プロローグ
『大人になるとは、頭打ちを受け入れることだ』
小学生の頃、担任がそんなことを言っていた。
曰く、歳を重ねることを「成長」と呼ぶのは子供の間だけで、大人になった瞬間にそれは「老化」と言う名前に変わる。
精神面も同じことで、一度「自分はもう成長できない」と諦めてしまえば、後は緩やかに衰えていくだけだ―――との事、らしい。
(………あの頃は、分からなかったけど)
唐突にそのことを思い出したのは、今まさに自分がそうなっているからだろうか。車窓に映る疲れ切った自分の顔を見て、小さく嘆息する。
「………本当に、その通りだな」
呟いても、深夜の電車内には自分に注目する人間など一人もいない。尚更虚しくなって、俺は再び小さな溜め息を吐いた。
―――ガタン、ガタンと電車が不規則に振動する度に、脳がふっと力を失う。
(………あぁ、眠い)
そう言えば、最後に寝たのはいつだっただろう。ここ最近は忙しくて会社に泊まりきりだったから、今が何日経った何曜日なのかも覚えていない。
―――いいか、もう。考えるのも、面倒臭い。
駅に着くまで、少し眠ろう。ちゃんと目が覚めるかは、正直分からないけれど。
今なら、子供みたいに希望しかない夢が見られるような。そんな気がするんだ―――