12話 自動化って響きいいよね
「ただいまー」
通学バッグを置いて、靴を脱ぐより早くパソコンの電源を押した。
学校で配られたプリントがカバンの底でぐちゃぐちゃになっていようが、今の俺には関係ない。
ダチにマックに誘われようが、今日もサイトの更新が最優先だ。
デスクトップに並ぶ、レシピサイトと翻訳サイトのショートカット。
まずは、レシピサイトから。
「さて、今日の一品は……」
メモ帳に書いてあった“候補リスト”を確認する。
「たまご丼」とか「キャベツの浅漬け」とか、冷蔵庫にありそうな材料でできる料理をコツコツリストアップしてある。
(まあ、リストアップするのはChatGPTだが)
最初は――「豚こま肉の甘辛炒め」でいこう。
簡単で、ごはんが進んで、作るのも楽。
まさに、俺のレシピサイトにぴったりだ。
サクサクとテキストを打つ。
【豚こま肉の甘辛炒め】
◆ 材料(2人分)
・豚こま切れ肉……200g
・醤油……大さじ2
・砂糖……大さじ1
・みりん……大さじ1
・サラダ油……適量
◆ 作り方
1. フライパンに油を熱し、豚肉を炒める。
2. 火が通ったら、醤油・砂糖・みりんを加えて、軽く煮詰める。
3. 汁気が少なくなったら完成!
◆ ポイント
冷蔵庫の残り野菜(ピーマン、玉ねぎなど)を一緒に炒めても美味しい!
「……よし、完璧」
画像はないけど、この時代はそれが普通。
文字だけでも十分伝わるし、むしろシンプルでいい。
サイトにアップロードして、更新完了。
「これでまた、誰かが晩ごはん作るときに役立てばいいな」
画面に向かって、小さくガッツポーズ。
そのとき。
ピコンッとメール通知が鳴った。
受信トレイを開くと――
差出人は、「ひとこと翻訳屋」宛の依頼フォームからだった。
「おお、来た来た!」
急いでメールを開く。
依頼内容はこんな感じだった。
【翻訳依頼】
ジャンル:英語→日本語
内容:「The rapid expansion of third-generation (3G) mobile networks has reshaped the global telecommunications landscape. ……」
納品希望:1週間以内
お、これは長いな。約2000語だ、内容は通信系の科学論文か。
急ぎでもないし、いい感じ。
「よーし、翻訳タイム!」
まずは、英文をコピーして、メモ帳に貼り付け。
次に、ChatGPTに入力。
>この英文を自然な日本語に訳して。
【ChatGPT】
《第3世代(3G)モバイルネットワークの急速な拡大は、世界の通信環境を大きく変化させた…… 》
「うん、ナチュラルでいいじゃん」
ちょっとだけ、自分なりに微調整する。
翻訳ができたら、次は返信だ。
サイトに設置してある「専用返信フォーム」を開いて、
・依頼番号
・翻訳文
・ちょっとしたメッセージ(例:「ご依頼ありがとうございました」)
を入力して、送信。
フォームを送ったあとは、ちゃんとメールで「送信完了のお知らせ」が届く仕組みにしてある。
少しでも「ちゃんと対応してます」感を出したかったからだ。
全作業、ここまで約15分。
「……俺、ちゃんと“仕事”してるな」
学校の宿題とは全然違う。
誰かに頼まれて、期待されて、それに応える。
その小さな達成感が、じんわりと胸に広がった。
「また来ないかな、依頼」
思わず、そんなふうに思っている自分に気づいて、苦笑いする。
中学生のくせに、すっかり“仕事中毒”になってきてるかもしれない。
でも――それは悪くない気分だった。
そこでふと思った。
「これさ……いちいち手でやらなくても、最初から来た文章をChatGPTが翻訳して、それを返せばよくね?」
最初のうちは「ちゃんと考えて訳すべきだ!」とか思ってたけど、ChatGPTの翻訳は、プロレベルに上手い。
「ていうか、これ完全に……自動化できるじゃん」
俺はメモ帳に、サッと流れを書き出してみた。
【自動翻訳作業案】
1. メッセージが届く
2. ChatGPTが翻訳する
3. ChatGPTが返信フォームから送る
これ、マジで副業として革命じゃないか。
ただ――ひとつだけ、問題があった。
「返信早すぎたら、バレるよな……」
たとえば、夜中に依頼が来て、1分で即返したら、「え、寝てないの?AIなの?!」って思われるに決まってる。
俺が“人間”としてやってるってことにしないと、信用を失う。
(スピード出しすぎ注意、だな)
「じゃあ、連絡が来たら13時間45分後に返信しよ」
適当に決めた。
ちょうどいい。
俺は構想だけ考えてベッドに転がりながら、天井を見上げる。
「……オレ、めっちゃ頭良くない?」
誰に褒められるわけでもないけど、
自分の工夫で、ちょっとだけ未来を楽にできた気がした。
明日これ出来るかやってみよ。
* * *
土曜日
朝、目覚ましが鳴るより早く目が覚めた。
まだ外はぼんやり薄暗い。
けど、なんだか体の奥からわくわくしたエネルギーが湧いてくる。
「今日から、オレ……自動化するからな」
小さくガッツポーズして、パソコンを起動した。
まずは、昨日思いついたこのプランを実行に移す。
今までは、メールを受け取って、内容をコピペして、翻訳して、またコピペして、返信して……
という手動作業だった。
それを全部、ChatGPTにお任せして、自動で完了させる。
つまり、俺は“何もしなくても”翻訳依頼が片付いていくわけだ。
「……天才かもしれん」
つぶやきながら、作業の流れを確認する。
まずやるべきことは、「届いたメールの内容をどうやって翻訳するか」って話だ。
このサイト、海外からも問い合わせが来る。でももちろん、俺は英語が読めない。そこでChatGPTの出番だ。
メールの内容は、フォームから届く仕組みになってる。つまり、誰かがページで「Hello」とか送ると、それが俺のところにメールで届く。
だったら、こうすればいい。
1. メールの内容をコピーして保存
→ これは自動でやる。
2. ChatGPTに「このメールを翻訳して」って頼む
→ 英語なら日本語に、日本語なら英語に。
3. 翻訳結果を、またフォームに入力して返信する
→ これも自動。コピペするだけだ。
4.
つまり、メールを受け取って → 翻訳して → 返事を出すって流れを、全部まとめて自動でやれるようにすればいいわけだ。
そこで俺は、ChatGPTに指示を送った。
>「英語のメールが届いたら、自動で翻訳して、それを返事としてフォームに入力して送る流れを作りたい。パソコン初心者でもできるやり方でお願い」
【ChatGPT】
《シンプルな流れとしては:
・専用フォームに翻訳依頼文が送信される
・それを翻訳するように事前に命令をセット
・翻訳結果を返事フォームから、自動で送る
この手順をまとめた、簡単な操作スクリプトを作れば実現できます。》
……とのこと。
「よし、オレでもいけるな」
難しい専門知識は使わず、あくまで“中学生でもできる範囲”に絞って自動化を目指す。
まずは、メール内容を一時保存する「翻訳待ちリスト」フォルダを作った。
受信したら、そこに自動でテキスト保存。
保存されたら、ChatGPTがそれを読んで翻訳開始。
翻訳文が完成したら、フォームにコピペして、返信。
「……これ、マジで働かなくても済むんじゃね?」
いや、実際は働いてるんだけど、
あまりにもスムーズすぎて、もう仕事って感じがしない。
試しに、テストメールを自分で送ってみる。
件名:「テスト依頼」
本文:「Hello, thank you for your help.」
送信――!
数分後、パソコンの画面に小さなウィンドウがポンと出た。
【翻訳中……】
【翻訳完了】
【返信送信予約完了(13時間45分後)】
「……できた!!」
思わず椅子から立ち上がった。
中学生が、自分だけでここまでシステム作ったとか、わりと自画自賛していいレベルだろ。
しかも、13時間45分後に自動で送信される設定もバッチリだ。
人間っぽさのために、即返信は避ける――そこもぬかりない。
「ふふ……これが、オレの未来技術だ!」
誰にも聞かれてないけど、思いっきり宣言してしまった。
一息ついて、机の上のノートを開く。
そこには、「やりたいことリスト」がずらっと書かれている。
✔ レシピサイト更新
✔ 翻訳サービス立ち上げ
✔ 翻訳作業の自動化 ← New!!
どんどん、やれることが増えていく。
どんどん、未来に向かって進んでる気がする。
「……次は、翻訳以外にも自動化できること探してみるか」
小さなパソコンの画面の前で、俺はひとり、静かに笑った。
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【現在の収益】 (4月30日時点)
レシピサイト 540円
翻訳サイト 6,200円




