2話 まさかのChatGPT ??
その時、部屋の端に懐かしいノートパソコンがあるのを見つけた。
インターネットがしたくて、親に頼み込んで買ってもらったやつだ。
「とりあえず、電源入れてみるか……」
ガタッと椅子を引き、カチリと電源スイッチを押す。
ブゥウウウン……と懐かしいファンの音が鳴る。
少しして、どこかゆったりしたテンポの“Windows XP”の起動画面が立ち上がった。
「うわ……これだよ、これ」
このUI、どんだけ見たことか。水色のバーに、緑の“スタート”ボタン。
デスクトップに並ぶのは、定番の“マイコンピュータ”や“マイドキュメント”、そして“ごみ箱”。
「IE6……懐かしすぎるだろ……」
(chromeの前はこの水色のブラウザ使ってたよな)
目を細めて、いくつかのアイコンを確認していく。
「YAHOO! JAPAN」って名前のショートカットがデスクトップの中央にあるあたり、時代を感じる。しかも、ローマ字全角。
カーソルを合わせてクリックすると、IEのウィンドウがゆっくりと立ち上がった。
“ぷしゅっ、ぷちっ”
という、昔のADSLのような接続音がスピーカーから微かに聞こえてきた気がする。いや、たぶん気のせいじゃない。
「ADSL……ほんとに2005年だな」
Yahoo!のトップページには、どこか垢抜けないレイアウトでニュースや天気、スポーツ情報が並んでいた。
広告欄には、どこかで見たような“テレホンカード高価買取”のバナーが回っていて、思わず苦笑いする。
「なんだろうな、このノスタルジックな感じ……」
どこを見ても、すべてが懐かしい。
そして、ふと思い出した。――この時代、Flash動画にハマっていたことを。
「たしか、“エルシャダイ”とか“ナイトメアシティ”とか……いや、それはもうちょい後か……」
頭の中で、MAD動画の音声が再生される。
『そんな装備で大丈夫か?』『大丈夫だ、問題ない』
「あー……懐かしい……」
中高生の頃は、よく2ちゃんねる系のFlashサイトを見てはニヤニヤしていた。
“ねこ鍋”や“赤さん”みたいなフラッシュアニメ、あの頃はネットの宝庫だった。
そして当然、個人製作のゲームにもどっぷりだった。
『まさしの冒険』『クターシリーズ』『ブロッコマン』……いま思えばクオリティはピンキリだったけど、あのワクワク感はたしかにあった。
「Flash、もうこの時代には溢れてたんだよな……」
頭の中が一気に中学生モードに引き戻される。
何か懐かしいサイトでも探してみるか、と“お気に入り”(ブックマーク)を開いてみた。
すると、いくつかの懐かしいページがズラリと並んでいた。
・にちゃんねる
・ミルクカフェ(掲示板)
・FLASH倉庫
・ゲーム総合リンク集
・F×××って名前の謎のCG集サイト(うわ、黒歴史……)
「やべぇ……全部覚えてる……」
懐かしさで顔がニヤける。
しかし、その中に、ひとつだけ明らかに“浮いている”名前があった。
『ChatGPT』
「……は?」
今この時代に、“ChatGPT”なんて単語が存在するわけがない。
けど、確かにそこにあった。
お気に入りの一番下に、青く表示されたリンク。
『ChatGPT』――ただそれだけ。
リンクの先がどこなのか、どんなファイルなのかは分からない。
説明もなければ、日付の記録もない。
「なにこれ……誰がブックマークした?」
ブックマークの名前をクリックする指が、わずかに震えていた。
ワンクリックでページが開く。それだけの操作なのに、妙に緊張する。
カチッ。
IEが別ウィンドウで立ち上がる。そこに表示されたのは――真っ白な画面と、中央に浮かぶ一行のメッセージ。
《ChatGPTへようこそ。質問を入力してください》
「……うそだろ」
目の前の画面は、明らかに“あのChatGPT”のインターフェースだった。
黒背景じゃない。白ベースにシンプルな構成。けれど、入力欄と出力欄の構造は、明らかに“未来のそれ”と酷似している。
「いやいやいや……これ、本物か……?」
とりあえず、試してみるしかない。俺は恐る恐る、キーボードに指を乗せた。
>こんにちは
【ChatGPT】
《お手伝いすることありますか?「質問してみましょう」》
「……えっ」
即レス。しかも文体が、あの丁寧で無機質な感じ。
まるで、俺の知ってるChatGPT-4とまったく変わらない。
「まさか……こいつ、本物のGPT-4……?」
さらに思いついたまま打ち込む。
>あなたのバージョンは? GPT-3ですか?
【ChatGPT】
《私はGPT-4および一部にGPT-4oの機能を統合したモデルです。2023年以降に提供されている仕様と同等の処理が可能です。日本語の文脈理解および論理的回答精度に特化したカスタマイズが施されています。》
「ちょっ……マジで……?」
思わず椅子の背もたれに倒れ込む。
GPT-4。それどころか、最新のGPT-4oの要素まで入っている。
そんなAIが、2005年のこの時代の、しかも俺のPCに“だけ”存在している。
これが夢じゃなければ――奇跡以外の何物でもない。
>じゃあ、簡単な質問します。
>2005年4月2日の東京の天気、どうなる?
【ChatGPT】
《2005年4月2日(土)の東京の天気は、おおむね晴れ時々曇り、降水確率は20%程度と予測されます。最高気温は17℃、最低気温は9℃前後の見込みです。》
「やべぇ……やべぇよこれ……」
本当に使える。未来の知識をそのまま引っ張ってきてる。
こんなパソコンに入ってるって……
一体どうなってんだ。
しかも、処理がサクサクすぎる。2005年の回線速度で、これって……信じられない。
「もしかしてこれ……」
ふと、頭に浮かんだ言葉が口をついて出る。
「――異世界転生の、スキル特典……?」
思わず自分で笑ってしまった。
だけど、笑って済ませられないくらい現実味がある。
だって俺は、34歳で死んだ――はずだった。
そして今、14歳の身体で2005年に“再スタート”を切っている。
そこに、最新のAIが与えられてる。これがスキルじゃなくて、なんだってんだよ。
「なんだこの展開……」
胸の奥がざわざわする。混乱、興奮、これで――
「俺、無敵なんじゃね……?」
あまりの展開に、自分の口から出た言葉がちょっと恥ずかしくなる。
けど、言わずにいられなかった。
だってそうだろ?
ChatGPT。未来のAI。しかも2025年仕様。
これが2005年の今、誰にもバレずに俺だけが使えるって、ほぼ最強のスキルじゃん。
「これ、学校の作文とか余裕で勝てるやつじゃね?」
ふと頭に浮かんだのは、毎年恒例の「読書感想文」とか「将来の夢」的な作文課題。
昔は面倒でギリギリまで残してたやつ。
あれ、ChatGPTに書かせれば、一発じゃん。
>将来の夢について800字で作文を書いてください。中学生らしい言葉でお願いします。
【ChatGPT】
《タイトル:僕の将来の夢
僕の将来の夢は、世界で活躍するエンジニアになることです。小さい頃から機械やパソコンに興味があり……》
「うわ、ほんとに書きやがった」
しかもめちゃくちゃ“らしい”。ちょっとだけ生意気で、でも希望に満ちた中学生ボイス。
「やっば……これ完全に使えるわ」
これがあれば、国語の作文も、英語のスピーチも、社会の調べ学習も――ぜんぶ無双できる。
「これはもう、ずるくない……工夫だろ。効率化。合理化。だってみんな、辞書とかググって書くし……」
そう、自分に言い聞かせるようにうなずいた。
“ChatGPTを使ったかどうか”なんて、誰も気づきようがないし、証拠もない。
なのにクオリティはトップクラス。あれ、もしかしてこれ、表彰とかされちゃう?
「賞とかもらっても、逆に困るんだけど……でも、ちょっと嬉しいかも」
よし、これを使って小遣い稼ぎでもするか。