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17話 澪の絵


「じゃあ、ウチ来る?」


学校帰り、そんな流れで澪と一緒に俺の家に向かうことになった。

玄関で靴を脱いで、廊下を抜け、リビングへ。


「お邪魔しまーす」


「適当に座ってて」


俺はパソコンの電源を入れながら、ソファに座った澪に声をかけた。

パソコンが立ち上がる間、コーヒー牛乳でも出そうかと思ったけど――まあ、今はそれどころじゃない。

画面が明るくなり、俺はマウスを動かして、例のファイルを開く。


「ほら、これ」


画面を指差しながら、澪を呼び寄せた。

 

澪は立ち上がって、パソコンの画面を覗き込む。

次の瞬間――


「ぷっ……!!」


吹き出した。

肩を震わせながら、手で口元を押さえる。


「なにこれ……太陽? え、アザラシ? え、これ、シャワー???」


涙目になりながら指を差してきた。

「うっ……やっぱ、そう見えるよな」


俺は頭をかきながら苦笑した。

画面には、俺が頑張って描いた手作りアイコンたちが並んでいる。


澪はお腹を抱えて笑いながら、机の上に置いてあった俺の紙を指差した。



「これ、恭一が描いたの?」


「……うん」


正直、認めたくなかったけど、逃げようがない。


「すごい才能だと思う、ある意味!」


「いや、それ全然慰めになってないからな!」

俺がツッコミを入れると、澪はさらに笑い転げた。


でも、なんか澪が楽しそうに笑ってるのを見たら、

妙にこっちも恥ずかしくて、でも、嬉しくなった。

 

「……だから、頼むよ、澪」


俺は、正座して拝む勢いで言った。


「可愛い天気マークがあったら、絶対サイトも見やすくなるんだ!」


「はいはい、わかったってば」


澪は笑いながら、両手をパタパタと振った。


「そんな必死にお願いされなくても描くって! 楽しそうだし!」


「マジで!? ありがたすぎる……!」


だけど、澪はそこでニヤリと悪戯っぽく笑った。


「でも、条件がある!」


「えっ、なに?」


ドキリとしながら聞き返すと、澪はぴんっと人差し指を立てた。

そして、堂々と言い放つ。

 

「マック奢って!」

 

……なんか、すごく庶民的だった。


「ははっ!」


俺は思わず吹き出してしまった。

そんな大げさな顔して要求することかよ。


「いいよ、どうせ来月にはサイトの広告収入が入る予定だし」


「やったー! じゃあチーズバーガーね! ポテトも! ドリンクも!」


即決すぎる。


「しかもセットかよ……」


「もちろんでしょ!」


腕組みして、えっへんと胸を張る澪。

どこからどう見ても、勝ち誇った顔だった。

 

「じゃあ、ナゲットも頼んでやるよ」


「わーい! 神!」



 * * *



次の日の放課後。

俺と澪は、またウチに来てパソコンを見ていた。


勉強道具を広げるでもなく、テーブルの上には母親が買ってきたポテチ。

今日の目的は、勉強じゃない。

 

「で、これが今のサイトの仮デザインね」


俺はパソコンを開いて、天気予報サイトの試作品を見せた。

 

「わぁ……なんか、……うん、シンプル!」


澪が、ちょっと優しい言葉を選びながら言った。

 

トップページには、「今日の天気:晴れ」と文字があるだけ。

横に、俺が描いたアザラシみたいな“くもりマーク”と、

シャワーみたいな“雨マーク”が並んでる。

 

「うん、まあ、悪くはないよ! 悪くは!」


「フォローになってないからな?」


俺は苦笑しながら、続けた。


「でもな、ここに澪がちゃんとした天気マーク描いてくれたら、もっと見栄えが良くなると思うんだ」

 

「ふふん、任せなさい!」


澪は自信たっぷりにお絵描きソフトを開いてマウスを持った。


「ドット絵って言っても、16×16でいいんだよね?」


「うん。小さくても、ちゃんと何の絵かわかればいい。64×64が出来るならそっちでも……」


「はいはい、64で作ってあげるから」

 

澪は「よし!」と気合を入れて、まずは紙に簡単なラフを描いてから、お絵かきソフトで清書するつもりらしい。


まずは、「晴れマーク」

丸くて、ちょっと柔らかいオレンジ色の太陽。

にじむように、優しい光を表現してる。

 

次に、「くもりマーク」

ふわっと丸みを帯びた、灰色の雲。

モコモコしてて、ちゃんと“雲”に見える。


(アザラシじゃない……!)

 

最後に、「雨マーク」

雲の下に、小さな青いしずくがぽたぽた落ちている。


ちゃんと“雨”ってわかる。

シャワーじゃない。すごい。

 

「……すげぇ」


思わず、声に出た。

 

たった64×64ピクセルなのに、ちゃんと可愛くて、わかりやすくて、しかも、見た瞬間にほっとする感じがする。

 

「うまっ……澪、天才か?」


「えへへ、でしょ?」


澪は照れたように笑った。

 

「てか、これ……もうプロじゃん。アイコン職人じゃん」


「そんな大げさな」


「いや、マジで!」

 

俺は急いで澪の描いたラフをスキャンして、ペイントソフトでドットに起こした。

色をつけて、サイズを整えて、仮のサイトに組み込んでみる。

 

ページを再読み込みした瞬間――

 

画面が、まるで別物になった。

 

白い背景に、ほわっと浮かぶオレンジ色の太陽マーク。

その隣には、優しいグレーの雲。

そして、ぽたぽたと滴る青い雨粒。

 

「……うわ、めっちゃいい……」


声が漏れた。

 

サイト全体が、ぱっと明るくなった気がした。

昨日までの、“ヘタウマすぎる仮アイコン地獄”が嘘みたいだ。

見た瞬間に「可愛い!」って思えるし、誰が見てもすぐに天気がわかる。

 

「ね? 言ったでしょ? 私、絵得意だって」


澪はちょっと得意げに胸を張った。

俺は思わず、深く頭を下げた。

 

「ほんと、ありがとう! 澪のおかげで超レベルアップした!」


俺は、画面に並ぶ新しいアイコンたちを見ながら、心からそう言った。

にこにこ顔の太陽、むっつり顔の曇りマーク、涙目の雨雲――

どれも手書き感があって、めちゃくちゃ可愛い。


これなら、サイトも一気に明るくなる。

いや、それ以上に、俺自身が元気をもらった気分だった。

 

澪は得意げに胸を張って笑う。


「ふふ、来週チーズバーガーよろしくね!」


「おう、マックチキンもつけるか!」


ノリで返すと、澪は目を輝かせた。


「えっ、ほんと!? 神!」


無邪気に喜ぶ澪を見ていると、つい財布の紐もゆるくなりそうだ。

 

だけど、そのあと――

澪は、ふっと表情を変えた。

少しだけ、ためらうように。


「あ、もう一個お願いがあるかも……」


言いながら、指先で自分のシャツの裾をつまむ。

その様子に、俺はちょっと身構えた。


(……そんな大変なの、押し付けようとしてるのか?)


バイト代じゃ足りないくらいの出費を要求されたらどうしよう――

そんなくだらない妄想がよぎったそのとき。

 

「マック行ったときに、一緒にね、プリクラ撮らない??」

 

「……え?」


意外すぎる提案に、思わず間抜けな声が出た。


プリクラ?

俺たちが??

でも、澪はすごく真剣な顔でこっちを見ている。

軽く拳を握って、ほっぺたをほんのり赤らめながら。

その表情を見た瞬間、なんだか断る理由なんて一ミリもなくなった。

 

「うん、いいよ。プリクラ撮ろうぜ……」


ちょっと照れくさいけど、自然にそう答えていた。

 

「やったー!!」


澪は飛び跳ねる勢いで喜び、俺の腕を軽くポンポン叩いた。


「プリクラ、今どんな機械なのかなー! 盛れるやつがいいなー!」


「俺、顔面詐欺になりそうだけどいいのかよ……」


「いいのいいの! 記念記念!」


澪が嬉しそうに笑うから、俺もつられて笑ってしまう。

 

春の夕暮れの中、冗談を言い合いながら、ふたりで笑い合った。



――それにしても、思う。

結構簡単にサイトって作れるんだな。

これもChatGPTのおかげだな。


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― 新着の感想 ―
時代設定は 2005 年でしたっけ。この時期だと、Windows に Yahoo! Wedget をインストールして、デスクトップに天気やカレンダーを常時表示できて便利だなー、と思ってた時代ですね。
面白い!!
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