28話 今の実力
プログラミング教室の月謝を支払う前に――
俺は一度、
今動かしているサイトたちの状況を整理しておくことにした。
プログラミング教室の月謝を払うなら、これから稼ぎ続けないといけない。
パソコンを開き、
それぞれのサイトの管理画面にログインする。
最初は――天気予報サイト。
【天気予報サイト・アクセス解析】
こっちは、レシピサイトほど派手じゃないが、
地味に伸び続けている。
毎日400ビュー前後。
(こっちも悪くないな)
閲覧数は極端に変化なく、地味に伸び続けている。
(天気予報って、みんなやっぱり必要なんだな……)
派手さはないけど、
社会に役立ってる感じがして、少し嬉しかった。
そして次は――翻訳サイト。
【翻訳サイト・収益管理】
このサイトは――正直、すごい。
ここ1週間で、だいたい1万円から2万円の売り上げがある。
特に最近、大口の依頼が入り始めた。
「ビジネスメールをまとめて30通、英訳してほしい」とか、
「学術論文の要旨だけ日本語に訳してくれ」とか。
1件で3,000円、5,000円入る案件もあり、一気に収益が跳ね上がった。
(こっちは、今一番の稼ぎ頭だな)
正直、需要が多いし、単価を上げてもいいくらいかもしれない。
(……まあ、今はまだ様子見だな)
調子に乗りすぎるとロクなことにならない。
ここは冷静に、慎重に。
三つ目に――文章代行サイト。
【文章代行サイト・依頼管理】
これが、正直、まだ伸び悩んでいる。
1週間で、稼ぎはだいたい2,000円前後。
依頼もポツポツとしか来ないし、大半が「学校の宿題の作文」みたいな小規模案件。
(まあ、立ち上げたばっかだし、仕方ないか)
翻訳と違って、スピーチなどは自分で考えることが多いんだろう。
需要を掘り起こすには、もう少し宣伝なり仕掛けが必要そうだ。
でも――
全く依頼が来ないわけじゃない。
少しずつでも回っているなら、あとは育て方次第でどうにでもなる。
(急がず焦らず、だな)
パソコンを閉じて、軽く背伸びをする。
4つのサイトを見直して、思った。
まだまだ課題はある。
改善点も山ほどある。
でも、ちゃんと前に進めている。
一歩ずつ、確実に。
(よし――月謝、払おう)
これだけ収益があれば、
6,000円の月謝なんて痛くもない。
むしろ、
将来のための投資だ。
ふと、もう一度レシピサイトを開いてみた。
今までの成績確認とは別に、なんとなく、気になったからだ。
最後は――レシピサイト。
管理画面に表示された数字を見た瞬間――
俺は思わず、目を見開いた。
(……え)
昨日のアクセス数、5,000ビュー。
(ちょ、待て……昨日、なんかあったっけ?)
慌ててグラフをスクロールする。
すると、さらに驚くことに気づいた。
(1週間で……3万超えてる!?)
まるでイタズラでも仕掛けられたみたいに、
数字が跳ね上がっていた。
昨日だけじゃない。
ここ数日、ずっと右肩上がりで、アクセスが増え続けている。
(マジかよ……)
冷静になろうと深呼吸しながら、今度は「人気ページランキング」を開く。
すると、トップに躍り出ていたのは――
【炊飯器で作る!簡単チーズケーキ】
やっぱり、あのレシピだ。
(炊飯器チーズケーキ……どんだけバズってんだよ)
どこかの掲示板かブログで紹介されたのかもしれない。
バズるときは、一気に火がつく。
アクセス元をチェックすると、「料理初心者向けまとめサイト」とか、「家事を楽にする裏技ブログ」とか、そんなページからリンクされていた。
(嬉しいけど、怖いな……これ)
たったひとつのレシピが、こんなにも人を集める。
サイト全体のアクセス数も押し上げられていて、他のレシピもどんどん見られていた。
【アクセスランキング・上位レシピ】
• 1位:炊飯器チーズケーキ
• 2位:レンジで簡単オムレツ
• 3位:10分でできる豚丼
• 4位:炊き込みご飯の素いらずレシピ
• 5位:夜食に!超簡単お茶漬けアレンジ
(おお……)
気づけば、過去に投稿したレシピが次々と掘り起こされ、一緒に読まれていっている。
数ヶ月前に作った地味なレシピすら、今になって息を吹き返している感じだ。
しかも、それだけじゃない。
コメント欄を開いてみると――
びっしりと感想が書き込まれていた。
【コメント例】
「こんなに簡単にチーズケーキが作れるなんて感動しました!」
「子どもと一緒に作りました!またリピします!」
「旦那が『これ店で売れる味だ』って褒めてくれました」
「夜食用にお茶漬けアレンジ作りました。最高です!」
(……やべ、めっちゃ嬉しい)
画面をスクロールする指が止まらない。
どのコメントも、ただの感想じゃない。
ちゃんと、作ってくれたんだ。
ちゃんと、役に立ったんだ。
それが、文章の端々から伝わってくる。
(……俺の作ったサイトが)
(俺の作ったレシピが)
(誰かの生活に、ほんの少しでも、役立ってるんだ)
最初は小遣い稼ぎのためや、ChatGPTがあるから作ってみようって感じで作ってみた軽いノリのようなものがあった。
月に2万くらい稼げたらいいいか~的な
それがもうすでにこんなに人の役に立っているなんて――
想像以上にうれしい。
(もっとレシピサイト使いやすくしよう)
そう思った瞬間、自然と頭の中に“改善ポイント”が浮かんでくる。
ページのデザイン、説明の分かりやすさ、検索のしやすさ――
でも、その中で一番最初に思ったのは、これだった。
このレシピサイト、どうしても足りないものがあった。
――「写真」だ。
文章だけでも成り立つけど、やっぱり見た目の美味しさって大事。
でも俺には、盛り付け写真を撮る技術も機材もない。
じゃあ、どうするか?
思いついたのは――“みんなの作ってみた”を使うことだった。
「このレシピで作ってみました!」って写真、けっこう届いてたんだよな。
各レシピの下に“作ってみました”の投稿欄をつけたら、写真付きで報告してくれる人が意外と多かった。
だったら、それをトップページや各カテゴリのサムネイルに使わせてもらえばいい。
リアルな盛り付け、手作り感、何より“使われてる”っていう信頼感も出る。
もちろん勝手に使うのはNG。
だから、ちょっとだけ利用規約を変更した。
「投稿写真は、サイト内でサムネイルとして使うことがあります」って一文を追加。
それだけで、サイトの雰囲気がぐっと温かくなった。
それから数日後――
新しく投稿されたレシピのいくつかに、自然と“写真付き”のページが混ざるようになった。
白い皿に盛られた鶏の照り焼き、ふんわり卵とじ、ほくほくのじゃがいもサラダ。
どれも、プロの料理写真とは違うけど、そのぶん生活感と温かみがあって、見ているだけでお腹が鳴る。
「……やっぱ、写真があると全然ちがうな」
料理の完成形が見えることで、安心感が生まれるし、なにより“作ってみたい”って気持ちが自然と湧いてくる。
カテゴリページも、ただのテキストリンクだった時代に比べて、格段に見栄えが良くなった。
色とりどりのサムネイルが並ぶだけで、まるで“本格サイト”みたいだ。
更新作業の合間、何気なくアクセス解析を眺めていたときのこと。
とあるレシピのページに、コメントがついているのを見つけた。
「写真付きになっててびっくり! すごく助かります。作る前にイメージ湧くのありがたい!」
その一文を読んだ瞬間、胸の奥がふっとあたたかくなった。
……見てくれてるんだな。
使ってくれてる。しかも、ちゃんと喜んでくれてる。
画面越しに、向こう側の誰かの“暮らし”とつながったような気がして、
思わず、モニターに向かって小さく「ありがとう」と呟いていた。
「よし……じゃあ、明日の分も、3レシピ分、仕上げていくか」
今日はなんだか、キーボードを叩く手が、ちょっとだけ軽かった。




