双子の姉は双子竜に溺愛される(愛するとは言ってない)〜容姿端麗な妹は自分が選ばれると周りから言われているので私はお暇してやりたいことをしに行きます。お客様、押しかけられても困りますのでご遠慮願います〜
この国は竜に愛される者が多く発見される。遥か昔から、運命の花嫁や花婿と呼ばれる存在。竜人、または竜族と呼ばれる単種が居て、その者らが人間の国へ来る目的でもある。いわゆる、運命の異性。
なので、どの貴族、平民であろうと子沢山が推奨された。万が一、長子が選ばれてもいいような制度も整備されている、という優遇っぷり。
たくさん産むことを推奨されはするが、すべての子に平等な愛を渡すかと言われればそうでもない。
そんな制度ができたことにより、人間の間で優秀、または外面が美しいものが運命に選ばれやすいのではないか、という憶測の元、期待をその子に向けるという無慈悲な淘汰が行われる。
無論、命は取らない。だが、かける愛情や待遇の差は起こる。平民の家に生まれた双子の姉はまさにその制度に目が眩み、歪んだ思想に人生を曲げられている最中だった。
平民の家とはいえ、平民に似つかわしくないほどの美人に生まれた双子の妹。双子なのに瓜二つじゃない。両親の愛情、および将来竜族の運命に選ばれるかもしれないというもしも、の弊害。
そうじゃなかった方の姉は、毎日の妹へのおべっかにウンザリしていた。愛を求める年齢ではなくなったし、愛を求めるのはずっと前に辞めた。
竜族、運命、選ばれる、美しい。この単語に嫌悪さえ感じた。嫉妬ではなく、毎日勝手に耳が拾うので聞き飽きたというか、聞きたくないほど、聞かされてきた。
街でも近所でも街一番と呼ばれているほど妹は目立つ。周囲が持ち上げたりするから、両親も妹も、そのほかの兄弟も無駄に期待してしまっているのだ。
自分なりに調べた、サティラムは。
「別に容姿については、書かれてない」
というより、竜族に愛され、大切にされる中で身も心も美しくなりましたとさ、という記述が多い。それ以外は半々。元々、近所でも評判の娘、息子、ともあった。
評判でもなんでもない、目立たない子であることも可能性があったので、やはり美醜は関係なく、心が美しいから選ばれたとも書いてない。心が美しくない、とは書かれないだろう。
書いたら片割れの竜族の報復などがあるかもしれないし。誰も書かないと思った。サティラムは盛り上がる家族と離れようと、知識をつけるために本屋や本を借りられる施設に、出入りする。
「はぁ、くだらなすぎる」
冷遇というほどでも無い。平民なら普通の家庭。ただ、みんなで妹を持ち上げて竜族に発見してもらえるまで支えようという、その空気が大嫌い。
放置されている自分が可哀想で、その自分を助けるために奮起する。
例えば誕生日。何が起こるか、何があったのか言わずともわかるだろうが。結論をいうと、みんな妹にはおめでとうと言うが、サティラムには一言も言わない。双子は同じ誕生日なのに。
プレゼントもないときや、あっても妹よりも俄然劣る品物。貰えるだけでも云々と言われるかもしれないが、そもそも気持ちが籠ってないのが丸わかり。
妹には楽しそうに渡すのにサティラムには、ぽんとおざなりにこれ、と渡すのみ。おめでとう、ありがとう、そのやりとりがない。
それはお店に行った時のお土産を渡すことと、なにが違うのだろう。おまけに毎年もらえるかは、その時のくれる人の記憶力頼り。
もらえない時の方がまだマシ。適当に買ったものを貰ってもプレゼントを渡す義務感ばかり感じる。誕生日だからプレゼントを渡す。
どんな人間だろうと、プロセスを知っていれば誰だってやること。朝起きたらおはよう、というのと変わらない。笑顔は妹に向けながら渡されるそれ。
馬鹿みたい。喜ぶ自分が馬鹿だろうに。だから、プレゼントというより妹のプレゼントを買いに行った時のお土産だと思うことにした。
実際、そうだろう。ついでに、あの子のを買うから、もう一人の分も選んでおこうってこと。おまけだ。商品を買うと付いてくる、付属品を渡されて、嬉しいわけがない。
いつも見当ハズレのものしかもらえない。自分で買えばいいだなんて、思われるかもしれないけど。でも、期待っていうのはどんどん削れていく。
今や跡形もない。もうすぐ、独り立ち可能な年齢になる。いそいそと準備を終えた。その日の日付を指した瞬間、居なくなる予定。指折り数える。
奇しくも、その年の誕生日は竜人が来ると話題になった日と重なった。しかし、その日の朝が来る前にサティラムは家を出たのでその話が伝わることもなく街を出た。
「んー、いい天気」
清々した気分で肩を回す。これからは、運命の嫁コールを聞かなくて済む。これからは、双子なのに一人だけの誕生日会を見なくてもいい。
これからは、名前を呼ばれない日を送らなくていい。ふふ、と笑みが浮かんだ。これからは、自分だけの為に生きられる。
仮に、妹が運命に選ばれたとして、連れて行かれるのか竜族が留まるのか。どちらにしても自分にスポットライトが当たることはないだろう。
「そんなことになったら、残された方って新しく言われそう」
双子じゃなかったらもう少しなにか、違ったかもしれない。誕生日だって被らなければ、忘れられることはあっても、同じ日に贈られる温度差をまざまざと見せつけられることも、なかったと思う。
(あの子の髪飾りは可愛くて美しいのに、私のは適当に買ったもの、値札も取ってない状態で、箱にも入ってない)
値札もそのままなんてほかの子は同じ真似などされてなさそう。
(私が渡したプレゼントよりもあの子から貰った時、両親は抱きしめた)
サティラムには、貰う時の温度のないありがとうだけ。
(でも、これからは違う。違うの)
列車に乗って隣国のさらに隣国へ。駅から降りて、カバンを手に会場へ向かう。今日は試験の日でもある。情報を集めて、色々調べていた。
本を読む内にサティラムはタクシーという職に一段と憧れが湧いた。
先ずは筆記での試験。その試験に合格すると次は数ヶ月間の魔導車の運用のための実習。見事、試験に受かれば晴れてドライバーになれる。
この国に来たのは魔導車の最先端国だから。魔導車はほかの国と違い自動で走るらしい。ドライバーが居るのはそのほかの為だ。
自動魔導車は走ることはしてくれるが荷物を運んだり、送った人を乗せたりすることはまだ無理らしい。手動の部分を補うためのサポート役。
サティラムは自動ではない魔導車のドライバーも考えたが、本を読んでいると覚えることがあまりにも多すぎて、時間が有限だったのでこちらの自動にしたのだ。
この国限定という点がデメリットだと書いてあったが、家を出て働きたかったサティラムにとってその時やれる近道。
とにかく、サティラムは魔導車の自動に興味を惹かれた。国内であれば不便なく移動できる程、既に整備が終わっている。そして、試験を受けた結果。
(受かった!受かった!)
筆記は手動車と比べれば、難易度は低い。それでも、心配だった。憧れの魔導車に乗った時は、感動で手が震えた。研修を終えて、自動魔導車タクシーの免許を取得。
色々他にも選択肢はあった。専属のタクシー、魔導バス、魔導車の給魔(動かすエネルギー)施設の職員。様々な関連する場所が選べたが、タクシーを選んだ。
とにかく広く広く、いろんなところに行きたかった。今まで狭いところに居たので、反動だろう。
そんな中、人を乗せて自動で向かう相手と会話をしたり、観光地を教えたり、美味しいお店を紹介することも主な仕事だった。
別に無口でも許されないわけではないが、研修ではタクシーならばリピーターも大切だと教えられた。
タクシーの思い出が良ければ、またこの国に来たくなるのだと言われ、そういうものなのかなあ、と半信半疑だった。
今も話す側なので、言われた内容を反芻したところで感じ入ることもない。今度、誰かのタクシーに乗ってみればなにか得られるかもしれないな。そんな風に、人生をまさに謳歌している最中のこと。
まさかのまさか。振り払い置き去りにした過去が到来。
その日は、雨だった。しとしとと、この国には珍しい天気。二人のお客さんがタクシーに乗った。
もし、危害を加えて来たとしてもこのタクシーは撃退アイテムを詰め込んでいるので、安心だった。なので、女一人だろうと男一人でも二人でも乗せられる。
万が一危なくなれば、警備会社に通報も出来る。車内ではカメラが付いていて、録画もしていて、あとで嘘をつけない。
男二人は美麗な見た目をしていて、その瞳は竜人特有のものだった。こちらを熱の籠った目で見ていようと、客は客。乗せるかどうか二分は悩んだけどね。
なにかされる前に、警備会社に竜人二人を乗せると事前に連絡しておいた。なにごとも自衛が大切。
「どこへ向かいますか」
「君のおすすめがいい」
(いきなり、ドライバーのおすすめ?)
普通は最初から目的地があって乗る人が殆ど。
(こう、胸に引っかかる)
「そうですか。では、この国の象徴の像があるところでどうですか」
「なら、そこで」
片方は話し、片方はまだ一言も話していない。見た目を見れば髪色は同じだが似ては居ない。
「ドライバーさん、運転手歴長いの?」
「そうですね、半年くらいです」
嘘をついた。本当は二年だ。
「そっか、まだ始めてあまり経ってないんだね」
二人はそこそこ、こちらに質問を投げかけてきたが殆どサティラムについて。正直気持ち悪い以外、思わない。
「お客さん、私に関する質問はこれ以上やめてもらえますか」
「え」
本当に普通に驚いていて、その態度を許される環境に居たのだろうかと無性に腹が立った。私事を訊いてきさえしなければ、ここまでイラつくこともなかったよ。
「私についてじゃなければお答えします」
次に聞いてきたら警備会社に通報する。
「あ、えと、その……」
しどろもどろになる。やっと二人目が口を開く。
「落ち着け、ソリュ」
「だ、だって、せっかく、会え」
サティラムは長年、空気を読まねばならない家庭に居たので嫌な予感も察しやすい。得意ではあるが、自慢できるような特技じゃない。
空気読み一級にでもならなければ、一瞬で孤立して排除されるような家だったのだ。絶対に口が裂けても、楽しい技量じゃない。
「お客さん、着きました」
話している間に、自動で運転してくれる車。時間通り着いた。
「か、観光案内!観光地なら、あ、あなたに案内されたいなぁ、ダメかなぁ?」
ダメだ。まず敬語じゃない。やはり初対面なのでいくら客だろうと馴れ馴れしい。それに、サティラムは女だ。防犯グッズ満載のタクシー車から出れば無防備同然。
ここからは基本出ない。荷物を持つのも、車の防衛システムが働く距離まで。
おまけに、男二人ともなればいくらグッズを持っていても、片方へ攻撃している間に片方にやられてしまう、という構図となる。
「無理です。降りてください」
料金をもらい、ペイっと車から下ろす。ピシャリと扉を閉めて、制限速度の一番上の速さで車を発進させる。後ろを鏡で見ると唖然とした二人は、車を見送っていた。
ダメだと言われるなんて予測してなかった、とでも言いそうな呑気な顔をしていた。あれだけ私的な質問をされ、はい、案内してあげます、と言う者がどれくらいいるのか。
ベテランはよしとするかもね。サティラムは絶対に嫌だ。一貫してあの人達は気持ち悪かったから。
「はあ、気持ち悪かった」
誕生日は、とか。どこに住んでいたのか、とか。それ、タクシー運転手に問う言葉じゃない。
(ビューンとトバそう)
気持ちを払拭する為に車を走らせた。
それから五日間は平和だった。問題は六日後。またあの双子の竜人が現れた。どうやって、このタクシーを探し当てているのか考えるだけでも、吐き気がする。
「あの」
その二人は今車の外。なぜなら乗車拒否した。この国のタクシードライバーの法では、問題のある客の乗車を拒否できる。タクシーは、一軒の店舗と似たものなのだ。
問題ありきの客の出入り禁止。この双子はどう見ても問題ありだ。確認の為に警備の会社に録画した映像を見せると心配そうな声音で「私的な質問があきらかに多い」と言われた。
客観的に意見をもらえて、やはり多いよね、と思い出したりしていた。
「あの、乗りたいんですけど、開けてもらってもいいですか」
聞かれたが、客でもないので言葉を告げず無言で発進。彼らはまた置いていかれる!という顔をしてどんどんと窓を叩く。
竜族のパワーにより窓が強めに叩かれた。ヒビが入ったかと思ったけど、ギリギリセーフだ。
「きゃあー!」
いきなりの行為に叫ぶ。こっちは被害者。これで法的にこの面倒な双子を追い払えると内心笑う。
「あ!そ、そんなつもりは、なくて」
どれだけ甘やかされてきたんだ、この男は。警備に連絡して、カメラとその叩く現場を見せ、その場で竜族達は囲まれた。警備の人が公的機関に二人とサティラムを連れて行く。
事情聴取だ。サティラムは理由がわからないが、付きまとわれているかもしれないと、不安を訴える。2回の接触は偶然ではないと、カメラで判断された。
そして、警備、この国で警察機関に該当する彼らの説明が自分に行われた。どうやらあの二人は、サティラムを運命の花嫁だと言い張っているらしい。
(やっぱり。そんなオチか)
残念ながら、サティラムはドアマットヒロインでも、冷遇ヒロインでも、王子を待つ系ヒロインでもない。
独り立ちしたドライバー。運命の花嫁の言葉は自分の人生において、タブー、禁句、鬱陶しい。二度と聞きたくない。
彼らには残念な結果になるが、運命の花嫁というもの自体、疎ましいのだ。でも、無言で去っても着いてこようとするかもしれないという危惧を感じる。
「この国では運命の花嫁に関することで、なにかありますか?私は他国人だったので、ここでの運命の花嫁に関してあまり調べられてないんです」
タクシーの試験や仕事で、花嫁に関することなんて頭の片隅にすらなかった。楽しすぎて、くだらなくて、忌むべき制度なんて忘れていた。失態、というまでではないと思う。運命の花嫁など、己に一番縁遠いものだと思い込んでいた。
例えば結婚、という出来事に例えてみたら結婚など、妹らには近いけどサティラムからすれば、無関係だ。運命の花嫁の言葉はそれくらい無関心。
「そうですね。お互いに任せる。通常の恋人と同様の扱いをされます。しかし、運命の花嫁は片方の執着が強すぎるので拒否をするのなら、近寄らないように警告からそれ以上を適応出来る申請がありますよ」
流石は最先端。と思ったけど、半年ほど経過した時にこの法システムは優しさから来るものではなかったことを知る。
距離を取らねば罰金、または電撃が走り対象者に近づけないという段階があって、竜族は絶対に花嫁を諦めないので自ずとこの国に留まるしかなくなるのだ。
つまりは、竜族という戦力を国内に永遠に留められる。無料の防衛システム。出ていかない。という、国からしても得しかない。
もちろん、花嫁側が拒否していれば段々近寄れない距離が伸びる。
最終的に国境まで適用され、花嫁が住む国が危機に陥れば、側で守れない花嫁にも危機が迫るということなので、国境で食い止める他なくなるわけで。
花嫁が、サティラムが国を出るとなっても損はない。元々国の守りは出来ている。さらに追加で、というあくまで棚から牡丹餅感覚。どちらでもいい、となる。
「私は自動魔導車好きだから、出ていく予定は今のところないけどね」
竜族からの手紙を受け取ったことがある。最初の何度かだけ。その後も送られているらしいが、精神的に嫌になるので送られる前に今は止められている。
手紙では、一度サティラムの生家へ行ったらしい。花嫁はどこにいるのか、というのがわかるらしい。うーん、ないな、ない。
そこへ行くと、最高潮に盛り上がった家族が出迎えて、妹も真ん中に立っていたらしい。まさに物語でいう、いちばんの盛り上がるところ。
しかし、会った瞬間花嫁はどこだという竜族。ここに居るでしょ、と皆が妹をさらに前へ出す。
だが、冷たい目で何を言っているのかと問答を受け、妹は花嫁でもなんでもなかったことが、発覚。聞けば聞くほど、もう一人の双子の姉が花嫁くさい。となれば、姉の捜索が始まる。その時、知るのだ。
長い置き手紙と共に、提出された縁切りの申込受理書。縁者とうそぶいて、居場所を簡単に探せなくなったことを。出奔したサティラムが、居ないと知った家族の反応といえば、上を下への大騒ぎ。
花嫁の件がなければ、静かに居なかったことにされたに違いない。当てつけというか、真実も記した。
気持ちのこもらないプレゼントをありがとう。双子で生まれて、嬉しくない日々を送ったのでもうどうでもいい、好きにすればいい。と思いながらも。運命の花嫁おめでとう、と言葉で祝えないので文字にしておいた。
取り敢えず、この家を己の意思で飛び出したことを、しっかり書いておいた。その後、魔導車でタクシーを続け、広い国を回っている。
「あの店、入ったことないかも。お昼に寄ろう」
もう直ぐ隣国でも、自動魔導車の運用が本格的になると、ニュースで述べていたので、更に行ける範囲が広がるのが今から楽しみで、仕方ない。
手を挙げてタクシーを止める客は、リュックを背にしていた。その彼の目の前で車を止めると、相手はにっこり笑って有名店の雑誌を見せてくる。
「お腹ぺこぺこで。もう歩けないんですよ」
恥ずかしそうに告げてくる男に、こちらまで頬がゆるむ。
「では、急いであなたをお店に届けますね」
男は嬉しそうに頷き、窓から景色を楽しみだす。
彼はどうやらこの国に来たのは初めてらしいので、おすすめの場所を教えた。のちに夫となる者との出会いになるとは、全く予想もしてなかった。
二人の関係はここから始まった。




