかのようにちょうどいい。
「これ、100本くらい作って、サイトに載せるだけで価値あるな」
アクセス数次第では、広告収入も狙える。
……いや、まあそのへんは後で考えよう。
読書感想文サイトも、たしかに悪くない。
でも、ふと別のアイデアが浮かんできた。
「……レシピ、ってどうだ?」
さっき試しに鶏むね肉とじゃがいもでレシピを聞いたとき、あまりにも自然に一品出してきたChatGPTを見て、思った。
これって、もしかして――
感想文より実用的だし、検索ニーズも高いし、何より“母親ウケ”がいい。
「料理に困ってる人って、相当いるよな……」
母さんだって、毎日「今日なに作ろうかな」って呟いてた気がする。
しかもこの時代のレシピサイトって、たぶん数は少ない。
クックパッドはあったかもしれないけど、あれって2004年開始だからまだ有名じゃないし、スマホもない時代、PCでレシピを見る人も限られてる。
実際に「鶏肉 レシピ」とかで検索してみた。
IEの検索バーにローマ字で「TORINIKU RESHIPI」と打ち込むあたり、2005年感がすごい。
出てきたページをいくつか見てみる。……が。
「……広告多すぎ。レイアウトぐちゃぐちゃ。説明長すぎ」
トップに無駄に長い“料理との出会いストーリー”とか書いてあって、肝心の材料と作り方がスクロールの果てにある。しかも、画像もなんか粗いし。
「だめだこりゃ。見にくい」
その点、ChatGPTのレシピはシンプルだった。
材料 → 作り方 → コツ。
構成が明快で、読みやすく、実行しやすい。
しかも、指定すればアレルギー対応とか子ども向けとか、応用も利く。
「これ……サイト化すれば、めっちゃ便利なんじゃね?」
たとえば――
・1ページ1レシピ
・材料と手順だけ
・“一言ポイント”付きで親しみやすく
・印刷しやすいシンプルレイアウト
それだけで、誰でも使いたくなる気がする。
「1日3レシピ生成して、30日で90レシピ……それって、もう立派なサイトじゃね?」
想像するだけでニヤける。
自分が“コンテンツ資産”を作ってるという感覚が新鮮だった。
そんなことを考えながら階段を降り、キッチンを覗いた。
母さんは冷蔵庫を開けて、何かを探している。
「母さん、今日の夕飯ってなに?」
「んー、まだ決めてないのよ。冷蔵庫見てから考えようかなって思ってたとこ」
「ふーん。鶏肉あるでしょ?」
「あるわよ。昨日の特売で買ったやつ、まだ残ってる」
「じゃあさ、俺がレシピ考えてあげようか?」
「……は?」
あきらかに怪しい目で見られた。
「なに? 家庭科の宿題でもあったの?」
「いや、まあちょっとさ、最近そういうの興味あってさ」
「へぇ~。じゃあ、お願いしようかしら。手間かからないやつで」
「任せて」
ニヤッと笑いながら、自室へ戻る。
>鶏もも肉を使った、時短で美味しい夕飯レシピを教えて。主婦向け。
>材料と作り方だけ、300文字以内。
【ChatGPT】
「●鶏もも肉の照り焼き
材料:鶏もも肉1枚、醤油・みりん・酒 各大さじ2、砂糖 小さじ1
作り方:1. 鶏肉はフォークで穴をあけ、調味料と一緒に5分漬ける。2. フライパンで……」
「完璧」
さっそく紙にメモって、キッチンへ戻る。
「これ。照り焼き。鶏もも肉で簡単に作れるって」
「え、あんたが考えたの?」
「……まあ、ネット見ながらだけど」
母さんはレシピを見て、「へぇー」と感心したように頷いた。
「……確かに簡単ね。じゃあ今日はそれにしよっか」
「やった」
自分のアイデア(正確にはAIだけど)が家庭のメニューに採用されるなんて、ちょっと嬉しい。
いや、普通にテンション上がる。
これが積み重なれば、いつか「レシピサイト」って形になるかもしれない。
母さんたち主婦が使いやすい、シンプルで実用的なサイト。
それが“中学生が作ってる”ってバレたら逆に話題になったりして。
「名前どうしようかな……“うちごはんメモ”とか、“5分で作れる献立”とか……」
そんな妄想をしながら、俺はChatGPTに次のレシピを依頼していた。
>じゃがいもとツナ缶で、あと1品作れるおかずは?
「ふふ……やべぇ、止まんねぇ……!」
気づけば、俺の中で何かが動き出していた。
ChatGPTという最強の“裏技”を手に入れた今、ちょっと役立つサイトを作って、誰にもバレない程度に、こっそり小遣いを稼ぐ――
そんな軽い気持ちから始まった、俺の“AI副業ライフ”は、静かに始まった。




