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「魔力が少し戻るんだよ」
「うん」
考えると訳がわからなくなりそうだったので、とりあえず自分の常識は全部ゼロにして素直に聞くことにした。
「なゆとキスとか?いちゃいちゃすると魔力が戻って、魔法界での姿に戻れるんだよ」
「えっと、それはどんな姿なの?」
「それは、見たいからいちゃいちゃしたいってこと?」
「ちがうよ、ちがうちがう!…今よりも大人っぽいってこと?」
なゆは真っ赤になって否定したが、ルクはその姿を見て嬉しそうだった。
(でもたしかに、さっきちょっとキスしただけでなんか変わってた気がする…)
本当なのかな。
なゆは、ルクの顔に視線を戻した。
ルクはすでになゆのことを見ていて、目が合った。
「見てみたくなった?」
返事に困った。
見てみたい。
でも、見るためにはキスをするってこと。
キスしたいなんて言えない。
なゆは思わず下を向いた。
ルクの手がなゆの左側の髪を優しくかきあげる。
それから、左の頬に唇を触れる。
なゆが見上げると、ルクの茶色の瞳が自分をじっと見つめている。
きれいな顔。
だんだん、近づいてくる。
「いい?」
息がかかる距離で、問われる。
なゆは目を強く閉じた。
心臓がどきどきする。
最初は軽く、優しく唇に触れる。
ルクの手がなゆの耳にかかる。
引き寄せられる。
まるで優しく食べるように、ルクの唇がなゆの唇を喰む。温かい舌がなゆの上唇をなぞった。
「はぁっ…」
「なゆ…かわいい」
何度も軽く唇に触れる。ルクの唇の感触が柔らかくて、その気持ちよさに眩暈がする。
(食べられそう…)
なゆは突然恥ずかしくなって両手で顔を覆った。
「なゆ?」
キスしたのも久しぶりだった。会ってすぐにキスしてる自分にも混乱していた。
「なゆ、こっち見て」
ルクを見ると、明らかに大人びていた。
幼かった顔が、引き締まった表情になっている。
ただ、高校生のルクも今のルクも端正な顔立ちなのは変わらない。
「ちょっと足りないけど、かなり本当の僕に近い感じ」
ルクがついていないテレビの画面に反射した自分の顔を見て言った。
声の感じも少し低い気がする。
(だめだ、かっこいい…)
私この人と本当にキスしたのかな。
なんでこんなかっこいい人に好きとか言われてるんだろう。どきどきする。
「なんでキス…すると魔力が戻るの?」
「大好きな人とすると戻るって言われてるんだよ。僕はなゆが大好きだから、ちょっとするだけでもかなり魔力が戻るよ。ありがとう」
大人のルクが抱きしめてくる。
高校生のルクが抱きしめてくるのとはまたちがう安心感がある。
(なんでこんなに気持ちいいんだろうなぁ…)
なゆもルクの背中に手を回して力を込める。
「この姿でいられるのも、その魔力がどれくらい保つかによるから…一日なのか、数時間なのか、数分なのか、それは僕にもわからないんだ」
見た目高校生と高校の教員がこんなふうに抱き合ってたら、大問題だ。
誰かに見られたりしたら、職を失いかねない。
(それは困る)
「だから、いっぱい、しよ?」
ルクがなゆをぎゅっと抱きしめる。
(いい匂いがする…)
鼓動が聞こえる。
前と同じく速い鼓動がする。
なゆはずっと聴いていたいと思っていた。